デュッセルドルフK20州立美術舘:クレーの後は、レジェ、ピカソ、ミロ、モンドリアンの傑作群
デュッセルドルフDüsseldorfのK20州立美術舘K20, Kunstsammlung Nordrhein-Westfalenで20世紀の名画を鑑賞中です。
パウル・クレーの《異常なものたちの大通りder Boulevard der Abnormen》です。1938年、クレー59歳頃に描かれた作品です。晩年のクレーはうまく手が動かせないこともあり、単純化されたフォルムと太い線が特徴になっています。しかし、絵心はますます研ぎ澄まされていきます。この作品に描かれた、大通りにあふれる異形のものたちは、この絵が描かれた時代の異常さと切り離して考えることはできないでしょう。その上で、異形のものたちが決してグロテスクさに走っていないのは、クレーが芸術家として、色んな想念を芸術的に昇華させていることがうかがえます。クレーに残された時間は残り2年しかありません。

パウル・クレーの《価値表記小包das Wert-Paket》です。1939年、クレー60歳頃に描かれた作品です。この作品は天使シリーズに関連する作品です。翼こそありませんが、二人の人型の天使が抱擁するシーンがモノクローム調の彩色画で描かれています。中央に赤い×印がありますが、十字架とみなされうるとも言われています。この作品が描かれた年には天使シリーズの線画作品が多く描かれました。また、この1939年はクレーの亡くなる前年ですが、クレーは創作の頂点に達し、デッサンなども含めた1年間の制作総数は1253点に及んだそうです。1万点を超える創作を行った多作の芸術家であったクレーにしても、この年の充実した創作活動は刮目すべきものです。その中心にあったのは天使シリーズと言えるでしょう。もっともクレーの天使シリーズが世に注目されるようになったのは1990年あたりからだそうです。

クレーの晩年の作品に至ったところで、クレーの作品の展示はいったん終わっています。ここまでクレーに作品を28枚紹介してきました。ここからはまた、クレー以外の作品の展示を見ていきましょう。でも、クレーのファンの方、ご安心ください。展示の終わり近くでまた、クレーの作品が10枚近く登場します。その中にsaraiの一押しの作品もあります。
フェルナン・レジェの《花を持つ女》です。1922年、レジェ41歳頃に描かれた作品です。典型的なレジェの作品の登場です。女性が二人登場しますが、服を着ているかどうかが異なるだけで、顔の表情は感情を示さずに、個性というものは書き込まれません。女性の体の丸みを強調するために体の端は陰影が付けられています。髪の毛のべたっとした描き方も特徴的ですね。具象画風に装った抽象画とも言えます。描かれる素材をいったん分解して、再構成した上で装飾画風に描き上げています。

パブロ・ピカソの《二人の座った裸の女》です。1920年、ピカソ39歳頃に描かれた作品です。この頃、ピカソは総合的キュビズムの時代から、新古典主義に移り、どっしりと量感のある女性像を描きました。この作品もその一つです。

フェルナン・レジェの《アダムとイヴ》です。1936年~1939年、レジェ55~58歳頃に描かれた作品です。レジェ独自の作風をますます発展させた作品。レジェが描く対象は人物や機械に限定されています。ここでは題材のせいか、珍しく、植物などの自然が描かれていますが、どことなく、ぎこちなく感じます。

パブロ・ピカソの《鏡の前の女(しゃがむ女)》です。1937年、ピカソ56歳頃に描かれた作品です。シュールレアリスム時代を経て、この頃、有名なゲルニカの制作にかかっていました。あのモノクロの恐ろしい絵とはずい分違った作品です。絵のモデルは愛人のマリー=テレーズ・ワルテル。よほど、この女性から心の平安が得られていたのでしょう。彼女を描いた作品は優しさと愛に満ちています。キュビズムもこのように頭の中の理屈から、自然な絵に変容しています。やはり、ピカソは素晴らしい!

ジョアン・ミロの《リズミカルな人々》です。1934年、ミロ41歳頃に描かれた作品です。黒、白、そして純粋な色の赤と黄色で描き出されているのは、極度にデフォルメされた女性と野菜の融合したフォルムです。背景は左側は黄土色から茶色にグラデーションし、右側は緑から青にグラデーションして、その上に描かれた女性のフォルムを際立たせています。フォルムとフォルムは繋がれて、リズミカルな律動を繰り返しています。技法的には高度に洗練されたコラージュが用いられています。ミロが描いた傑作の一枚です。

ピエト・モンドリアンの《青と白の垂直のコンポジション》です。1936年、モンドリアン64歳頃に描かれた作品です。抽象画の始祖の一人であるモンドリアンが到達した究極の抽象画はこんなにシンプルな形でした。20世紀美術のひとつの到達点です。

ピエト・モンドリアンの《黒の線のあるリズム》です。1937年/1942年、モンドリアン65歳/70歳頃に描かれた作品です。既にモンドリアンは芸術的到達点に達しています。名人は何を描いても傑作にしか、なり得ません。黒いラインの間隔と矩形の2カ所に塗られた青と黄色。あるべき理想的な姿がそこにあります。

ピエト・モンドリアンの《ニュー・ヨーク・シティⅠ》です。1941年、モンドリアン69歳頃に描かれた作品です。ニューヨーク市の通りが上空から俯瞰した眺めをモンドリアン風に抽象化した作品でしょう。赤、黄色、青で描かれたラインが心地よい律動を目に訴えかけてきます。これも名作。

ピエト・モンドリアンの《黄色のコンポジション》です。1930年、モンドリアン58歳頃に描かれた作品です。このシンプルな作品の心地よさはどこからくるのでしょう。こういう作品を見ると、絵画の原点は単純な色彩と無駄を省いたフォルムに帰結することが分かります。西欧の仙人がすべてを達観して描いた究極の美がここにあります。

K20州立美術館が誇るクレーの膨大なコレクションの一端を見終えて、さらに20世紀の美の巨人たちの作品に魅了されます。20世紀の傑作群は続きます。
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