神のごときティーレマン、圧倒的なブルックナー!シュターツカペレ・ドレスデン@サントリーホール 2012.10.26
今日のプログラムは以下です。
指揮:クリツティアン・ティーレマン
管弦楽:シュターツカペレ・ドレスデン
ワーグナー:楽劇《トリスタンとイゾルデ》より、“前奏曲”と“愛の死”
《休憩》
ブルックナー:交響曲第7番ホ長調
《アンコール》なし
まず、ワーグナーの楽劇《トリスタンとイゾルデ》です。楽劇の冒頭に演奏される“前奏曲”と最後の第3幕の最後に演奏される“愛の死”です。つまり、楽劇のまんなかをすっぽり、外して最初の10分と最後の6分ほどに超圧縮した演奏です。これがワーグナー自身が最初に楽劇《トリスタンとイゾルデ》を公開演奏したスタイルでした。全体で4時間かかる大きな楽劇はなかなか演奏される機会がなかったんですね。そういうわけで、今でもコンサートで取り上げられることが多いです。
最初は“前奏曲”から始まります。静かに下降音型が鳴り始め、底でいわゆるトリスタン和音、そして、上昇音型。これが2回繰り返されます。もう、この時点で完璧な《トリスタンとイゾルデ》になっています。予習したクライバー+シュターツカペレ・ドレスデンの演奏と双子かと見紛うばかりの素晴らしい演奏。クライバー亡き後、この《トリスタンとイゾルデ》を振れるのはティーレマンを置いて、ほかはないと確信させる演奏が続きます。熱を帯びた瞑想のなかで繰り広げられる甘美な愛情と甘美な死。《パルジファル》と並ぶワーグナーの傑作を完璧に演奏します。聴集は夢のような世界に誘われます。いずれ、ティーレマンの指揮で楽劇《トリスタンとイゾルデ》を聴かないと、この世を去ることはできません。最後は静かにイゾルデの死で曲を閉じますが、音楽は永遠の闇のなかに続いていきます。名演でした。
休憩中、今年、ウィーン楽友協会でティーレマン指揮ウィーン・フィルでシューマンの第4番を一緒に2度も聴いた女性と半年ぶりの再会。ティーレマンのパーフェクトな演奏を讃え合います。
休憩後、いよいよ、ブルックナーの交響曲第7番です。ブルックナー開始といわれる弦のさざ波のなか、低弦の美しい旋律がたっぷりと歌われます。弦のユニゾンが多く、シュターツカペレ・ドレスデンの弦の響きに耳を奪われます。低弦は深い精神性を感じさせます。美しくきらめく高音弦は清らかでピュアーな精神を感じさせます。実に精神性に満ちた音楽が展開されます。これがブルックナーです。チェリビダッケではありませんが、ブルックナーは美しく、それもとびっきり美しく演奏されなければなりません。それがここに実現されており、saraiは充足感に浸っています。この美しい世界が延々と続きます。いつまでたっても第1楽章は続いていきます。これもブルックナーの世界です。ただ、退屈することはありません。真正のブルックナーの音楽の深い精神に包み込まれているんですからね。それでも頂点を極めて、第1楽章は終了しました。
次は一番の楽しみである第2楽章です。管楽器で主題が提示された後、弦楽器がこの上もない演奏を繰り広げます。美の極致がまさに永遠に続きます。やがて、後半にはいり、第1ヴァイオリンの上昇音型が始まります。例えようもなく、美しいです。この部分を美しく表現できるのはヨッフムとチェリビダッケしかいませんでした。そして、ティーレマンはそれを凌駕するかのような演奏です。上昇音型が頂点に達し、下降音型に変わります。そして、音楽はさらなる高みを目指し、高揚していきます。その頂点でシンバルの一撃! 最後は静かに消えるように第2楽章が終わりました。通常の交響曲ならば、もう、このあたりで終わってもいいくらい。第3楽章はまさにティーレマンが豪腕で剛速球を投げ込んできます。力んでいるわけではないのに、高揚した音楽でインスパイアーされます。一転、中間部はまた静かな瞑想的な音楽となります。豪腕ですが、しなやかな感性も併せ持ち、流麗な音楽を展開してくれます。また、最初の部分に戻って、豪壮にフィナーレです。第4楽章が始まります。中庸のテンポで荘重な音楽を進めていきます。プレートルはここは切れのよい演奏で早いテンポで進めていきましたが、ティーレマンは個性が違います。十分に美しい流麗な響きをかもしだしていきます。実に聴き応えがあります。何度も頂点を上り詰め、フィナーレは圧倒的に締めくくりました。完璧なブルックナーでした。何も言うことはありません。ただ、この場にいただけで幸せです。
ブルックナーの交響曲第7番は何枚ものCDで予習を重ねましたが、最後はヨッフムの名盤のシュターツカペレ・ドレスデンでした。ティーレマンはこのシュターツカペレ・ドレスデンを完全に手中に収め、完璧にドライブしていました。ヨッフムとも甲乙つけがたいと思います。
もう、いつでもティーレマンはシュターツカペレ・ドレスデンとブルックナーの交響曲の録音を始められる状態にあるように思います。ウィーン・フィルとのベートーヴェン交響曲全集と同様に、ライブ録音でブルックナー交響曲全集へ取り込むことが望まれます。ついでにミュンヘン・フィルでも録音してほしいなあ!
ところで、来年の6月は彼らの本拠地のドレスデンに乗り込んで、ティーレマンの楽劇《ばらの騎士》を聴く予定です。オクタヴィアンはガランチャです。今から楽しみでなりません。
さあ、今日は早く寝ましょう。明日はインバル+都響のマーラー・ツィクルスで最長の交響曲第3番を聴かないといけませんから・・・
あっ、書き忘れましたが、ブルックナーのフィナーレの後、会場は興奮の坩堝で、オーケストラ退場後も2回もティーレマンのカーテンコールが続きました。もっと続けてもおかしくない快演でした。ティーレマンへの怒濤のような歓声も凄かったですね。もちろん、こういうコンサートでアンコールは不要です。用意はしていたようですが、アンコールはなしです。納得のアンコールなしでした。
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この記事へのコメント
こんにちわ。
私もその場におり、同じ空間の中で同じ感動を味わいました。
誠に「この場にいただけで幸せ」、この言葉に共感いたしました。
2, anさん 2012/10/27 21:51
はじめまして。 大好きな旅行や音楽のお話がいっぱいで
毎日楽しみに見させていただいています。
昨日は本当に幸せでした。 ただただうっとりと、ティーレマンの世界に
浸りました。
演奏が終わると同時の早すぎた拍手も、ティーレマンがまだ音楽の中にいることを察してすぐに止まりましたね。
そして静止していた彼の手が動くと 改めてわれるような拍手!
こんなことも含めて その場に居られたことに感謝でした。
とても詳しく書いてくださって ありがとうございました。
3, saraiさん 2012/10/28 00:52
Masaさん、こんばんは。
返事が遅れました。インバルのマーラー3番が大変な演奏で心が平静に戻らなかったんです。
ティーレマン、私は好きです。やり過ぎであるか、どうかよりも、自分の心に共鳴するかどうかを大事にしたいと思っています。よいブルックナーを聴いたと素直に感じています。心を同じくしていただき、嬉しいです。
4, saraiさん 2012/10/28 02:45
anさん、初めまして。saraiです。
ありがたいお言葉、感謝します。ブログを書いていると、本当に一人でも読んでくれてかたがいるのか、不安になるときがあります。
拍手したい気持ちも分かりますが、昨日はじっと我慢してほしいところでしたね。ただ、そんなフライング拍手もあまり気にならないくらい、とてもよいブルックナーでした。気持ちが共有できるコンサート、これこそ理想とするものです。
また、コメントください。励みになりますからね。
5, Preさん 2012/10/29 09:53
はじめまして
別の日でしたが、ティーレマンのブラームスを聴きました。異次元の世界でしたね。指揮をするとは何なのを考えさせられました。saraiさんもガランチャさんのファンのようでうれしく思います。私も大ファンで来年のばらの騎士、ウエルテル、カルメンを聴く予定です。
6, saraiさん 2012/10/29 11:19
Preさん、はじめまして。saraiです。
ティーレマンの指揮は賛否両論ありますが、誰しも認めるのは彼の推進力でしょう。彼が指揮すると何かが起こるという予感がします。
ガランチャは圧倒的な声量のメゾで、その上、オクタヴィアン・マリアンデルでのかっこよさと可愛さを併せ持っていますから、参りますね。
私は来年は4月にウェルテル、6月にカルメンとばらの騎士を2回の旅に分けて聴きますが、Preさんはどういう日程にされましたか? もしかして、2カ月間滞在されますか? どこかでご一緒するかも知れませんね。
7, michelangeloさん 2012/10/29 21:21
sarai様
初めまして。数ヶ月前より貴ブログを拝読致しておりました。海外での素晴らしいクラシック音楽ご鑑賞記事が眼に広がり、読み手であるこちらの心まで高揚して参ります。
ティーレマン氏の演奏会、私も2日間堪能致しました。火曜日以外は連日ステージに立つと言う過酷なスケジュールにも関わらず、千秋楽には性格が異なりながらも深く関連する作曲家を二本届けて下さり、本当に嬉しかったです。少々お疲れの様子が伺えましたが、ソロのカーテンコール2回で優しい笑顔がこぼれ安心しました。
事前に、sarai様の海外ティーレマン氏演奏会の記事で予習ができたお陰で、多角的に鑑賞が出来ました。心よりお礼を申し上げます。
8, saraiさん 2012/10/29 23:40
michelangeloさん、初めまして。saraiです。
ブログ愛読いただき、ありがとうございます。ティーレマンのコンサート、どうしても熱く語ってしまいます。歴史に残る大指揮者になってくれるでしょうね。
貴ブログの感性の豊かな表現にうっとりしましたよ。michelangeloさんこそ、ティーレマンに没頭して、体力を使い果たしたご様子。お疲れ様でした。
また、コメントをお寄せください。
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