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最上のオーケストラ、超一流の指揮者で何ともチャーミングな魅惑のコンサート・・・アラン・ギルバート&東京都交響楽団@東京文化会館大ホール 2019.12.9

もう嬉しくなって踊りたくなるような素敵なコンサートでした。トップクラスの在京オケを超一流の指揮者が振ると、こうなるのねって感じの何とも形容のしがたい演奏。“美しい”とか“素晴らしい”という、いつもの形容詞では不足でしょう。楽興という言葉で逃げるしかありません。そもそも、プログラムが素晴らしい。アラン・ギルバートはやはり、只者ではないことをはっきりと認識させてくれるようなプログラムだったし、そのすべての楽曲を完璧に手の内に収めたような見事な指揮。その指揮にちゃんと応えられた都響のアンサンブルも最高でした。古典から現代までバランスの取れた選曲で、多分、全曲、saraiは実演では初聴きという、マニアックなプログラム。多彩な曲が並びますが、ばらばらの音楽を寄せ集めた印象もない、趣味がよいとしか言えない曲の選択に唸らせられます。もう、これ以上言うべき言葉もありませんが、一応、それぞれの曲の演奏の印象について、述べてみましょう。

まず、冒頭はリストのピアノ独奏曲《悲しみのゴンドラ》をジョン・アダムスがオーケストラ用に編曲したもの。原曲はヴェネチアでリストが亡くなる前後のリヒャルト・ワグナーを悼んだ作品。第1稿は亡くなる直前。第2稿/第3稿は亡くなった後に手を入れたものです。ワグナーの妻はリストの娘コジマですが、その結婚の経緯は不倫から始まっており、当初、リストとワグナーは絶縁状態でした。しかし、親子の縁か、いつしか、リストはワグナーと仲直りし、その死に向けても、こういう作品を残しています。リストはバイロイト通いもしていました。で、この作品ですが、リストの晩年の作品らしく、実に宗教的で幻想的なものです。それまでの派手なロマンに満ちた作品とはかけ離れています。さらにワグナーの死に心を向けたためか、暗くて瞑想的です。その曲を現代音楽の作曲家ジョン・アダムスが編曲すると、ミニマリズムの無調的な雰囲気を湛えつつも、後期ロマン派の雰囲気も残した、何とも音楽的なレベルの高い名作になりました。しかもアラン・ギルバートの手にかかると、この曲の質が格段に向上します。作曲家自身の指揮よりも目立って素晴らしく変身します。いやはや、アラン・ギルバートのセンスの良い選曲と天才的とも思える指揮、そして、一段とアンサンブルの質が向上した都響の演奏。何も言うことはありません。脱帽です。

次はバルトークのヴァイオリン協奏曲第1番。これは協奏曲というよりも、ヴァイオリンソロの矢部達哉を囲むアンサンブルという感じ。特に第1楽章で初めにヴァイオリンソロが静かに弾かれて、その響きが、次第にオーケストラに放射状に広がっていく様が、都響のコンサートマスターである矢部達哉の存在感がしっかり出ている感じで、ほのぼのとしています。独奏者でありながら、都響のアンサンブルの中心にもなっている感じです。若き日のバルトークの作品を矢部達哉が弾くというのもなんだか、ぴったりとはまったような気がします。晩年のバルトーク、傑作を生み出し続けていた時期のバルトークもいいですが、若き日のバルトークも好きです。R.シュトラウスの交響詩にはまっていた血気盛んな青年だったバルトークはまだ、後期ロマン派の影を宿しています。後のバルトークの面影も既に現れています。天才は初めから才能を発揮していたわけです。その素晴らしい作品を矢部達哉は一切の力みなく、淡々と弾きますが、バルトークの音楽の本質に迫る見事な演奏です。そして、彼とアンサンブルを形成する都響も最高のバルトークを奏でます。指揮のアラン・ギルバートのさりげないサポートもさすがの腕前。いつもはバルトークのヴァイオリン協奏曲と言えば、第2番を聴くことが多いですが、第1番の素晴らしさを初めて実感できました。ところで、この作品はバルトークが亡くなった後、13年も経って、ようやく初演されたそうです。彼が愛した女性ヴァイオリニストのもとで眠っていて、彼女の死後、遺品の中から発見されたからだそうです。この名作が今日、こうして聴けるのは何と幸せなことでしょう。

休憩後、また、現代の作曲家による編曲作品が演奏されます。現代の作曲家の中で最も著名で作品の演奏頻度も高いトーマス・アデスがフランスのバロックの作曲家クープランのクラヴサン曲集から3曲を選んで、室内オーケストラ用に編曲したものです。登場した室内オーケストラはバロック風に左右の2群の弦楽5部に分かれて、オリジナルのクラヴサンの響きを彷彿とさせるような鄙びた雰囲気の音楽を奏でます。これまた、アラン・ギルバートの音楽のさばき方の絶妙なことに驚愕します。3曲目の《魂の苦しみ》の美しく、お洒落な演奏に魅了されました。冒頭の《悲しみのゴンドラ》と同様に原曲の雰囲気を残しつつ、現代性も兼ね備えて、微妙なバランスを完璧に表現するというアラン・ギルバートの天才的な指揮に舌を巻きました。

最後は何故か、フツーの古典、ハイドンの交響曲です。しかし、これが凄かった。てっきり、小さな編成で演奏すると思ったら、大編成の弦楽での演奏です。しかもそれでいて、まるで室内オーケストラのように究極のアンサンブルで透明な響きの演奏です。パッセージの細かいニュアンスも表現する凄いアーティキュレーションには、ただただ、聴き入るしかない・・・どんどんと引き込まれるような最高のハイドンに魅せられました。こういうハイドンならば、第1番から第104番まで、すべて聴きたくなります。104分の1しか聴けないことが、酷に思えるような凄い演奏でした。予習で聴いたラトル指揮のベルリン・フィルをはるかに上回る最高級の演奏に感動しました。これって、セル指揮のクリーブランド管弦楽団と同等の演奏に思えます。まさに奇跡のハイドンでした。第4楽章の定番の笑いもよかったしね。それは終わったと見せかけて、実はまだ、続くというハイドンのジョークですが、騙されたふりをして、拍手した少数の聴衆の協力もあってのことでした。2度目はさすがに誰も協力しないと見てとったアラン・ギルバートはコンミスの四方恭子とコンビで即興演技でホールの笑いをとっていました。まあ、これで笑いがとれるのは、超絶的な演奏があったればのことです。

こういう演奏を聴かされると、今週末のアラン・ギルバート指揮の都響のマーラー(6番)を聴きたくなるのは当然のことでしょう。帰宅後、すぐにチケットを買いました。多分、とんでもないマーラーを聴かせてくれるでしょう。昨日の残念なマーラー(第1番)を払拭してもらいましょう。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:アラン・ギルバート
  ヴァイオリン:矢部達哉
  管弦楽:東京都交響楽団  コンサートマスター:四方恭子

  リスト(アダムズ編曲):悲しみのゴンドラ
  バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第1番 Sz.36

   《休憩》

  アデス:クープランからの3つの習作(2006)(日本初演)
  ハイドン:交響曲第90番 ハ長調 Hob.I:90


1曲目のリスト(アダムズ編曲)の《悲しみのゴンドラ》はYOUTUBEで予習しました。

  https://www.youtube.com/watch?v=hb41SGQova0
  ジョン・アダムズ指揮ロンドン交響楽団

 
2曲目のバルトークのヴァイオリン協奏曲第1番を予習したCDは以下です。

 イザベル・ファウスト、ダニエル・ハーディング指揮スウェーデン放送交響楽団 2012年4月、ストックホルム、ベルワルドホール セッション録音
 
ファウストは禁欲的な演奏をするのかと思ったら、思いのほか、纏綿とした美しい演奏。聴き惚れました。これ以上の演奏は考えられないほどの素晴らしい演奏です。


3曲目のアデスの《クープランからの3つの習作》はYOUTUBEで予習しました。

  https://www.youtube.com/watch?v=CjWbjuWsU74
  トーマス・アデス指揮ヨーロッパ室内管弦楽団


4曲目のハイドンの交響曲第90番を予習したCDは以下です。

 サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィル 2007年2月8-10,14-17日、ライヴ録音
 
ライヴ録音そのままで、終楽章は騙しのコーダで何度も聴衆の拍手と笑いがそのまま録音された楽しいCDです。もっとも、それでは申し訳けなく思ったのか、付録でスタジオ録音で拍手なしバージョンも収録されているというご丁寧なアルバムです。第88~92番、協奏交響曲が2枚のCDに収録されています。



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オペラ・美術が大好きでヨーロッパの旅にはまっています。音楽の聖地ウィーンが中心で、イタリア、フランス、ドイツも巡っています。国内外のオペラ・コンサートの体験もレポートします。

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お役に立てて、なによりです。我が家では今でもメインのCDプレーヤーとして活躍しています。ただ、最近はCDはいったんリッピングしてHDDに格納し、USBオーディオでオーディ

01/18 15:18 sarai

父からアンプとセットで譲り受けたもののトレイが動かず困っていましたが、
ブログを見て自分で購入・修理することができました。
利益目的でもなくまた素人でも分かる記事

01/18 13:50 hisa

のりしんさん

saraiです。コメントお寄せいただき、ありがとうございました。
同じ追っかけ仲間、今後ともよろしくお願いいたします。
彼女の声は素晴らしいですね。

12/01 12:07 sarai

私も中村さんの追っかけやっております。昨日の演奏も圧倒的でしたね。中村さんの歌を聴いていると、なぜか涙腺が緩んで来ます。

12/01 09:39 のりしん

Steppkeさん

saraiです。ティーレマン信奉者にとって、《あまり好きでない》=《嫌い》に思えてしまうのです。まあ、夜道でうんぬんはいかにティーレマン信奉者でもやりま

11/15 10:39 sarai

sarai さん。
そんな..Thielemann が「嫌い」などと、夜道で後ろから刺されるようなことは言わないで下さい。
別に「嫌い」ということはないですよ。
今年は既に4回も聴

11/15 09:39 Steppke

Steppkeさん

saraiです。最前列で聴いたので、ほとんど弦セクションの音が響きました。それが狙いなので、満足しました。本文にも書きましたが、ウィーン・フィルのブルッ

11/14 13:15 sarai
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