fc2ブログ
 
  

ハンブルク市立美術館:ココシュカ、カンディンスキー、そして、クレーの傑作《金色の魚》

2018年8月22日水曜日@ハンブルク/7回目

今日はハンブルクHamburgでゆったり散策。まずはハンブルク市立美術館Hamburger Kunsthalleで名画鑑賞。
2階の常設展示室で20世紀の作品の展示を見て回っているところです。

ドイツ表現派の一人、エミール・ノルデのコレクションを見たところです。この後からは名作が揃いますからね。ココシュカ、カンディンスキー、クレーと続いていきます。

オスカー・ココシュカの《娘と粘土人形》。1922年、ココシュカ、36歳頃の作品です。表現主義の画家のひとりとして、ここにココシュカの作品が展示されているんですね。虚を突かれた思いです。ココシュカと言えば、saraiにとって、《風の花嫁》(バーゼル市立美術館所蔵)がすべてです。saraiの最愛の絵画です。マーラー未亡人のアルマへの燃えるような愛が昇華した作品ですが、現実では、ココシュカが第1次世界大戦の過酷な従軍から戻ると、アルマは別の人物(ヴァルター・グロピウス)と結婚していて、彼の恋愛は成就することはありませんでした。しかし、思い詰めたココシュカにとって、アルマは永遠の恋人。その思いは奇怪な形で結実します。アルマを象った人形を女性作家ヘルミーネ・モースに制作を依頼します。化け物のような人形が出来上がり、ココシュカはそのアルマ人形に魅入られたようになります。結局、その人形との生活は3年ほど続きますが、この作品、《娘と粘土人形》はそのアルマ人形を破棄した頃のものです。この作品は女性彫刻家アンゲリカ・ブルーノ=シュミットのアトリエで彼女が堕胎した子の毛髪を植え付けた粘土人形をココシュカに抱かせようとしたときの恐怖体験に基づいているそうです。娘が粘土人形を抱えている構図はピエタを連想するものです。ココシュカの人形に向ける千々に錯綜した複雑な思いが表現主義的に描き出されている、何とも言えない作品です。

2019120201.jpg



ワシリー・カンディンスキーの《白い点(コンポジション248)》。1923年、カンディンスキー、57歳頃の作品です。カンディンスキーは青騎士時代を経て、この作品を制作した頃はバウハウスで教鞭をとっていました。青騎士からの仲間、クレーも同僚です。青騎士で抽象化を深めた彼の絵画はいよいよ、幾何学的な文様を用いた純粋な抽象絵画に向かいます。彼の代名詞でもある「コンポジションの時代」です。この作品も一連のコンポジションシリーズの一枚です。ジグザグの線、三角形、円、湾曲した形、孤立した直線が互いに接触または貫通する多数の連動要素を示しています。タイトル名の白い点は、黒で縁取られた抽象的な構成の右上隅に暗く曇った星のように浮かんでいます。作品全体は音楽のようなリズミカルな動きに満ちています。ピエト・モンドリアンと並んで、抽象絵画を確立した創設者の渾身の一枚です。

2019120202.jpg



さあ、いよいよ、この美術館の目玉のパウル・クレーの《金色の魚》です。本当にクレーの才能に満ちた作品です。暗めに抑えられた色彩感が素晴らしいです。人が全然たかっていないのも凄いです。

2019120203.jpg



1925年、クレー、46歳頃の作品です。クレーは1921年から1931年までバウハウスで教鞭をとりました。クレーをバウハウスに招聘したのは、ココシュカを失意のどん底に追い込んだアルマの再婚相手のヴァルター・グロピウスでした。グロピウスは近代建築を代表する大建築家でバウハウスの初代校長を務めていました。その傍らにはアルマがいたわけですね。ともあれ、このバウハウス時代はクレーが絵画の探求に打ち込んだ時代で、クレーの黄金時代と言えます。その時期に生み出された大傑作がこの《金色の魚》です。暗い海の中でまるで発光しているかのように存在感を発揮している魚の神々しさは圧倒的です。誰がこれだけの画力を持ちえたでしょう。もう、これ以上の感想は必要ありませんね。

クレーの作品が続きます。

パウル・クレーの《岩の多い海岸》。1931年、クレー、52歳頃の作品です。バウハウス時代の終わり頃の作品ですね。幾何学的に抽象化されていますが、そのデザイン的な構成の妙で美しい具象作品にも思えてしまいます。大きな3角や4角の構図で、画面いっぱいに小さな点が描画されているのはクレー独特の作風です。この作風をとことんまで追求した名作《パルナッソス山へ》(ベルン美術館)はこの作品の翌年に生み出されます。

2019120204.jpg



パウル・クレーの《町の中心》。1937年、クレー、58歳頃の作品です。バウハウスからデュッセルドルフに移ったクレーはナチスの弾圧にさらされます。スイスのベルンに逃れますが、銀行口座も凍結され、病に倒れます。そのクレーがようやく復調し、再び、旺盛な制作活動に戻ったのが、この1937年のことです。もう彼に残された日々は短いのですが、最後の芸術活動で幾何学的な抽象絵画に取り組んだのがこの作品です。

2019120205.jpg



パウル・クレーの《高架橋の革命》。1937年、クレー、58歳頃の作品です。上の作品と同時期の抽象的な作品です。高架橋のアーチが並んでいます。しかし、そのアーチは不規則に並び、橋脚も異様な細さで描かれています。高架橋の頑丈で機能的なアーキテクチャが破壊された姿で描かれているようです。戦争が迫る不穏な情勢を描き出すとともに、画家自身の不安な感情を表現しているかのようです。

2019120206.jpg



この後、クレーは原因不明の難病である皮膚硬化症が悪化していき、それでも創作活動を続けますが、3年後にロカルノ近郊のサンタニェーゼ療養所で不遇な死を迎えます。希代の天才芸術家は不遇な人生の中で我々に素晴らしい遺産を残してくれました。

さあ、最後にもう一度、名作《金色の魚》を見ておきましょう。何という輝かしさでしょう。

2019120207.jpg



今回の旅はクレーに縁のある旅になりました。
それでも、ハンブルク市立美術館のコレクションはまだまだ続きます。



↓ saraiのブログを応援してくれるかたはポチっとクリックしてsaraiを元気づけてね

 いいね!







関連記事

テーマ : ヨーロッパ
ジャンル : 海外情報

コメントの投稿

非公開コメント

人気ランキング投票、よろしくね
ページ移動
プロフィール

sarai

Author:sarai
首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
たまには、旅ブログも書きます。

来訪者カウンター
CalendArchive
最新記事
カテゴリ
指揮者

ソプラノ

ピアニスト

ヴァイオリン

室内楽

演奏団体

リンク
Comment Balloon

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

もろともにあはれとおもへ山ざくら 花よりほか

通りすがりさん

コメント、ありがとうございます。正直、もう2年ほど前のコンサートなので、詳細は覚えておらず、自分の文章を信じるしかないのですが、生演奏とテレビで

05/13 23:47 sarai
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR