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西欧文化を体現する圧巻の演奏:ベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲・・・アンドラーシュ・シフ&カペラ・アンドレア・バルカ@東京オペラシティコンサートホール 2019.11.8

まるでシフ教授を囲むシュンポシオン(シンポジュウム)を聞いているかのごとき、西欧文化の精華を満喫するコンサートでした。西欧文化の中心には音楽は欠かせない存在であることを再確認しました。シフ教授の弾くピアノは美しいだけでなく、知性の薫りに満ちており、オーケストラの面々はその講義を聴きながら、各々も自主的な発表を行い、その様子を我々、聴衆が垣間見るという雰囲気です。ヘルマン・ヘッセの《ガラス玉演戯》そのものの姿ではありませんか。そして、そのシュンポシオンの核にはベートーヴェンが西欧文化に打ち立てた古典音楽(ロマン派への道程も示されていますが)が中心テーマになっています。

妙な前置きになってしまいましたが、単に素晴らしい演奏だったとか、完璧なベートーヴェンのピアノ協奏曲だったと言ってしまっては語弊があると思うほどの高いレベルの音楽だったんです。聴衆がただ音楽に耳を傾けるだけでなく、音楽からの深い文化的な示唆を受けて、その理解度を試される場であったとも思えます。シフ教授はピアノを弾きながらも、そのメッセージが聴衆に正しく伝わっているかを察知していたようにも思えます。聴衆は静寂の中で集中力を発揮して、十分に理解したサインをシフ教授に送り返していたと思います。演奏後の盛り上がった拍手だけが重要ではなかったと思います。

今日の前半に演奏された第1番は凄い演奏でした。昨日からの全5曲はすべて最高レベルの演奏でしたが、ひとつだけ選ぶとしたら、この第1番が究極の演奏。第1楽章の冒頭のオーケストラ演奏の響きから、何かが起こると予感させるものでした。その素晴らしさは書き尽くせませんが、第1楽章の長大なカデンツァはありえないレベルの恐るべき演奏でした。美しさもエネルギー感もそのすべてが音楽の頂点に立つような小宇宙を形成しています。まったくもって、今のシフの凄さと言ったら、歴史上最高のピアニストと言っても過言でありません。ところで第1楽章の展開部の終盤で再現部に移行する部分でオクターブのグリッサンドがあると解説に書いてあったので、注目していましたが、シフは何の造作もなく、見事に弾き切りました。その右手の動きは目にも止まらぬ早業としか言えません。ちなみにその部分の楽譜は以下です。1段目の最後にあるグリッサンドです。

2019110801.jpg



右手だけでオクターブを弾かずに、両手で弾けばよさそうですが、左手はバス音を弾かないといけないので、やはり、右手だけでオクターブを弾く必要があります。ベートーヴェンの時代の楽器はフォルテピアノで現代のピアノと違って、鍵盤のタッチが軽かったので、現代のピアノで弾くほどの困難さはありませんでした。それでもベートーヴェンの弟子だったカール・チェルニーはその著書でオクターブが難しければ、単音で上部の音列だけを弾きなさいと記しているくらいですから、当時でも難しい奏法だったようです。いやはや、凄い演奏技術を見せてもらいました。

後半の皇帝ももちろん、最高でした。昨日聴いた3曲が霞んでしまうほどの演奏でした。シフのピアノのタッチの美しさはますますさえ渡りました。自然で肩に力が入っていないけれども不思議にピアノがよく鳴ります。無論、激しくピアノの鍵盤を叩くこともありますがそれもうるさくありません。すべてが収まるべきところに収まるという風情です。かくあらねばならないという演奏に終始しました。これ以上のベートーヴェンは望むべきもないでしょう。

結局、当初はそう期待していたコンサートでもなかったんですが、現代最高のベートーヴェン弾きのアンドラーシュ・シフの手にかかると、これほどまでに素晴らしいベートーヴェンのピアノ協奏曲チクルスになってしまうんですね。アンコールも含めると、第4番と第5番は第2・3楽章は2度も聴かせてもらったし、もう、ベートーヴェンのピアノ協奏曲はsaraiの人生では聴く必要はなさそうです。次はシフのベートーヴェンのピアノ・ソナタの全曲演奏会を聴きたい!!
 
アンコールでは、ピアノ協奏曲第4番のほか、ピアノ・ソナタ第24番 嬰ヘ長調 op.78《テレーゼ》のまるまる1曲を聴かせてもらいました。内心はアパッショナータ全曲を期待していましたが、さすがにそれはなしでした。同時期に作曲された告別ソナタは来年春の来日コンサートで聴かせてもらえます。

今日のプログラムは以下です。

  指揮/ピアノ:アンドラーシュ・シフ
  管弦楽:カペラ・アンドレア・バルカ

  ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番 ハ長調 op.15

   《休憩》

  ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 op.73《皇帝》

   《アンコール》
  ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 op.58 より 第2・3楽章
  ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第24番 嬰ヘ長調 op.78《テレーゼ》より 第1・2楽章(つまり、全曲)


なお、予習したCDは以下です。

 アンドラーシュ・シフ、ベルナルト・ハイティンク指揮シュターツカペレ・ドレスデン 1996年 ドレスデン、ルカ教会

最後に皇帝を聴きました。美しさと壮大さを兼ね備えた演奏に魅了されました。ハイティンクの指揮も見事です。このシュターツカペレ・ドレスデンとのコンビでベートーヴェンの交響曲も録音してくれればよかったのですが、それは見果てぬ夢です。



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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

       シフ,

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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

もろともにあはれとおもへ山ざくら 花よりほか

通りすがりさん

コメント、ありがとうございます。正直、もう2年ほど前のコンサートなので、詳細は覚えておらず、自分の文章を信じるしかないのですが、生演奏とテレビで

05/13 23:47 sarai
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