fc2ブログ
 
  

ティーレマンの《パルジファル》、デノケも最高@ウィーン国立歌劇場 2012.4.8

かなり期待して臨んだ復活祭の日曜日に上演するワーグナー舞台神聖祝典劇《パルジファル》でしたが、恐ろしく思えるほどに磨き上げられた演奏にただただ感動するのみでした。それにしても、主役は指揮者のティーレマンに間違いありません。オペラで指揮者が主役だったのはこれまでsaraiにはカルロス・クライバーの《薔薇の騎士》しかありませんでした。ティーレマンは当地では絶大な人気を誇りますが、その実力たるや、底知れない感じで、指揮する姿だけ見ていても、クライバーとは別の意味で魅了されるものがあります。
今夜のティーレマンは神が乗り移ったような指揮で、あくまでもsaraiの素人としての感想では、世に名高い1962年のバイロイトでのクナッパーツブッシュの演奏にも匹敵するものでした(クナッパーツブッシュファンの皆さん、恐れ多いことを言ってごめんなさい)。まさに今夜はティーレマンの《パルジファル》でした。
第3幕は舞台からつい目が離れ、ティーレマンの指揮する姿に釘づけといった感でした。
もちろん、ウィーン国立歌劇場のオーケストラ(実質、ウィーン・フィルです。当夜もコンサートマスターはライナー・キュッヒル、その横はダナイロヴァと豪華な顔ぶれ)という名器あればこそ、ティーレマンも縦横にその力を発揮できたわけです。歌手陣も充実していましたが、何といってもクンドリー役のアンゲラ・デノケの澄みきった声の素晴らしさはうっとりと聴き惚れるしかないものでした。演技も聖俗すべてをあわせ持つ難しい役どころを見事にこなし、体当たり的とも思えるヌードまで披露してくれる大サービス。saraiも男性の一人として、脱帽するのみです。もちろん、彼女はソプラノなので、声域的に低音が苦しい部分もありましたが、逆に高音域の清らかな声は次第に聖化していく女性像を美しく表現していました。特に第2幕の長いモノローグ、パルジファルとの絡みなどはこれまでのクンドリー役としては最高の出来栄えに思えました。ワルトラウト・マイヤーが現在、最高のクンドリー役として評価されていますが、清らかさへの昇華という観点からデノケに軍配を上げたい気持ちです。

今日のキャストは以下です。

 指揮:クリスティアン・ティーレマン
 演出:クリスティーネ:ミーリッツ
 管弦楽:ウィーン国立歌劇場管弦楽団
 アンフォルタス:ファルク・シュトルックマン
 ティトゥレル:アンデレアス・ヘール
 グルネマンツ:クァンチュル・ヨーン
 パルジファル:サイモン・オニール
 クリングゾル:ヴォルフガング・バンクル
 クンドリー:アンゲラ・デノケ

saraiと配偶者の陣取った席は平土間の前から4列目の中央右寄りという好位置。間近にティーレマンの姿も見えます。
まず、第1幕への前奏曲が始まります。何と厳かで宗教的とも思える演奏でしょう。オーケストラの柔らかく美しい響きで空間が満たされます。こちらも厳粛な面持で緊張感いっぱいです。やがて、祈りのような音楽の果てに幕を透かせてステージが見えてきます。そして、幕が上がります。グルネマンツ役のヨーンが歌い始めますが、なかなかの美声で意外な驚きです。表現力もあり、素晴らしいバリトンです。グルネマンツは言わば、狂言回しのような役どころでとても重要な押さえどころですが、十分、満足して聴けました。うっとりと聴き入ることもしばしばでした。すぐにクンドリー役のデノケも登場。頭の頭巾も含め足首まで黒づくめの衣装です。第1幕では、美声を少し聴かせてもらう程度で、お楽しみは第2幕です。次いで、アンフォルタス役のシュトルックマンの登場。彼の実力からすれば、このあたりではまだまだ抑えた歌唱ですが、ベテランらしく、そつなくこなしていました。そして、タイトルロールのパルジファル役のオニールです。多分、初めて聴くテノールですが、パルジファルにしては明るい声でイメージが違います。ただ、このあたりではパルジファルは悟りにいたっていないので、少し、能天気っぽいのもよいのでしょう。事実、第2幕後半の聖人に昇華するあたりでは、実に熱っぽい歌唱に変化していました。最強のパルジファルではありませんが、十分満足できるパルジファルであると言えます。第1幕終盤の聖杯の場面はさすがにウィーン国立歌劇場の合唱が響き渡り、素晴らしいものでした。ただ、女声合唱が舞台裏(下?)からなので、もうひとつ弱かったかなという印象です。事実、舞台がリフトアップされて、下から女性及び少年合唱が登場するとなかなかの響きでした。演出上の問題もありますが、音楽最優先がsaraiの好みです。
長大な第1幕も緊張感をきらすことなく聴き通せたのは、いかに素晴らしい音楽が展開されたかの証しでしょう。幕があり、ぱらぱらと拍手が起きましたが、ウィーンやバイロイトでは第1幕後は現在でも拍手は慣例として禁止です。シーッという観客の声で拍手も止みました。ここで休憩。

休憩中、念願のウィーン国立歌劇場のネクタイをゲット。これで楽友協会とここへは専用のネクタイでこれから通うことになります。

第2幕は怪人クリングゾル役のバンクルの登場です。実に素晴らしい歌唱を聴かせてくれました。第2幕だけの登場ではもったいないほどの素晴らしさでした。続いて、デノケが胸をはだけた体当たり的な衣装で登場。ぎょっとします。しかし、その歌声は人間の生の声、苦悩する人間の弱さ・強さを見事に表現していました。続いては花の乙女たちの登場。ミラーボールが回り出したのには苦笑しましたが、実に妖艶な雰囲気が醸し出されて、なかなよい演出でしょう。また、この場面は続くパルジファルとクンドリーの葛藤と昇華への導火線にもなっており、必然性が感じられました。ということで、クンドリー役のデノケが再登場して、いよいよ音楽は最高潮に達していきます。デノケの歌声の素晴らしさ。何を語っているのなんか、saraiにはどうでもよい感じ。ただただ、彼女の透き通った声の響きにひたっているだけで幸福感に包まれます。さらにその歌声に呼応すかのように、新しく生まれ変わったともいえるパルジファル、すなわちオニールの熱のこもった歌声が響き渡ります。彼らの聖人対俗人の対決、愛の葛藤、聖人への昇華、もう、凄まじい歌声で響き渡る中、saraiはもう感動の嵐です。ティーレマンの率いるオーケストラも負けじと美しい響きを奏でます。これこそ、最高のワーグナーです。第2幕が終わったとき、もうsaraiはこのまま帰っても満足という感じでした。ここでまた休憩。

第3幕は冒頭に書いた通り、もう、ティーレマンの独り舞台。なんという素晴らしい指揮でしょう。座って指揮していますが、ときおり、ここぞという時に立ち上がり、オーケストラを鼓舞しますが、そのスケールの大きな演奏には圧倒され、もうひれ伏すだけです。ものすごい指揮です。というわけで第3幕は舞台は半分も見ていなかったかもしれません。ただただ、ティーレマンの指揮の素晴らしさ、その作り出す音楽の美しさ、重厚さ、強靭さ、もう表現は難しいですが、なるほど、これがワーグナー音楽の頂点だということは理屈抜きで体感しました。フィナーレの神々しさには参りました。
満場総立ちでティーレマンに怒号の声援です。ティーレマンに初めて、ワーグナー音楽の奥義を教えられた思いです。
それにしても、ウィーンでのティーレマンの人気は凄まじいものでした。実力あってのことですね。今回の旅では最後にティーレマン指揮のウィーン・フィルのコンサートを2回も聴きます。ますます、楽しみです。


↓ saraiのブログを応援してくれるかたはポチっとクリックしてsaraiを元気づけてね

 いいね!



関連記事

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

       ティーレマン,        デノケ,

コメントの投稿

非公開コメント

人気ランキング投票、よろしくね
ページ移動
プロフィール

sarai

Author:sarai
首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
たまには、旅ブログも書きます。

来訪者カウンター
CalendArchive
最新記事
カテゴリ
指揮者

ソプラノ

ピアニスト

ヴァイオリン

室内楽

演奏団体

リンク
Comment Balloon

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

もろともにあはれとおもへ山ざくら 花よりほか

通りすがりさん

コメント、ありがとうございます。正直、もう2年ほど前のコンサートなので、詳細は覚えておらず、自分の文章を信じるしかないのですが、生演奏とテレビで

05/13 23:47 sarai
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR