素晴らしきクルレンツィスの世界、開幕 モーツァルトのオペラ《フィガロの結婚》@ルツェルン音楽祭 2019.9.12
基本的なスタイルは《ドン・ジョヴァンニ》と《コジ・ファン・トゥッテ》と同じです。いまさらながら、クルレンツィスのモーツァルトへのシンパシーとリスペクトの思いが実感されます。まるでモーツァルトの魂がクルレンツィスに乗り移って指揮しているんじゃないかと錯覚します。モーツァルトのオペラも新時代を迎えました。モーツァルトの音楽の深さが再発掘されたという思いでいっぱいになります。モーツァルトの音楽の天才性はこのクルレンツィスの天才の登場を待って、明らかにされたという感です。音楽のちょっとした端々の微妙なニュアンスに込めたモーツァルトの深い音楽性は驚異的であり、それをとことん追求したのがクルレンツィスです。今までの指揮者はただただ譜面の表面だけをなぞっていたのかという疑念さえ湧いてきます。アリアや重唱はクルレンツィス自身が個々の歌手の喉を使って、歌っているかのようです。実際、彼は声を出さずに歌っています。彼の感じた歌を歌手がクルレンツィスの意向に沿って歌っています。かって、カラヤンも同様の試みをしていましたが、明らかに資質が違います。同じアプローチでも、クルレンツィスの天才性が光ります。譜面の読み込みの深さが常人とは明らかに異なるレベルです。譜面を通して、作曲家モーツァルトの精神に到達したかの如くです。こういうことを書いていたら、切りがありません。ここらで今日の演奏内容に触れましょう。
今日も女声陣が素晴らしいです。主要なキャストのスザンナ、伯爵夫人、ケルビーノは際立っていましたし、マルチェリーナ、バラバリーナも見事な歌唱。男声陣はと言えば、これも素晴らしい。特にフィガロ、伯爵の渋くて、ダイナミックな歌唱が見事です。結局、どこにも隙のない歌唱で、これだけの歌手を揃えた公演は史上最強ではないかと思います。ピカ一だったのは伯爵夫人を歌ったエカテリーナ・シチェルバチェンコ。ドンナ・アンナ、フィオルディリージを歌ったナデージダ・パヴロヴァが最強のモーツァルト歌いと書きましたが、クルレンツィスはさらにこのエカテリーナ・シチェルバチェンコという隠し球も持っていたようです。いかにもクルレンツィス好みの透明な響きの声とソット・ヴォーチェの静謐な歌唱が素晴らしいです。第3幕のアリアで冒頭の旋律がソット・ヴォーチェで繰り返されるところで、あまりの美しさにsaraiは感動のあまり、涙が出ました。ドラベッラを歌ったポーラ・マリヒーのケルビーノも最高です。第2幕のアリアはこれまで聴いたケルビーノの中で最高レベル。細かい装飾音符の歌い方がピタッとはまっています。きっと、クルレンツィスがこだわって、熱血指導した賜物でしょう。あと、第3幕での伯爵夫人とスザンナのデュエットの見事な歌唱にも絶句しました。いちいち書いていたら、切りがあありませんね。それでも一番の聴きものだったオーケストラと声楽のアンサンブルの素晴らしさは讃えないといけないでしょう。各幕の終盤の凄まじい盛り上がりは尋常ではありませんでした。フォルテピアノ、オーボエの見事の技も忘れられません。
ともかく、これまでの音楽演奏とは別次元の世界をクルレンツィスは築き上げました。恐るべき才能としか、言えません。4日間連続公演の初日を聴いて、早くも無理してきてよかったという感慨がいっぱいです。
そうそう、公演終了後、席を立ち、ホールから出ようと歩いていると、チャーミングな女性と目が合ってしまいました。saraiが思わず、コパチンスカヤ・・・と言葉を漏らすと、彼女はにっこりとほほ笑んでくれます。思わず、手を差し出すと、暖かい手で握手してくれました。よく考えたら、彼女とは今年、2回目の握手です。彼女は覚えていないでしょうが、クルレンツィスとの日本公演の初日のパーティーで握手したんです。あのときも今日と同じチャーミングな笑顔でした。だから何って言わないでくださいね。
今日のキャストは以下です。
モーツァルト:オペラ《フィガロの結婚》
アンドレイ・ボンダレンコ(バス・バリトン:アルマヴィーヴァ伯爵)*
エカテリーナ・シチェルバチェンコ(ソプラノ:伯爵夫人ロジーナ)
アレックス・エスポジト(バス・バリトン:フィガロ)
オルガ・クルチンスカ(ソプラノ:スザンナ)
ポーラ・マリヒー(メゾ・ソプラノ:ケルビーノ)
ダリア・チェリャトニコヴァ(メゾ・ソプラノ:マルチェリーナ)
エウゲニ・スタビスキー(バス:バルトロ)
クリスティアン・アダム(テノール:ドン・バジーリオ)*
ファニー・アントネルー(ソプラノ:バルバリーナ) (CDではスザンナを歌っていた)
ガリー・アガザニアン(バス:アントニオ)
ムジカエテルナ
ムジカエテルナ合唱団
テオドール・クルレンツィス(指揮)
ニーナ・ヴォロビオヴァ(演出)
*クルレンツィスのCDでも同一キャスト
予習したCDはもちろん、クルレンツィス。キャストは以下です。
アンドレイ・ボンダレンコ(バス・バリトン:アルマヴィーヴァ伯爵)
ジモーネ・ケルメス(ソプラノ:伯爵夫人ロジーナ)
クリスティアン・ヴァン・ホルン(バス・バリトン:フィガロ)
ファニー・アントネルー(ソプラノ:スザンナ)
マリー=エレン・ネジ(メゾ・ソプラノ:ケルビーノ)
マリア・フォシュストローム(メゾ・ソプラノ:マルチェリーナ)
ニコライ・ロスクトキン(バス:バルトロ)
クリスティアン・アダム(テノール:ドン・バジーリオ)
ムジカ・エテルナ(ピリオド楽器オーケストラと合唱団)
テオドール・クルレンツィス(指揮)
録音時期:2012年9月24日~10月4日
録音場所:ペルミ国立チャイコフスキー・オペラ&バレエ劇場
録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)
(以下の内容は既に書いたものです。今回も自分の文章をパクりました。ごめんなさい。)
オペラですから、本来は映像付きがよいのですが、《フィガロの結婚》だと、CDで聴いていても、映像が頭に浮かびます。saraiのお気に入りの3大オペラの一つですからね。実演でも10回以上は聴いています。
で、肝心の演奏ですが、予想通り、序曲からきびきびしたテンポで展開していきます。素晴らしいのは、音楽が活き活きしていて、CDでありながら、実演を聴いている感覚に陥ることです。それにオーケストラの演奏だけでなく、アリアの歌わせ方がとても見事です。ケルビーノの2つのアリア、フィガロの《もう飛ぶまいぞ、この蝶々》、伯爵夫人ロジーナの第3幕のアリア、スザンナのアリアと伯爵夫人とのデュエットなど、とりわけ、有名アリアが素晴らしいです。ずっと聴き惚れていましたが、やはり、フィナーレでアルマヴィーヴァ伯爵が『Contessa,perdono!』と伯爵夫人に許しを乞う歌唱では、強い感銘を受けて、うるっとします。この後、伯爵夫人が『Più docile io sono, e dico di sì.』と優しく許しを与えると、もう、たまりません。saraiの感情が崩壊します。その後のトゥッティも素晴らしいです。もう天国の世界です。そして、トゥッティがそのまま、テンポアップして、勢いよく、素晴らしいオペラを締めます。この実演を聴いたら、オペラ終了後、しばらく、立てなくなりそうです。ルツェルン音楽祭の本番はコンサート形式ですが、そんなことは関係ありません。究極のオペラが聴けそうです。長年、ヨーロッパ遠征してきて、音楽を聴いてきた集大成になるでしょう。
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