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バルトークは常に前衛であり続ける! パトリツィア・コパチンスカヤ ヴァイオリン・リサイタル@トッパンホール 2019.1.14

遂にというか、満を持してというか、禁断のヴァイオリニストのパトリツィア・コパチンスカヤを聴いてしまいました。噂に違わず、実に個性的な演奏を聴かせてくれました。一言で言えば、表現力に満ちた音楽ということでしょうか。美しい響きで魅惑しようとかいうことは一切考えず、音楽で表現したいことを実現するためには、ほかのことはすべて犠牲にするという、きっぱりとしたアプローチです。音楽家というよりも、芸術家なんでしょうね。こういう高次元の音楽を聴かされると、己がいかに素人なのかということを思い知らされて、何も書けなくなってしまいます。美しい音楽を聴きに行ったら、音楽を超えた哲学の講義を受けてしまったようなものです。その音楽がどうのこうのって言う感想を書くことが野暮になってしまいます。それでも恥を忍んで、何か書いてみましょう。どうせsaraiは素人なんだし、どんな的外れなことを書いても構わないでしょう。

そもそも、コパチンスカヤのヴァイオリンは来月のクルレンツィス&ムジカ・エテルナの初来日のコンサートで聴く予定です。それに先立っての偵察くらいの軽い気持ちで聴くことにしたんんです。今日のプログラムも実に個性的です。考え抜いた結果なのか、彼女の好みの曲をさっと選んだだけなのかも分かりません。しかし、今日の解説プログラムが卓抜な内容で色んなヒントがあります。誰が書いたのかと思ったら、何と片山杜秀氏です。解説プログラムと言うにはあまりに深い内容です。こういう解説プログラムは捨てるに捨てられずに困ってしまいます。要は彼女の出身国であるヨーロッパの小国、モルドヴァから論を開始して、地政学的に話を発展させ、この地域のヴァイオリン文化の根深さを掘り起こし、返す刀で今日のプログラムの曲目がその地域といかに関連したものかを説いています。何となく、ロマ、ユダヤ、半島文化と関連した音楽であることを否応なく納得させられます。しかし、今日、追加になったクララ・シューマンはれっきとしたドイツ音楽の主流に連なるものでしょう・・・それはどうなのって、片山氏に問いたくなります。終演後、片山氏を見かけたので、近づいていって、素晴らしい解説をありがとうございますって、声を掛けましたが、いや、それほどのことはと軽くいなされて、クララ・シューマンのことは訊きそびれてしまいました・・・。

あまり書き過ぎるとぼろが出るので、軽く、演奏内容に触れてみましょう。

プーランクのヴァイオリン・ソナタは初聴きです。スペイン内戦で殺された詩人、ガルシア・ロルカの思い出に捧げた曲なんだそうです。コパチンスカヤの演奏は哀しみに満ちたという感想では言い表せない深い表現です。心の内面に沈み込んでいくような近寄りがたさ、辛さを内包した表現です。プーランクはそこまで想定して、この音楽を書いたんでしょうか。のっけから、凄い音楽を聴かされます。

続いて、クララ・シューマンのロマンスです。響きを極限まで抑えた演奏で、香り高いロマンに満ちた音楽を表現していきます。これもクララ・シューマンがこんなに気品に満ちた素晴らしい作品を本当に書いたのって、驚愕します。コパチンスカヤの表現力のなせるわざのような気がします。何故か、この曲を前奏のようにして、そのまま、バルトークのヴァイオリン・ソナタ第2番の演奏に入っていきます。その演奏の実に新鮮で、かつ、前衛的なことに感銘を受けます。まるでこの曲の初演でも聴かされているような感じです。最近の現代音楽の生ぬるさに思いが至ります。第2楽章のピチカートはこれまで聴いたことのないような素晴らしい響きです。激しく燃え上がる音楽にインスパイアされます。そうです。この緊張感こそバルトークです。久々に真にバルトークらしいバルトークを聴きました。バルトークは既に古典だと言っている輩には、この演奏を聴かせて、バルトークは常に前衛であり続けるって言いたくなります。そういう演奏でした。不意にコパチンスカヤが第1ヴァイオリンを弾くバルトークの弦楽四重奏曲を聴きたくなります。彼女が仲間を集めて、演奏してくれないかな・・・見果てぬ夢です。コパチンスカヤ・クァルテットって、いい感じじゃない?

後半のエネスクのヴァイオリン・ソナタ第3番はルーマニア民俗風という副題がついていますが、コパチンスカヤの表現はそんなローカルなものではありません。前半のプーランク~バルトークは椅子に座ってのびっくりのスタイルの演奏でしたが、後半はちゃんと立っての演奏です。そのせいか、その音楽の気宇壮大なこと、グローバルな演奏です。あっけにとられて聴き入ります。凄いけど、曲が曲なので、普通の音楽と言えば、普通です。

最後は何故か、ポピュラーなラヴェルのツィガーヌです。でも、コパチンスカヤが弾くと、こうなるのねっていう気品の高さです。集中して聴いていないと、これがあのツィガーヌであることが分からなくなるような演奏です。聴衆にもそれなりの聴く耳を要求するような演奏です。気持ちよく聴きたければ、普通の人が弾く美しい響きの演奏を聴いたほうがいいでしょう。もしかしたら、ラヴェルはこういうコパチンスカヤが表現するような音楽を書いたんでしょうか。やはり、コパチンスカヤは只者ではありません。

ところでピアノのポリーナ・レシェンコも凄い演奏を聴かせてくれました。コパチンスカヤの表現レベルの高さに相当する素晴らしさ。才能は才能を呼ぶのですね。こういう二人の音楽に対峙するためには、saraiもまだまだ音楽修行が足りないことを実感しました。音楽に向き合う姿勢を正すべきなのかもしれません。そういう意味でもインスパイアされました。でも・・・ふーっ、疲れた!!

新年早々から、凄いコンサートでした。アンコール曲も凄かったし、お洒落でした。

この日のプログラムは以下の内容です。

 ヴァイオリン:パトリツィア・コパチンスカヤ
 ピアノ:ポリーナ・レシェンコ

  プーランク:ヴァイオリン・ソナタ
  クララ・シューマン:ピアノとヴァイオリンのための3つのロマンス Op.22より 第1曲 Andante Molto
  バルトーク:ヴァイオリン・ソナタ第2番 Sz76

  《休憩》

  エネスク:ヴァイオリン・ソナタ第3番 イ短調 Op.25《ルーマニア民俗風》
  ラヴェル:ツィガーヌ

  《アンコール》

    ギヤ・カンチェリ:Rag-Gidon-Time


最後に予習について触れておきます。


1曲目のプーランクのヴァイオリン・ソナタは以下のCDで予習をしました。

 アラベラ・美歩・シュタインバッハー、ロベルト・クーレック 2007年5月7-10日 バイエルン音楽スタジオ

美しい演奏です。何の不満もありませんが、正直、どこが聴きどころか、どう聴けばよいのか、分かりません。受け手のsaraiの問題かもしれません。


2曲目のクララ・シューマンは当日追加の曲目ですから、予習していません。

3曲目のバルトークのヴァイオリン・ソナタ第2番は以下のCDで予習をしました。

   ジェイムズ・エーネス、アンドルー・アームストロング 2011年5月30日-6月1日 ポットン・ホール ダンウィッチ、サフォーク州、イギリス

たまには聴いてみたことのない人の演奏を聴いてみようと思ったところ、大当たり。とても美しい響きの演奏です。本文とは矛盾しますが、バルトークもいい意味でもう古典だと思っていまいます。聴き疲れのしない演奏です。


4曲目のエネスクのヴァイオリン・ソナタ第3番は以下のCDで予習をしました。

 レオニダス・カヴァコス、ペーテル・ナジ 2002年3月

ルーマニアの民族色が色濃い演奏で魅力的な出来です。


5曲目のラヴェルのツィガーヌは以下のCDで予習をしました。

 オーギュスタン・デュメイ、マリア・ジョアン・ピリス 1993年9月、10月 ミュンヘン

これは素晴らしい演奏です。決定盤と言えるのではないでしょうか。



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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

       コパチンスカヤ,

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オペラ・美術が大好きでヨーロッパの旅にはまっています。音楽の聖地ウィーンが中心で、イタリア、フランス、ドイツも巡っています。国内外のオペラ・コンサートの体験もレポートします。

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ありがたいコメント、嬉しいです。マーラーのファンのかたにこそ、読んでいただきたかったので、気持ちを共有できた思いです。自然の中にこそ、マーラーの音楽の本質はあり

04/23 23:45 sarai

マーラーの作品を聴きながら、ブログを読ませていただいています。
読みながら画像を見て、マーラーの過ごした風景に想いを馳せて楽しんでいます。
素敵なブログをありがと

04/23 21:47 

マーラー6番ですか・・・ハンマー打撃は勘弁してほしいものです。あったとしても、3回目の打撃だけは・・・

04/11 18:10 sarai

まさにマーラー6番な状況です笑

04/11 17:51 kico

お互い、残念でしたね。今年でヨーロッパ遠征を終わりにする予定でしたが、悲劇的な状況になりました。天はまだ我に旅を続けよというご託宣を与えたのでしょうか。1年延期

04/11 03:13 sarai

以前にもコメントさせていただいた者です。来ましたね、楽友協会からのメール。私たちはとりあえず1年延期としましたが、どうでしょうね。困っている人が多い中贅沢な悩み

04/11 00:33 kico

お返事ありがとうございます。
本当に!私もレイルジェットや美術館の手配もしているので、祈るような気持ちです。

03/10 19:06 kico
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