fc2ブログ
 
  

熟成のバッハ:トッカータ全曲,半音階的幻想曲とフーガ The Bach Odyssey Ⅷ アンジェラ・ヒューイット@紀尾井ホール 2019.3.13

アンジェラ・ヒューイットの“バッハ オデッセイ”の8回目。トッカータ全曲演奏という稀有な機会です。遂に前回の平均律第2巻を聴き逃がし、今日はほぼ1年ぶりにアンジェラ・ヒューイットのバッハを聴きます。実に楽しみにしていました。何と言っても前回聴いたゴルトベルク変奏曲はsaraiの音楽体験の中でも際立って素晴らしい、人生で一度きりのコンサートと言っても過言のないないものでした。

で、今回の演奏ですが、さすがの演奏。曲がバッハの若いときの作品なので、ゴルトベルク変奏曲とか平均律とかに比べられませんが、深さや精神性よりも、自由でファンタジックな演奏をリラックスして聴けました。まあ、楽しい演奏だったというべきでしょうか。saraiの趣味で言えば、ハ短調のトッカータBWV911の中間部のコラール風のパートや、ト長調のBWV916の第2部のアダージョのような抒情味のある演奏に心惹かれました。もちろん、フーガはどれも素晴らしい演奏で、特にバス主題が浮き立つところなどは見事なものでした。

トッカータ全7曲をまとめて、最高レベルの演奏で聴けて、その上、同様な曲調の半音階的幻想曲とフーガをシメのような形で聴け、満足のコンサートでした。今後、トッカータをこういう形で聴けることはないでしょうから、価値あるものになりました。

次回はいよいよ、イギリス組曲全曲が2回のコンサートに分けて、演奏されます。このアンジェラ・ヒューイットの大企画も終盤です。

バッハ・オデュッセイ9

 イギリス組曲第1番/第2番/第3番
 組曲ヘ短調 BWV.823
 前奏曲とフーガ イ短調 BWV.894

バッハ・オデュッセイ10

 イギリス組曲第4番/第5番/第6番
 ソナタ ニ長調 BWV.963

来年の2回のコンサート、バッハ・オデュッセイ11と12は次のようなプログラムになります。

バッハ・オデュッセイ11

 4つのデュエット BWV.802-805
 小前奏曲 BWV.924-928,930,933-943,999
 幻想曲とフーガ イ短調 BWV.944
 イタリア協奏曲ヘ長調 BWV.971
 フランス風序曲ロ短調 BWV.831

バッハ・オデュッセイ12

 フーガの技法 BWV 1080

何とかすべて聴けそうですね。あっ、バッハ・オデュッセイ7の平均律第2巻は聴き損ないました!(代わりにシフの演奏を聴きました・・・)

今日のプログラムは以下です。

ピアノ:アンジェラ・ヒューイット
 
J.S.バッハ・プログラム Odyssey ⅤIII

トッカータ全曲 BWV910-916

 トッカータ ハ短調 BWV911
 トッカータ ト長調 BWV916
 トッカータ 嬰へ短調 BWV910
 トッカータ ホ短調 BWV914

 《休憩》


 トッカータ ニ短調 BWV913
 トッカータ ト短調 BWV915
 トッカータ ニ長調 BWV912


半音階的幻想曲とフーガ ニ短調BWV903

《アンコール》

世俗カンタータ『楽しき狩こそわが悦び』(通称『狩のカンタータ』)BWV208より、第9曲アリア《羊は安らかに草を食み》(ピアノ編曲版:メアリー・ハウ編)


最後に予習したCDですが、もちろん、アンジェラ・ヒューイットのCDを軸に聴きました。

トッカータBWV911は以下のCDを聴きました。

 ウラディミール・ホロヴィッツ、1949年1月17日, プライヴェート・コレクション音源
 フリードリヒ・グルダ、1955年3月14日、プライヴェート・ライヴ録音、イタリア トリエステ
 マルタ・アルゲリッチ、1979年2月6-9日、ベルリン、Studio Lankwitz
 アンジェラ・ヒューイット、1985年10月、セッション録音、スイス、ラ・ショー=ド=フォン、サル・ド・ムジーク
 アンジェラ・ヒューイット、2002年1月、セッション録音、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール

大ピアニストが好んで演奏しているようです。ホロヴィッツがバッハを演奏するのは珍しいですが、さすがの演奏です。グルダも音質はともかく、見事なバッハです。グルダにはもっとバッハを録音しておいてほしかったと思わせるような演奏です。そのグルダの弟子のアルゲリッチですが、これは会心の演奏です。1970年代のアルゲリッチは凄かった。その最後を飾るようなバッハ・アルバムの中の1曲です。このアルバムはsaraiの愛聴盤の1枚です。
さて、肝心のアンジェラ・ヒューイットですが、1994年から録音を開始したバッハの鍵盤音楽全集以前に若干27歳でトロント国際バッハ・ピアノ・コンクールで優勝した直後にバッハ・アルバムを録音しています。その中にこのトッカータBWV911が含まれています。まだ、生硬な表現ですが、そのひたむきなバッハへの傾倒には心打たれます。その17年後に録音したトッカータ集はアンジェラ・ヒューイットがいかに成長したかが分かる素晴らしいものです。天才アルゲリッチと真のバッハ弾きのヒューイット、どちらも比べることのできない素晴らしさです。

トッカータBWV916は以下のCDを聴きました。

 スヴャトスラフ・リヒテル、1991年11月、ライヴ録音、ドイツ ノイマルクト
 アンジェラ・ヒューイット、2002年1月、セッション録音、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール

リヒテルの晩年の演奏。素晴らしいですが、もっと若いときの演奏を聴きたいものです。ヒューイットは文句なし。

トッカータBWV910は以下のCDを聴きました。

 アマンディーヌ・サヴァリー、2013年4月2-4日、セッション録音
 アンジェラ・ヒューイット、2002年1月、セッション録音、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール

若手のサヴァリーの一発勝負のようなトッカータ集。なかなかの聴き応えです。しかし、ヒューイットの演奏とは比べられませんね。

トッカータBWV914は以下のCDを聴きました。

 クララ・ハスキル、1952年2年14日、ライヴ録音、オランダ ヒルヴェルスム カジノ
 クララ・ハスキル、1952年5年31日、ライヴ録音、ミュンヒェン ザイドルハウス
 クララ・ハスキル、1953年4年11日、ライヴ録音、ルトヴィヒスブルグ 城・オルデンザール
 アンジェラ・ヒューイット、2002年1月、セッション録音、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール

クララ・ハスキル、孤高のバッハです。誰とも比べられない演奏です。とりわけ、1953年のルトヴィヒスブルグのリサイタルは音質も素晴らしく(最近リリースされたアルバム)、何度でも聴きたくなる最高の演奏です。ヒューイットの演奏もよいのですが、ハスキルとは別次元。違う曲を聴いている感じになります。

トッカータBWV913は以下のCDを聴きました。

 スヴャトスラフ・リヒテル、1991年11月、ライヴ録音、ドイツ ノイマルクト
 アンジェラ・ヒューイット、2002年1月、セッション録音、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール

BWV916と同様です。

トッカータBWV915は以下のCDを聴きました。

 アマンディーヌ・サヴァリー、2013年4月2-4日
 アンジェラ・ヒューイット、2002年1月、セッション録音、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール

BWV910と同様です。

トッカータBWV912は以下のCDを聴きました。

 ヴィルヘルム・ケンプ、1975年4月、セッション録音、ドイツ、ハノーファー
 ユリアンナ・アヴデーエワ、2017年3月8-10日、セッション録音、ドイツ、ノイマルクト、ライツターデル
 アンジェラ・ヒューイット、2002年1月、セッション録音、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール

ケンプは滋味あふれる演奏。さすがです。ユリアンナ・アヴデーエワは満を持してのバッハ・アルバム。このトッカータはちょっと気負い過ぎでしょうか。期待したのですが・・・。むしろ、一緒に収録されているイギリス組曲第2番のほうが素晴らしいです。アンジェラ・ヒューイットは一日の長のある演奏。文句ありません。


半音階的幻想曲とフーガは以下のCDを聴きました。

 ニコライ・ルガンスキー、1990年3月13日、ライヴ録音、モスクワ音楽院、ラフマニノフ・ホール
 アンドラーシュ・シフ、1983年9月、セッション録音、ロンドン
 ヴィルヘルム・ケンプ、1953年3月、セッション録音、ロンドン、ウェスト・ハムステッド、デッカ・スタジオ
 アンジェラ・ヒューイット、1994年1月、セッション録音、ドイツ、ハノーファー、ベートーヴェンザール

ニコライ・ルガンスキー、期待して聴きましたが、これは何と17歳のときのアルバム。今、録音すれば、もっと違ったものになるでしょう。アンドラーシュ・シフも若い時の録音ですが、これは素晴らしいです。ただ、今なら、もっと美しい演奏になりそうです。ケンプは古い録音です。演奏は美しいものです。ヒューイットもバッハ鍵盤音楽全集の最初のアルバムです。これもいいのですが、今なら違った演奏になるでしょう。と思っていたら、DVDで新しい演奏が出ているのですね。そのうちに聴いてみましょう。



↓ saraiのブログを応援してくれるかたはポチっとクリックしてsaraiを元気づけてね

 いいね!



関連記事

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

       アンジェラ・ヒューイット,

コメントの投稿

非公開コメント

人気ランキング投票、よろしくね
ページ移動
プロフィール

sarai

Author:sarai
首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
たまには、旅ブログも書きます。

来訪者カウンター
CalendArchive
最新記事
カテゴリ
指揮者

ソプラノ

ピアニスト

ヴァイオリン

室内楽

演奏団体

リンク
Comment Balloon

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

もろともにあはれとおもへ山ざくら 花よりほか

通りすがりさん

コメント、ありがとうございます。正直、もう2年ほど前のコンサートなので、詳細は覚えておらず、自分の文章を信じるしかないのですが、生演奏とテレビで

05/13 23:47 sarai
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR