ピアニッシモが心に沁みるブラームスのピアノ協奏曲・・・アヴデーエワ&フルシャ&バンベルク交響楽団@サントリーホール 2018.6.26
長大な第1楽章のどのパッセージも魅惑的な演奏で、そのロマンティックさときたら、これまで聴いたことがない素晴らしさ。かと言って、メロー過ぎるわけではなく、若き日のブラームスの音楽の枠にきっちりと収まっています。その美しさの極みのようなピアノにぴったりとオーケストラパートを寄り添わせるヤクブ・フルシャの指揮も見事です。バンベルク交響楽団はこれまで色んな事情があって、生で聴くのは多分、今日が初めてのような気がします。ブロムシュテットとのブルックナーの印象が強いせいか、ドイツ的な重心の低い響きを予想しましたが、モダンで美しい響きなのでびっくりです。次第に3者の息がぴったりと合ってきて、えもいわれぬブラームスのロマンティックな音楽が展開されます。いつもはこの曲はシュトルム・ウント・ドランクを思わせる強烈さと勢いを感じさせられますが、アヴデーエワが主導するロマンの香りの高い音楽で違う曲を聴いているように感じます。こんなに美しい第1楽章は初めて聴きました。そして、第2楽章に入ります。アヴデーエワの繊細さを極めつくしたようなピアニッシモの微妙な響きにただただ魅了されます。そのアヴデーエワのピアニッシモ以上に、フルシャはバンベルク響から抑えたピアニッシモの極みのような、かすかに聴こえるか、聴こえないような極上の響きを引き出します。音楽の美しさはピアニッシモにこそあると言ったのは故吉田秀和氏だったでしょうか。彼はそのピアニッシモをウィーン風と表現していました。ピアニッシモの競演が続く第2楽章は祈りの音楽というよりも、ブラームスのロベルト・シューマンへの哀悼の気持ちだけでなく、悲しみにくれるクララ・シューマンへの密やかな思いがやるせなく詰め込まれた愛情表現のように感じてしまいます。アヴデーエワはきっと、そんな風にピアノを弾いていたんではないかしら。第3楽章に入っても、この素晴らしかった第2楽章との心の切り換えができません。それはアヴデーエワも同じではなかったんでしょうか。第3楽章も半ばになって、ようやく、ノリの良い音楽にスイッチがはいります。ピアノとオーケストラが一緒になって、推進力のある音楽を展開していきます。フィナーレはピアノとオーケストラのかけあいが圧巻でした。
期待はしていましたが、アヴデーエワがここまでブラームスを弾きこなすとは思っていませんでした。素晴らしいブラームスが聴けました。先週も同じ曲を聴きましたが、完成度も音楽性もまるで比べ物になりません。現在、saraiの中ではピアノの3強はアンドラーシュ・シフ、田部京子、アンジェラ・ヒューイットですが、アヴデーエワも肉薄しています。来春、待ちに待ったアヴデーエワの来日ピアノ・リサイタルがあるとのこと。聴き逃がせません。そうそう、アヴデーエワがアンコールで弾いたバッハのイギリス組曲、とっても凄かった! こんなノリでバッハを弾けるのはアンデルジェフスキーくらいですが、さらに魅惑的です。アヴデーエワもどんどんレパートリーが広がりますね。
後半のドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」ですが、以前、フルシャがそのときの手兵だったプラハ・フィルと演奏したコンサートを聴いたことが思い出されます。今日のバンベルク響とはオーケストラのアンサンブル力が比べ物になりませんが、プラハ・フィルは何と言うか、ひたむきさがありました。音楽を超える何かです。今日のバンベルク交響楽団も素晴らしい演奏でしたが、まだ、フルシャがドライブしきれていないようにも感じました。ただ、今日のsaraiは体調があまりよくなくて、前半のブラームスで体力を使い果たして、後半は集中力の切れた状態でした。これ以上の感想は明後日に横浜みなとみらいホールで第8番、第9番を聴いた後で書くことにします。ところで今日の第2楽章冒頭でのイングリッシュ・ホルンの見事な独奏は若い日本人女性でしたね。あれは誰?
アンコールは予期したスラヴ舞曲ではなく、ハンガリー舞曲。今日演奏されたオーケストラ版のドヴォルザークの編曲したものかな? だから、ドヴォルザークの交響曲の後でアンコール曲にしたのかしら。
今日のプログラムは以下のとおりでした。
指揮:ヤクブ・フルシャ
ピアノ:ユリアンナ・アヴデーエワ
管弦楽:バンベルク交響楽団
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 Op.15
《アンコール》
J.S.バッハ:イギリス組曲第2番 イ短調 BWV807より第5曲ブーレ(ピアノ・アンコール)
《休憩》
ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 Op.95 「新世界より」
《アンコール》
ブラームス:ハンガリー舞曲第17番 嬰ヘ短調
ブラームス:ハンガリー舞曲第21番 ホ短調 – ホ長調
最後に予習について、まとめておきます。
ブラームスのピアノ協奏曲第1番を予習したCDは以下です。
エレーヌ・グリモー、クルト・ザンデルリンク指揮シュターツカペレ・ベルリン 1997年 ベルリン、シャウシュピールハウス ライヴ録音
エミール・ギレリス、オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・フィル 1972年
グリモー盤はハイレゾで、ギレリス盤はLPレコードで聴きました。演奏は悪くはないですが、満足もしていません。今日のアヴデーエワの演奏が上回ります
ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」を予習したCDは明後日の横浜みなとみらいホールでのコンサートの記事でまとめてご紹介します。
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