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大地とともに生きる フェドセーエフの渾身のメッセージ ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 NHK交響楽団@宮崎芸術劇場 2018.7.10

ショスタコーヴィチの交響曲第5番は巨匠フェドセーエフの凄まじいばかりの指揮に圧倒されました。ロシア伝統の美しい響きに満ちたショスタコーヴィチに加え、考え抜かれたメッセージ性の強い音楽は聴衆の心に訴えかけてくるものがあります。とりわけ、フォルテッシモの圧倒的な響きの中にフェドセーエフがこの曲に込めた思いが我々の心に伝わってきます。そもそも、このショスタコーヴィチの交響曲第5番はその誕生以来、数々の解釈がなされてきたことが知られていますから、名匠フェドセーエフは深い思慮をめぐらせて、この曲の演奏に臨んだに違いありません。その指揮者の思いを実際の演奏を通して、我々、聴衆がどう感じ取っていくのかというのが、ライヴのコンサートの醍醐味です。音楽によって演奏家と聴衆の間のコミュニケーションが成り立つのがコンサートの場ですが、フェドセーエフの場合は特にそれが顕著です。フェドセーエフが優れた音楽家である証しでもあります。

第1楽章はジャジャーン(上昇音型)、ジャジャーン(下降音型)の有名な旋律で幕を開けますが、静謐とも思える美しい響きの連続で音楽が進行していきます。このあたりは、ムラヴィンスキー以来のロシアの指揮者に見られる伝統的なスタイルに思えます。いきり立つこともなく、じっくりと大地に根付いたようなひたむきさが感じられます。しかし、終盤に向けては激しい高揚感に満ちた音楽に上り詰めていきます。正直、この時点では、音楽が持つメッセージ性を今一つ理解できません。ただ、音楽の持つ、途轍もないエネルギーに翻弄されるのみです。フェドセーエフがドライブするN響のアンサンブルは実に安定しています。終盤はかなり高速で飛ばしますが、アンサンブルはびくともしません。ただ、読響や都響のような繊細さ、緻密さでは一歩劣っているようにも感じますが、その代わり、トータルな強靭さでは1枚上かもしれません。

第2楽章は豊かな響きで音楽が進行して、愉悦に満ちた表現が印象的です。まあ、つなぎの楽章でしょうか。

第3楽章は静かにゆっくりした展開で音楽が始まり、聴衆の耳はぐっと演奏に惹き付けられます。次第に音楽が深みを増していき、saraiも集中度を高めていきます。冒頭は祈りや哀しみがないまぜになったような沈んだ雰囲気ですが、途中からはそんな短絡的な感情を超えて、大地のような茫洋とした自然と一体化した雰囲気に変容していきます。そして、その大地から湧き起こるような強烈なエネルギーが爆発します。その爆発が収まると、今度は大地からの香気がゆらぎ上ってきます。マーラーとは少し違った表現で自然と人間の一体化を味わうことができますが、マーラーよりも大地の豊かさと広大さが感じられて、そこに生きる人間はとても小さな存在です。ここに至り、フェドセーエフがこの曲に込めた思いが伝わってきます。小さな存在である人間が強大なエネルギーや豊かな香気に包まれた大地と共生して、強く生き抜いていく、あるいは強く生き抜いていってほしいというメッセージです。政治に翻弄されたショスタコーヴィチですが、もしかしたら、このフェドセーエフのメッセージのように、政治や表面的な社会的な出来事を超越して、自然とともに強く生き抜いていく人間の在り方をこの音楽で表現したのかもしれません。別に音楽の謎解きをしているわけではありません。あくまでも純粋な音楽の美しさ、強さを色んな感情を抱きつつ、味わっているんです。素晴らしい第3楽章に心が打ち震えます。

第4楽章は第3楽章からパウゼなしに続きます。強烈なティンパニの連打を伴いながら、輝かしい音楽が始まります。昔から、イデオロギーの勝利とか、人間の勝利とか、その解釈がうんぬんされる部分ですが、フェドセーエフの音楽は第3楽章からの連続で聴くと、大地とともにある人間が大地を踏みしめながら、強く生き抜いていく、あるいは生き抜いていけという応援メッセージに思えます。人生、いろんな苦難があっても、母なる地球という大自然とともにともかく生き抜いていくという大テーマです。音楽は表情を変えながら、最後は人間と自然の一体化というテーマに収れんしながら、大団円を迎えます。フェドセーエフの渾身の音楽を感動の心を持って、受け止めました。

素晴らしい音楽、演奏でした。フェドセーエフの指揮を音楽として結実させたN響の演奏も素晴らしかったです。少々のアンサンブルの問題もありますが、フェドセーエフの思いをこれだけの音楽に昇華させた音楽力は称賛しないわけにはいかないでしょう。

あっ、前半のプログラムに触れませんでしたね。ヴァシリエヴァのチャイコフスキーのロココ風の主題による変奏曲、なかなかの好演でした。ですが、演奏が良ければ良いほど、曲の単調さ・シンプルさに正直、飽きがきてしまいます。美しい曲ですが、毒がなさ過ぎの感があります。ヴァシリエヴァ、別の曲で聴いてみたいものです。

最後にですが、実はN響は前回いつ聴いたか思い出せません。久しぶりに聴きました。昔聴いたときの印象よりもよい感じではありました。でも、やはり、読響や都響の弦のほうが好みというのが正直な感想です。今日はあくまでも巨匠フェドセーエフの音楽でした。

プログラムは以下です。

  指揮:ウラディーミル・フェドセーエフ
  チェロ:タチアナ・ヴァシリエヴァ
  管弦楽:NHK交響楽団 

  西日本豪雨被害へのお見舞い~
  チャイコフスキー:組曲第4番『モーツァルティアーナ』より、第3曲「祈り」(Preghiera.) Andante non tanto 変ロ長調

  ムソルグスキー(リムスキー・コルサコフ編):交響詩「はげ山の一夜」
  チャイコフスキー:ロココ風の主題による変奏曲 Op.33

   《休憩》

  ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 ニ短調 Op.47


そうそう、アンコールはなかったんです。最後のショスタコーヴィチの後で変なアンコールはいりませんが、ないのも寂しいですね。普通はこういうツアーならば、やるんじゃないんでしょうか。チャイコフスキーの弦楽セレナードくらいはどうだったんでしょう。
でも、冒頭に西日本豪雨被害へのお見舞いのために、チャイコフスキーの組曲第4番から第3曲「祈り」が演奏されました。どこかで聴いたメロディーだと思ったら、モーツァルトのモテット『アヴェ・ヴェルム・コルプス』K.618が原曲だったんですね。これがアンコールの代わりだったのかな。

最後に予習について、まとめておきます。

チャイコフスキーのロココ風の主題による変奏曲を予習したCDは以下です。

  ロストロポーヴィチ、カラヤン指揮ベルリン・フィル 1968年9月 ベルリン、イエス・キリスト教会

何も文句ありません。美しい演奏ですね。

ショスタコーヴィチの交響曲第5番を予習したCDは以下です。

 レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィル 1959年
 ヴァレリー・ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管弦楽団 2012年、ロシア、サンクトペテルブルク、マリインスキー劇場コンサートホール ハイレゾ

バーンスタイン盤はsaraiが高校生のときにLPが擦り切れるほど、繰り返し聴いていた録音。勢いがあって、啓蒙的ですが、今となっては音質も音楽表現も古過ぎるかもしれません。やはり、ムラヴィンスキー盤が決定盤かもしれませんが、これも聴き過ぎた感があります。最新のゲルギエフの新盤はとても熟成した音楽表現です。熱さと勢いがもう一つかもしれませんが、現代における決定盤の一つでしょう。



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