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デュッセルドルフK20州立美術舘:素晴らしきクレーのコレクション

2018年8月14日火曜日@デュッセルドルフ/7回目

デュッセルドルフDüsseldorfのK20州立美術舘K20, Kunstsammlung Nordrhein-Westfalenで20世紀の名画を鑑賞中です。


パウル・クレーの《頭と手と足と心があるhat Kopf, Hand, Fuss und Herz》です。1930年、クレー51歳頃に描かれた作品です。うーん、何とも可愛い作品ですね。傾向としては《ムッシュー・ペルレンシュヴァイン》の延長線でしょうか。絵の中心にあるのは赤いハートマークで描かれた心です。この作品はコットンの上に水彩とインクで描かれています。

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パウル・クレーの《過負荷の悪魔überladener Teufel》です。1932年、クレー53歳頃に描かれた作品です。モノクロームで描かれた悪魔は複雑なフォルムで構成されています。過負荷の悪魔とは何の暗喩なのか・・・時代背景を考えると、迫りくるナチスの脅威、西欧文明の崩壊の危機を捉えた限界状況をさすものでしょうか。しかし、この作品では凶悪性よりもフォルムの精緻さが印象的です。この作品は紙の上に水彩で描かれています。

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パウル・クレーの《ネクロポリスNekropolis》です。1930年、クレー51歳頃に描かれた作品です。ネクロポリスとは、ウィキペディア(Wikipedia)を引用すると、巨大な墓地または埋葬場所。語源は、ギリシャ語のnekropolis(死者の都)。大都市近郊の現代の共同墓地の他に、古代文明の中心地の近くにあった墓所、しばしば人の住まなくなった都市や町を指します。この作品で描かれているのは、クレーが1928年から1929年にかけて旅したエジプトの墓所を描いたもののようです。クレーの死生観を示すとともに、観光地化したエジプトを見て、あえて、古代への思いを画面上に構成した作品とも考えられます。

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パウル・クレーの《半円から斜めHalbkreis zu Winkligem》です。1932年、クレー53歳頃に描かれた作品です。この作品を見て連想するのは、クレーのファンならば、《パルナッソス山へ》でしょう。この絵をぐるっと左に90度に回転させると、似た形になります。描かれたのも同じ年です。《ネクロポリス》と同様にエジプト旅行で見たピラミッドの三角形がベースになっています。画面全体に細かく描かれた点も《パルナッソス山へ》と共通した特徴です。半円は太陽とか月も連想しますが、幾何学的に三角形の対照として描いたものではないかと思えます。右上のオレンジ色のLの意味は不明ですが、左下の茶色の四角形とともに画面のアクセントとなっています。しかし、《パルナッソス山へ》のまばゆいばかりの輝かしさには及びませんね。

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参考のために、2010年に訪れたベルンBernのベルン美術館Kunstmuseum Bernで鑑賞した《パルナッソス山へAd Parnassum》を再掲しておきます。

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パウル・クレーの《雪の中での考えGedanken bei Schnee》です。1933年、クレー54歳頃に描かれた作品です。水彩画ですが、モノトーンで描かれた絵は線画を志向していますね。雪景色の中で何を考えるのか・・・決して、明るい未来ではなさそうです。亡命のときは近づいています。それとも亡命後?

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パウル・クレーの《平原を眺めてくださいBlick in die Ebene》です。1932年、クレー53歳頃に描かれた作品です。これもエジプトの平原かもしれません。細かい点が打たれた背景の上に描かれた境界線のような曲線のいかに美しいことか。素晴らしい作品です。

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パウル・クレーの《ピランプ近くの風景Landschaft bei Pilamb》です。1934年、クレー55歳頃に描かれた作品です。亡命の翌年に描かれた作品。ピランプというのはどこか分かりませんが、きっととても美しい場所なのでしょうね。現実にはない架空の場所なのかもしれません。亡命後の辛い状況だからこそ描いたこの世の楽園なのでしょう。

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パウル・クレーの《動いている大気群atmosphaerische Gruppe in Bewegung》です。1929年、クレー50歳頃に描かれた作品です。これは一見すると何が描かれているのか分かりませんが、音楽のポリフォニーを絵画で表現したものです。有名な作品では《赤のフーガ》が音楽を絵画化した作品です。クレーは早くからヴァイオリンに親しみ、彼の妻のリリーはピアニスト。ずっと音楽にはこだわりを持っていました。音楽は空気の振動がベースですから、このような大気の動きの重なり合いを描くことで、ポリフォニー、すなわち、複数の声部による音楽を表現したのでしょう。しかし、作品自体は《赤のフーガ》ほどの完成度には至っていないように感じます。

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参考のために、2010年に訪れたベルンBernのパウル・クレー・センターZentrum Paul Kleeで鑑賞した《赤のフーガFuge in Rot》を再掲しておきます。

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パウル・クレーの《積まれたものder Beladene》です。1929年、クレー50歳頃に描かれた作品です。合板の上に貼られたジュートの上の石膏プライマーに油絵具とワックスクレヨンで描かれた作品ですが、明らかに線画そのものですね。線画による天使シリーズの先がけのような作品です。

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パウル・クレーの《攻撃の後の聖セントニウスSt. Anton nach dem Anfall》です。1935年、クレー56歳頃に描かれた作品です。前にも書きましたが、この1935年は、クレーにとって、苦渋に満ちた年でした。スイスのベルンへの亡命後、経済的困窮と難病の皮膚硬化症の発症という困難を極めたました。その彼が選んだ題材は、悪魔の攻撃にさらされながらも耐え抜いたという逸話を持つエジプトの聖者アントニウスでした。ナチスからの謂れのない迫害で傷ついたクレー自身の姿を重ね合わせたものです。まるで悟りを得たような安らぎに満ちた表情に感銘を覚えないものはいないでしょう。政治的迫害、暴力、戦争は人間を傷つけることはありますが、決して、人間の品性を汚すことはできません。クレーの芸術はますます高みに上ります。

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K20州立美術館が誇るクレーの膨大なコレクションの素晴らしさの心が震えます。まだまだ、クレーは続きます。saraiの一押しのクレーの名作はずっと後に登場します。



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 ≪…茶色の四角形…≫は、数の言葉ヒフミヨを紡ぎだすながしかく(『自然比矩形』)にも・・・

 この風景は、3冊の絵本で・・・
 絵本「哲学してみる」
 絵本「わのくにのひふみよ」
 絵本「もろはのつるぎ」

 「数学的なヴィジョン」(パウル・クレー)の彼方には、言葉の点線面とカタチ(〇△🔲ながしかく)から、「別れを告げて」(パウル・クレー)自然数と数学記号(+-×÷√=)に無意識に到達していたと観たい・・・
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06/18 12:46 sarai

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