ショスタコーヴィチの大編成曲で見せたオーケストラの実力は? ウルバンスキ&東響@サントリーホール 2019.3.25
さて、そのチケット争奪戦を回避してまで聴いた今日のコンサートですが、期待を大きく上回る演奏。最近の東響の充実ぶりはこれまでも実感していますが、ショスタコーヴィチの交響曲の中で一番、編成が大きな第4番で、圧倒的な合奏力を体験させてくれました。大編成のオーケストラでこれほどの演奏を聴いたのは、シカゴ響以来です。正規の団員だけではメンバーが不足しますから、エキストラも入れての演奏だった筈ですが、よほど芯となるメンバーの実力が高いんでしょう。
第1楽章冒頭の金属的な音響が見事に響き、実に充実した大音響が続きます。圧巻だったのは、ファゴットとコントラバスだけのパート。素晴らしい演奏にほれぼれとします。ショスタコーヴィチの交響曲第4番はこれまであまり聴き込んできていませんが、今日の演奏で感じたのは、交響曲というよりも、オーケストラのための協奏曲、古い言い方ではコンチェルトグロッソ。弦楽器パートでは、ヴィオラの演奏が秀逸。コンマスのニキティンのソロも見事でした。管はすべて素晴らしく、イングリッシュホルンやフルートも大活躍。ところで、オケが素晴らしかっただけではありません。もちろん、指揮のクシシュトフ・ウルバンスキの統率力が素晴らしかったんです。そう言えば、ウルバンスキの指揮を最初に聴いたのはほぼ5年前。オケはこの東響でした。そのときは同郷のポーランドの作曲家のルトスワフスキの管弦楽のための協奏曲が素晴らしい演奏でした。しかし、この5年で東響もウルバンスキも大きく飛躍しました。今日のショスタコーヴィチを聴いて、もう一度、ウルバンスキと東響のコンビでルトスワフスキの管弦楽のための協奏曲を聴きたくなりました。あっ、バルトークの同名の曲、管弦楽のための協奏曲も聴きたいですね。
いつしか、今日の演奏内容から離れてしまいましたが、ともかく、今日のショスタコーヴィチは超絶素晴らしかったです。細かいことはいいでしょう。ところでこんな演奏を聴くと、もう、ショスタコーヴィチの交響曲第5番は通俗曲みたいなもので聴きたくなくなります。ショスタコーヴィッチがソヴィエト当局の圧力でこの交響曲第4番の路線を続けられなかったのはとても残念です。もしかしたら、マーラーの交響曲群を超えるような作品群が生まれたかもしれませんね。とは言え、今シーズン、ノット&東響のコンビでショスタコーヴィチの交響曲第5番を聴くのを楽しみにしているsaraiです(笑い)。それを聴いたときにどんな感想が生まれるんでしょう・・・。
前半の演奏に戻りましょう。このモーツァルトのヴァイオリン協奏曲 第5番もとってもよかったんです。オーケストラは後半のショスタコーヴィッチの大編成に比べて、とっても小編成です。6/6/4/3/2だったかな。違ったかもしれませんが、そんなものです。冒頭、とっても繊細な響きで魅惑されます。初聴きのヴァイオリンのヴェロニカ・エーベルレがとってもスローなテンポではいってきます。何か惹き付けられる磁力のようなものがある演奏です。主部にはいって、ぐーんとテンポアップ。あれあれ、若いのにずい分、思い切ったテンポ変化を自己判断でやりきりますね。まあ、若いのだから、自分の思ったとおりの演奏をすればいいでしょう。なかなかいい感じです。指揮のウルバンスキは慣れた感じできちんとオケをその独奏ヴァイオリンにぴったりつけます、流石です。しかし、東響のアンサンブルの響きは先ほどのような美しさが損なわれます。ちょっと心理的にかき乱されたかな。以降、エーベルレの独奏ヴァイオリンが主導した演奏になります。彼女のヴァイオリンは特別な個性を発揮しているわけではありませんが、何故か、心に惹き付けられるものがあります。最後まで退屈せずに聴き通せました。実はsaraiは歯痛のため、鎮静剤を飲んでいるので、時折、眠気を催すんです。ですが、それにもかかわらず、全般的にエーベルレのヴァイオリンの響きだけはしっかり受容できました。この曲をもって、彼女の才能を判定することはできませんが、なかなかの潜在力の持ち主とみました。実は明後日、トッパンホールで彼女の無伴奏のリサイタルを聴きます。バッハの無伴奏パルティータを軸に多彩な曲が演奏されます。彼女の魅力がどのあたりにありそうか、実力はどうなのか、しっかりと見極めたいと思っています。
いやはや、今日は東響の大編成オーケストラの途轍もない演奏に驚愕しました。
今日のプログラムは以下のとおりでした。
指揮:クシシュトフ・ウルバンスキ
ヴァイオリン:ヴェロニカ・エーベルレ
管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:グレブ・ニキティン
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 第5番 イ長調 K.219 「トルコ風」
《アンコール》 プロコフィエフ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ ニ長調 Op.115 第2楽章より
《休憩》
ショスタコーヴィチ:交響曲 第4番 ハ短調 Op.43
最後に予習について、まとめておきます。
モーツァルトのヴァイオリン協奏曲 第5番を予習したCDは以下です。
ジュリアーノ・カルミニョーラ、クラウディオ・アバド指揮オーケストラ・モーツァルト 2007年11月、ボローニャ
昨年末、この曲はヒラリー・ハーンで聴き、いくつか、予習したばかり。今回はちょっと、これまで聴いていない演奏を聴くことにしました。バロックで有名なジュリアーノ・カルミニョーラと巨匠クラウディオ・アバドの組み合わせはどうなのかということで聴いてみました。カルミニョーラはやはり、ノンヴィブラートの演奏。美しい響きですが、今風の演奏でsaraiには変わった演奏に聴こえます。面白いと言えば、面白い演奏。また、聴くかと言えば、正直、聴かないでしょう。聴くなら、ムッターかクレーメルかな。saraiは古い人間なんです。
ショスタコーヴィチの交響曲 第4番を予習したCDは以下です。
ベルナルト・ハイティンク指揮シカゴ交響楽団 2008年5月8-11,13日 ライヴ録音
コンドラシン指揮モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団 1962年
ハイティンクは1972年のロンドン・フィルとの全集盤に続く2度目の録音です。実に36年ぶりですね。かなり前に購入して、封も切らずに温存していました。今回、遂に聴きました。1回目のロンドン・フィルの演奏は覚えていませんが、全集として、かっちりした演奏だったことを覚えています。今回は期待通り、シカゴ響の演奏能力をフルに引き出した明快な演奏で、この第4番を整理して聴かせてくれます。しかし、深い音楽内容なので、今後、繰り返し、聴かないといけないでしょう。ロンドン・フィルとの比較もしたいところ。
一方、コンドラシン指揮モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団はその前年に25年間、お蔵入り(実際はショスタコーヴィチの抽斗の中?)していたこの作品を初演したコンビ。当時、スターリンが死に、いくら雪融けって言っても、いわくつきの作品の演奏はソヴィエト体制下ではリスクがあった筈です。あっぱれ!コンドラシン。その気概が乗り移ったような迫力と抒情に満ちた名演です。この演奏は一度は聴かないといけないでしょうね。
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