今年のザルツブルク音楽祭の最大の話題の公演、クルレンツィス&ムジカエテルナのベートーヴェン/交響曲第9番は古典回帰の疾風怒濤@フェルゼンライトシューレ 2018.8.15
どんな演奏になるか、予想もつかないと思いましたが、結局はほぼ予想通りの演奏でした。オリジナル楽器(コピーも含む)オーケストラによる演奏は歯切れがよい高速演奏で、従来型のモダン楽器による演奏はロマン過多に思えてしまいます。楽器だけの違いではなく、作曲当時に立ち返った歴史的スタイルの演奏になります。もちろん、ベートーヴェンの時代の演奏が正確にどうだったのかは知る由もありませんが、要はそうだったのかと信じさせる力が演奏者にあるかどうかです。天才の呼び声高いクルレンツィスは実に説得力のある演奏をします。
まずはそのテンポの勢いに圧倒されます。一気果敢に押しまくります。テンポも速いし、粘りもありませんから、いつも聴いているベートーヴェンとはまったく異なる色合いになります。良いところは無駄な思い入れを排した推進力です。前へ前へと突き進んでいきます。心のどこかで、これでは潤いに欠けると思うところもありますが、クルレンツィスのような確信犯には歯がたちません。唖然として聴くだけです。しかし、これは予想していた範囲内です。予習したインマゼール指揮アニマ・エテルナも同じスタイルで全曲を1時間を少し超えるくらいで演奏します。多分、今日のクルレンツィスも同じくらいの速さだったでしょう。
もちろん、オーケストラはいつもの立ったスタイルです。意外だったのは、クルレンツィスの体の揺れとオーケストラ奏者の体の揺れが必ずしも同期していないことです。ベートーヴェンだからでしょうか。
音楽的な部分について言うと、現在、我々が聴いているベートーヴェンはロマン的な演奏で、クルレンツィスの演奏は古典的なスタイルを目指しており、疾風怒涛を思わせる演奏です。すっきりしてスマートですが、繊細な感情の機微というのはほとんど感じられません。似た傾向としてはかってのカルロス・クライバーがいますが、カルロス・クライバーがスポーツカーだとすれば、クルレンツィスはクラシックな複葉機でしょうか。両者とも爽快感や無駄な贅肉をそぎ落とした感覚があり、演奏に感銘は覚えますが、感動には至りません。それがよいことか、悪いことか、聴くものの価値観に委ねられます。また、曲にも依るかもしれませんね。ベートーヴェンの交響曲第9番はフルトヴェングラーの演奏で圧倒的な感動を知ってしまいました。フルトヴェングラーとクルレンツィスを比較しても意味はありませんが、クルレンツィスもこの新しいアプローチで感動に至る道を模索してもらいたいと念じてしまいます。彼のその無限の才能を持ってすれば、きっと可能でしょう。
演奏が終わった後、フェルゼンライトシューレの会場は沸きに沸きましたが、saraiは妙に冷静になって、クラシック音楽のこれからの進む道について、考え込んでしまいました。saraiは古い人間です。決して、フルトヴェングラーから足を洗うことはありません。
一方、数時間前に聴いたウィリアム・クリスティが示した古楽の無限の可能性も知ってしまいました。クラシック音楽も道を模索しながら、新しい未来を切り拓いていくのだろうという予感は持ちました。saraiが生きている内にその道は示されるのでしょうか。
今日の演奏の具体的な内容にはほとんど触れませんでしたが、2点だけ、触れておきます。まず、クルレンツィスの指揮の姿が魅力的なことです。こういう指揮者はカルロス・クライバー以来です。彼の指揮を見ながら音楽を聴くと音楽の説得力が増します。2つ目はペルミ歌劇場ムジカエテルナ合唱団の素晴らしかったことです。人間の声はもともとオリジナル楽器ですから、どんなスタイルでもよいものはよいですね。彼らの合唱でもう少しで感動しそうになりました。
今日のプログラムは以下です。
指揮:テオドール・クルレンツィス
ソプラノ:ジャナイ・ブラッガー
コントラルト:エリザベート・クールマン
テノール:セバスティアン・コールヘップ
バス:ミヒャエル・ナジ
合唱:ペルミ歌劇場ムジカエテルナ合唱団
管弦楽:ムジカエテルナ
ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調Op.125
予習したCDは以下です。
ジョス・ファン・インマゼール指揮アニマ・エテルナ
Marie-Noëlle de Callataÿ, Myra Kroese, Glenn Siebert, Ulf Bästlein
1999年5月、アントウェルペンでの録音
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