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知性的で演劇的な歌唱で魅了:ボストリッジ リートの森@トッパンホール 2019.1.22

トッパンホールのリートの森シリーズは昨年のクリストフ・プレガルディエンの歌唱に続き、テノールでは双璧とも言えるイアン・ボストリッジが登場。素晴らしいリートが聴けて、満足するしかありません。

ステージに長身で痩躯のイアン・ボストリッジが現れると、何か存在感のようなオーラがあります。冒頭はシューマンの《子供のための歌のアルバム》Op.79で、あまり、耳馴染みのない曲ですが、ボストリッジが大きな動作で歌い始めると、何か、引き込まれてしまいます。その歌唱は表現力が豊かで、聴くものの耳を集中させます。何か、演劇を見ているような感覚で聴き通してしまいました。最後の《塔の番人リンツォイの歌》はその素晴らしさに陶然としてしまいました。
ボストリッジはこの後、いったん、ステージを降りて、観客席の最前列の中央にどっかと腰を下ろし、サスキア・ジョルジーニのピアノ演奏に耳を傾けます。シューマンの《子供の情景》です。これはもう一つの感でしたが、最後の2曲、《子供は眠る》と《詩人は語る》だけは緊張感のある、よい演奏でした。すべて、この調子で演奏してくれればと悔やまれる演奏でした。まあ、シューマンの詩的な作品は演奏表現が難しいですけどね。
再び、ステージに上がったボストリッジはシューマンの《5つの歌曲 Op.40》を歌います。この作品は昨年、クリストフ・プレガルディエンの素晴らしい歌唱を聴いたばかりです。プレガルディエンのリリックな歌唱に対して、ボストリッジは知性にあふれた表現で作品の本質に切り込んできます。どちらがよいかという比較は意味ありません。それぞれの歌唱のスタイルが異なります。今日、一番、堪能できた歌唱でした。それにしても、シューマンの《歌の年》、1840年はいかに実りにあふれた年だったのでしょう。この1840年しか、シューマンが作曲しなかったとしても、彼は永遠に輝く歌曲群で歴史を刻んだでしょう。素晴らしい作品を素晴らしい歌唱で聴くという贅沢な時間を持てました。

後半のブリテンも前半同様、あるいはそれ以上に気合のはいったボストリッジの歌唱が続きましたが、その歌唱の素晴らしさには感銘を受けるものの、残念ながら、ブリテンの歌曲に対するsaraiの思い入れが足りず、前半のシューマンほどは楽しめませんでした。暗い作品が多かったしね。

できれば、プレガルディエンと同様にオール・シューマンのプログラムを組んでくれればよかったのですが・・・。

今日のプログラムは以下です。

  テノール:イアン・ボストリッジ
  ピアノ:サスキア・ジョルジーニ

  シューマン:《子供のための歌のアルバム》Op.79より
    ジプシーの歌Ⅰ&II/てんとう虫/歩きまわる鐘/牛飼いの別れ/時は春/松雪草/塔の番人リンツォイの歌
  シューマン:子供の情景 Op.15[ピアノ・ソロ]
  シューマン:5つの歌曲 Op.40(詩:アンデルセン、シャミッソー)

   《休憩》

  ブリテン:冬の言葉 Op.52 全8曲
  ブリテン:《この子らは誰か》Op.84より
    悪夢/殺戮/この子らは誰か/子供達
  ブリテン:民謡編曲第2集《フランスの歌》より
    愛の園の美人/こだま、こだま/父の家にいたとき

   《アンコール》

  シューベルト:さすらい人の月に寄せる歌 D870
  スコットランド民謡(ブリテン編):オー・ワリー・ワリー

最後に予習について、まとめておきます。

シューマンの《子供のための歌のアルバム》を予習したCDは以下です。

  ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ、クリストフ・エッシェンバッハ  シューマン歌曲大全集 1974~76年録音

フィッシャー=ディースカウはもちろん、その美声で安定した歌唱を聴かせてくれます。しかし、この曲集はあまり聴いていないせいか、心に迫るものがありません。


シューマンの《子供の情景》を予習したCDは以下です。

  田部京子 1999年8月10日-13日 群馬 笠懸野文化ホール

このところ、田部京子のCDを集中的に聴いていますが、シューベルトだけでなく、シューマンも素晴らしい演奏を聴かせてくれます。この《子供の情景》は前半はもう一つの感じでしたが、第7曲のトロイメライが極めてリリックな表現で美しく聴き惚れてしまいます。すると、以降の曲も彼女らしい詩的な表現で素晴らしい演奏です。第12曲、第13曲はいたく感銘してしまいます。少なくとも後半の曲は今まで聴いたCDでベストの演奏です。


シューマンの《5つの歌曲 Op.40》を予習したCDは以下です。

  ピーター・ピアーズ、マレイ・ペライア 1979年録音
  ペーター・シュライヤー、ノーマン・シェトラー 1972年録音
  ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ、クリストフ・エッシェンバッハ  シューマン歌曲大全集 1974~76年録音

ピアーズのリリックな歌唱が素晴らしく、さらにペライアのピアノの美しさが際立ちます。若き日のシュライヤーの気持ちの乗った歌唱も素晴らしく、ピアノのシェトラーも美しい演奏を聴かせてくれます。フィッシャー=ディースカウはコメントが必要でない美しい声を聴かせてくれますが、ピアーズやシュライヤーほどの気持ちは感じられません。エッシェンバッハのピアノは素晴らしいです。


ブリテンの《冬の言葉》を予習したCDは以下です。

  ピーター・ピアーズ、ベンジャミン・ブリテン 1954年3月、7月 モノラル セッション録音

ピアーズの歌唱は美しいですが、曲自体が耳慣れしていないせいか、どう聴きとればいいのか、正直、分かりません。


ブリテンの《この子らは誰か》を予習したCDは以下です。

  マーク・ワイルド、デイヴィッド・オーウェン・ノリス 2009年8月 イギリス サウサンプトン大学 セッション録音

この曲もあまり理解できません。歌唱は美しいのですが・・・。


ブリテンの民謡編曲第2集《フランスの歌》を予習したCDは以下です。

  ジェイミー・マクダガル、マルコム・マルティヌー 1994年録音

美しい歌唱です。フランスの民謡ですから、分かりやすいしね。



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