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庄司紗矢香、気魄のシベリウス・・サンクトペテルブルク・フィル@サントリーホール 2018.11.12

庄司紗矢香、満を持してのシベリウス。音楽と言うか、気合というか、人間の心のありったけをぶつけるような魂の叫びです。庄司紗矢香の成長は音楽家というよりも人間としての成長のようです。シベリウスの音楽を用いて、彼女自身の魂の高揚感を我々、聴衆に投げかけてきます。こちらもそのボールをしっかりと受け止めていきましょう。シベリウスを聴いているのか、あるいはバッハの無伴奏を聴いているのか、自分でも一瞬、分からなくなるような、厳しくも時にロマンあふれる演奏です。庄司紗矢香がこれまでの音楽人生で培ってきたものをすべて表現しているような気がします。凄い日本人音楽家になったものです。第1楽章の半ばに至ると、彼女の気魄に圧倒されて、感動の涙が滲んできます。こういうレベルのシベリウスを実演で聴かされるとは思っていませんでした。ところで、彼女のヴァイオリンの響きはきちんと聴こえてきますが、オーケストラの音は弱い響きでしか聴こえてきません。これでは協奏曲ではなくて、まるでオーケストラ伴奏付きのヴァイオリン幻想曲みたいです。本来、指揮するはずのテミルカーノフくらいの巨匠でないと、今日の庄司紗矢香を受けて立つことはできませんね。代演のニコライ・アレクセーエフは遠慮しながらの抑えた指揮のようです。それだけが残念ですが、逆に言えば、オーケストラの音に邪魔されないで、庄司紗矢香のヴァイオリンをたっぷりと味わうことができます。やがて、凄いレベルの演奏が続いた第1楽章が終わりました。実演では昔、ヒラリー・ハーンのパーフェクトな素晴らしい演奏を聴いたことがありますが、いまや、庄司紗矢香はそのレベルを大きく超えました。彼女は素晴らしい音楽家になりましたね。私見ですが、今、少なくともこのシベリウスの演奏で彼女に肩を並べることができるのは、リサ・バティアシュヴィリくらいなものでしょう。庄司紗矢香の禁欲的で気魄のこもった演奏に対して、バティアシュヴィリは熱いロマンの香り立つセクシーな演奏で魅了してくれます。タイプが異なりますが、いずれも世界の頂点にたつ演奏です。こうなると二人の演奏でチャイコフスキーの聴き比べをしてみたいですね。今日の演奏に話を戻します。第2楽章は一転して、静謐な演奏に変わります。しかし、後半はまた、気魄に満ちた演奏に高揚します。第3楽章はメリハリをつけて、ダイナミックな演奏です。コーダでの気魄は何ものをも圧倒する渾身の演奏です。身震いをおぼえるほどの素晴らしさに感動するのみです。超絶的で凄い演奏でした。今の彼女は何を弾かせても、向かうところ敵なしといった風情です。彼女の演奏をずっと聴き続けてきましたが、この10数年の音楽的・人間的成長は想像を超えるものでした。
ヴァイオリンの庄司紗矢香、ピアノの田部京子を聴いていれば、saraiのヨーロッパ遠征は不要とも思えます。あっ、それにノット指揮東響、ロータスカルテットという強力な団体もいます。できれば、彼らがコラボしてくれればなあ・・・。

後半はラフマニノフの交響曲第2番。これは予想外に素晴らしい演奏でした。今年はユーリ・テミルカーノフ指揮読売日本交響楽団、ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団と凄いラフマニノフの交響曲第2番を聴きましたが、今日の演奏はロシアのオーケストラならではの演奏です。テミルカーノフはこの曲をラフマニノフの《ロシアの憂愁》と呼んでいるそうですが、saraiの言葉では《どうしようもないやるせなさ》になります。これは日本のオケではなかなか表現できません。今日のサンクトペテルブルク・フィルは第1楽章と第3楽章でこの《どうしようもないやるせなさ》を感じさせてくれました。代演のニコライ・アレクセーエフもテミルカーノフの路線を引き継いで、見事な指揮を聴かせてくれました。総合力では、ノット指揮東響のオーケストラ演奏の極致とも思える演奏が最高でしたが、ラフマニノフの真正の音楽と言う点では、今日のロシア人たちの演奏が見事でした。分厚い低弦の響きが印象的でした。これぞ、サンクトペテルブルク・フィルです。これに匹敵できるのはロイヤル・コンセルトヘボウ管くらいです。いずれも大男(+大女)たちの集団ですからね。

素晴らしいコンサートでした。そうそう、庄司紗矢香のアンコールですが、チェブラーシカより誕生日の歌ということで、あとひと月で80歳を迎えるテミルカーノフへのプレゼントだったのかな。この場に彼がいなくて、残念です。また、庄司紗矢香とテミルカーノフという最高の名コンビの演奏を聴きたいものです。テミルカーノフのご健康が回復することを願っています。

今日のプログラムは以下のとおりです。

  指揮:ニコライ・アレクセーエフ(ユーリ・テミルカーノフの代演)
  ヴァイオリン:庄司紗矢香
  管弦楽:サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団

  シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 Op.47
   《アンコール》 チェブラーシカより誕生日の歌

   《休憩》

  ラフマニノフ:交響曲第2番 ホ短調 Op.27
   《アンコール》 チャイコフスキー:『くるみ割り人形』より「トレパック」


最後に予習について、まとめておきます。

シベリウスのヴァイオリン協奏曲を予習したCDは以下です。

  リサ・バティアシュヴィリ、ダニエル・バレンボイム指揮シュターツカペレ・ベルリン 2016年7月 ベルリン

これまでのマイ・ベストはヒラリー・ハーンの演奏でしたが、このバティアシュヴィリの演奏を聴いて、これからはこれがマイ・ベストに変わりました。素晴らしく熱のこもった演奏ですし、彼女の演奏の特徴である色っぽさがあり、とても魅惑されます。とりわけ、これほどの高揚感のある第1楽章は聴いたことがありません。


ラフマニノフの交響曲第2番は今年になって、2回も実演を聴き、もう予習は十分でしょう。以前、予習した際の記事を以下に転載します。

-----------------------------------------------ユーリ・テミルカーノフ指揮読売日本交響楽団を聴いた際の予習

 アンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団 1973年
 ウラディミール・アシュケナージ指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1981年
 エフゲニ・スヴェトラーノフ指揮ロシア国立交響楽団 1995年

こういうことを言うと、本当のラフマニノフ好きの方には叱られそうですが、この曲とかピアノ協奏曲第2番とかはそれなりに甘い調べを聴かせてくれる演奏が好みです。そういう面ではアシュケナージは失格。意外にスヴェトラーノフが甘い音楽を聴かせてくれます。とりわけ、第3楽章はしびれます。録音も最高です。甘さも熱さも兼ね備えて聴きやすいのはプレヴィンです。彼の聴かせ上手ぶりは無類のものです。特にこういう曲は素晴らしいですね。古い録音ですが、SACDで音の輝きが際立つようになりました。

-----------------------------------------------ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団を聴いた際の予習

  マリス・ヤンソンス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2010年1月 アムステルダム・コンセルトヘボウ ライヴ録音

ヤンソンスの3度目の最新録音です。1986年にフィルハーモニア管と、1993年にサンクトペテルブルグ・フィルと録音しています。この録音はハイレゾで素晴らしい音質で、よい演奏ではありますが、贅沢を言わせてもらうと、ちょっと退屈な感もあります。

-----------------------------------------------引用終わり

実は今回もゲルギエフ指揮ロンドン交響楽団の演奏を聴く準備はしていましたが、バタバタしているうちに聴き損ねました。いつか聴いてみましょう。



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07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

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06/18 08:33 五十棲郁子

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