ずっしりと重いブラームス:ペーター・レーゼル・ピアノ・リサイタル@紀尾井ホール 2014.11.8
このところ、ちょうど、ブラームスのピアノ曲にはまっているところです。特に今日演奏される後期のOp.117は特に心に残る名曲のうちのひとつ。Op.116からOp.119までの4つはブラームスが残してくれた宝物のような音楽です。《3つの間奏曲》Op.117を集中的に聴いておきます。聴いたのは以下のCDです。
ジュリアス・カッチェン(ブラームス・ピアノ作品全集)
ウィルヘルム・ケンプ(ブラームス後期ピアノ作品集、LP,CD)
グレン・グールド(ブラームス間奏曲集)
イェルク・デムス(クラウディオ・アラウ追悼:ブラームス博物館、ブラームス・フリューゲルとスタインウェイ)
ヴァレリー・アファナシエフ(ブラームス後期ピアノ作品集)
エリーザベト・レオンスカヤ(ブラームス・ピアノ作品集)
本命はブラームスを弾くために生まれてきたような早逝の天才ジュリアス・カッチェンのブラームス・ピアノ作品全集ですが、間奏曲だけは、グレン・グールドのピアノが凄過ぎます。グレン・グールドはバッハのCDよりもブラームスの間奏曲のCDのほうが素晴らしいと思います。ぐいぐい引き込まれる演奏です。実はsaraiが人生で初めて出会ったブラームスのピアノ曲のCDがこのグレン・グールド盤だったので、刷り込みもあるのかもしれません。クラウディオ・アラウの録音がないのが何とも残念です。
シューマンのフモレスケは以下のCDを聴きました。
クラウディオ・アラウ(ARRAU HERITAGE Schumann)
アンジェラ・ヒューイット
アラウのシューマンは何を聴いても最高です。ヒューイットのCDは初めて聴きましたが、なかなか魅力的。これから、ご贔屓にしようかな。
シューベルトのピアノ・ソナタ第20番はこれまでさんざん、ブレンデル、ポリーニ、ケンプで聴いてきました。今回は以下のCDを聴きました。
クラウディオ・アラウ(ARRAU HERITAGE Schubert)
マレイ・ペライア(新盤)
アンドラーシュ・シフ(シューベルト・ピアノ・ソナタ全集)
アラウとペライアはもう文句の言いようのない素晴らしさ。今回、シフのシューベルトを初めて聴きましたが、ユニークな演奏ながら、すっかり魅了されました。ソナタ全曲聴いてみましょう。
予習はそんなものでした。
さて、今日の演奏はドイツ最後の巨匠とも思えるレーゼルです。と言っても彼はまだ60代。東ドイツ出身なので、古い人に思えてしまいますが、まだまだ、今後の活躍も期待できます。
まず、今日のプログラムは以下です。
ピアノ:ピーター・レーゼル
ブラームス:3つの間奏曲 Op.117
シューマン:フモレスケ 変ロ長調 Op.20
《休憩》
シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番イ長調 D959
《アンコール》
シューベルト:4つの即興曲 D899 Op.90より 第3番変ト長調
ブラームス:ワルツ集 Op.39より 第15番変イ長調
シューマン:子供の情景 Op.15より、第7番《トロイメライ》
リサイタルの曲目がいいですね。ドイツ・ロマン派を代表する名曲ばかりです。聴いても聴いても聞き飽きることのないドイツ・ロマン派。シューベルト、シューマン、ブラームスのピアノ曲を聴いていると、もう、それだけで人生が終わっても悔いがないと思ってしまうくらいです。
1曲目のブラームスの3つの間奏曲 Op.117。ブラームスが避暑地のバート・イシュルで書いた名曲です。第1曲は子守歌ですが、レーゼルが弾くと、とても重々しく響きます。とても子守歌という優しい響きではありません。ドイツらしい重心の低い演奏です。心の奥底に何か、ずっしりとした苦渋を秘めているようです。第2曲にはいると、少し、柔らかい響きが美しく聴こえてきますが、曲が進行していくと、やはり、ずっしりとした響きに捉われます。第3曲は最初から、重苦しい響きで始まります。しかし、ピアノのタッチは素晴らしく美しいんです。とても荘重なブラームスでした。そして、これこそ、本物のブラームスとも感じました。CDで聴くなら、カッチェンとかアラウでブラームスを聴きたいところですが、リファレンスとしてはこのレーゼルも座右に置かないといけないかもしれません。
2曲目はシューマンのフモレスケ。ブラームスのような重い響きを予想していたら、さにあらず。いかにもシューマンらしい瑞々しく柔らかい響きです。抒情に満ちあふれたシューマンにうっとりと聴き入ります。この曲はシューマンがクララと結婚する前年にウィーンで書いた曲です。ウィーンではアラベスクと花の曲を書いています。クララはパリにいて、シューマンはクララに思いを寄せながら、このロマンあふれる曲を書きました。恋心を秘めて、表情豊かな曲を仕上げました。レーゼルはとても美しいシューマンを描き出します。美しいピアノのタッチはシューマンにぴったり。レーゼルのシューマンをもっと聴いてみたいという思いが強くなりました。
休憩後はシューベルトの大曲、ピアノ・ソナタ第20番 D959です。これまた、シューベルトらしい響きを聴かせてくれました。大好きな第2楽章のロマンチックさにうっとりと聴き入りました。しかし、凄かったのは第4楽章。美しい主題が繰り返されますが、左手で主題を弾き、右手の高音で装飾するパートの素晴らしさに息を呑みます。そして、フィナーレに向かっての疾走は感動もの。素晴らしいシューベルトでした。
そして、アンコールで弾いたシューベルトの即興曲でもさらなる高みの演奏。三連符アルペジョのさざ波のような響きが盛り上がり、深い憧憬を感じさせてくれます。最高のシューベルトです。それにsaraiはこの曲が大好きなんです。今日一番の演奏でした。大満足!
シューマンのトロイメライもとてつもなく、美しい演奏でした。《子供の情景》全曲を聴きたくなりました。
ドイツの重鎮、レーゼルのピアノ独奏のドイツ・ロマン派は素晴らしい演奏で、音楽を満喫しました。来年も来日して、演奏してくれるんでしょうか。
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