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河村尚子の美しき疾走 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ・プロジェクト Vol.1@紀尾井ホール 2018.6.1

河村尚子が弾くベートーヴェンのピアノ・ソナタって、どうなんだろうと軽い気持ちで聴きに行くことにしました。で、結果はと言うと、予想以上の演奏内容でした。彼女のよさがすべてその演奏に反映された感があります。その演奏を一言で表現すると、“疾走”です。そもそも、今日演奏されたベートーヴェンの初期のピアノ・ソナタ群を貫く特徴こそ、“疾走”であると思うんです。もちろん、緩徐楽章は決して疾走しませんが、それでもひたむきに前進していく姿勢は一貫しています。若きベートーヴェンの熱き思いが結実した結果こそ、“疾走”のピアノ・ソナタです。その本質を河村尚子が実に見事に表現してくれました。ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」の第1楽章の颯爽とした疾走感には驚嘆しました。また、それ以上にピアノ・ソナタ第7番の第1楽章の“疾走”こそ、今日の演奏の華でした。河村尚子のピアノの切れの良さはいつものことですが、ここまでの疾走感を表現するためには相当の弾き込みを必要としたでしょう。才能と努力がもたらした最高の結果がピアノ・ソナタ第7番の演奏でした。ピアノ・ソナタ第7番は疾走する第1楽章ばかりでなく、嘆きに包まれた第2楽章の哀しい美しさも見事に表現されていました。そして、明るい日差しを感じさせる第3楽章を経て、問いかけをしながら再び疾走していく第4楽章へと高潮して終わります。ベートーヴェンの初期の傑作をこれだけ演奏してくれるとは思っていませんでした。河村尚子の素晴らしい演奏に感銘を受けました。残りの3曲も完成度の高い演奏でした。あまりに有名な「悲愴」と「月光」ですが、それなりの独自性と無理のない演奏で納得感がありました。ピアノ・ソナタ第4番はまさに“疾走”を思わせる見事な演奏。ここまで演奏してくれれば文句ありません。

アンコールの“月の光”はベートーヴェンの音楽とは大きくかけ離れていますが、ピアノ演奏の美を感じさせてくれる柔らかなタッチに魅了されました。

今日のプログラムは以下です。

  <オール・ベートーヴェン・プログラム>

  ピアノ・ソナタ 第4番 変ホ長調 Op.7
  ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 Op.13「悲愴 Pathétique」

   《休憩》

  ピアノ・ソナタ 第7番 二長調 Op. 10-3
  ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 Op. 27-2「月光 Mondschein」

   《アンコール》

    ドビュッシー:『ベルガマスク組曲 Suite bergamasque』より 第3曲 月の光 (Clair de Lune)

最後に予習について、まとめておきます。以下のアンジェラ・ヒューイット(「月光」だけはマリア・ジョアン・ピリス)、マウリツィオ・ポリーニ、アンドラーシュ・シフのCDを聴きました。

 アンジェラ・ヒューイット 2006年頃録音 セッション録音
  「月光」だけはマリア・ジョアン・ピリス 2000、2001年録音 セッション録音
 マウリツィオ・ポリーニ 1991、2003、2012年録音 セッション録音
 アンドラーシュ・シフ 2007年録音

当初、女流ピアニストということで、アンジェラ・ヒューイットとマリア・ジョアン・ピリスだけを聴こうと思っていました。特にアンジェラ・ヒューイットはハイレゾの素晴らしい音で聴くので、楽しみにしていたんです。ところが凄い音ではありますが、ベートーヴェンのピアノ・ソナタとしてはかなり違和感を覚えました。急遽、マウリツィオ・ポリーニのハイレゾを聴き、さすがにこれは満足しました。最後にアンドラーシュ・シフも追加で聴きました。正直、これには圧倒されました。美しい音と最高の表現・・・これ以上の演奏はないでしょう。しかし、こんなものを予習すると、本番でどんなものを聴いても不満を覚えるのではと危惧しました。しかし、河村尚子は彼女なりの納得の演奏を聴かせてくれました。よかった、よかった・・・。



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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

       河村尚子,

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たまには、旅ブログも書きます。

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