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鍵盤からそこはかとなく漂う詩情 田部京子@浜離宮朝日ホール 2019.12.12

この田部京子のシューベルト・プラスなるコンサートシリーズも今回で第6回となり、既にシューベルトの遺作ソナタ3曲も弾き終わり、晩年の作品は今日のD.915のアレグレットとこれから最後に弾かれるであろうD.946の3つの即興曲(3つの小品)を残すのみ。シリーズのメインもシューベルトからシューマンにシフトして、今回の《子供の情景》、次回のクライスレリアーナ(遂に聴ける!)など、シューマンの名品がピログラムに並びます。加えて、今日は若き日のブラームスの大曲、ピアノ・ソナタ第3番まで登場し、ブラームスへのシフトも視野にはいってきました。ブラームスの晩年の名作、Op.116からOp.119も是非すべて弾いてもらいたいものです(4つの小品 Op.119は既に弾きましたから、残りは3つ)。

で、今日のコンサートですが、何とも夢のような時間がゆっくりと過ぎ、田部京子の素晴らしいピアノの響きによるポエムに心を奪われました。CDでは決して体験できない贅沢な時間です。今日の田部京子は最高の状態での演奏で、弾いたすべての曲がアンコール曲も含めて最上の出来でした。田部京子も人間ですから、正直、いつも最上の演奏を聴かせてくれるわけではありませんが、今日は彼女のベストの演奏を聴かせてくれました。どんな曲にも味わい深い詩情が漂ってきます。これが田部京子だけの美質なんです。

まずはシューベルトの晩年の名作、アレグレットです。シューベルトのしみじみとした思いが込められた演奏です。こういう作品には田部京子の詩情に満ちた演奏が不可欠です。こんな素晴らしい演奏が聴ける幸せ感でいっぱいになりました。まだ、彼女はこの曲を録音していませんが、これだけはCDで聴こうとは思いません。多分、我が生涯でこれだけの演奏を聴くのはこれが最後になるでしょうが、もうこれで十分です。

次はシューマンの《子供の情景》。彼女のCDと同様に少しスローなテンポの演奏ですが、最初の《見知らぬ国》の優しい温もりの演奏で心をつかまれ、第7曲のトロイメライで魅了され、第12曲の《子供は眠る》の美しい演奏で夢の国に誘われて、終曲の《詩人は語る》のかみしめるような演奏で感動の極に達します。終曲の魂の演奏は途中、止まりそうなパウゼが何度も入り、その儚げな美しさの極みに強い共感を覚えずにはいられませんでした。最後の1音が消えて、静寂に包まれるときの感動は言葉では表せません。最高のシューマンでした。

前半の最後はグリーグのペール・ギュント 第1組曲の4曲です。これは田部京子の持ち曲みたいなもので、ほかの人の演奏は聴いたことがありません。これは楽しく聴けました。ただ、このシリーズで聴くのはなんだか物足りないような気もします。グリーグであれば、「抒情小曲集」の何曲かのほうが聴き甲斐があるかな。まあ、見事な演奏ではありましたし、こういう曲ですら、詩情を感じさせるのは凄いです。


休憩後の後半は今日のメイン、ブラームスのピアノ・ソナタ第3番です。ピアノ・ソナタ第1番/第2番と同じ頃、すなわち、20歳頃のブラームスがデュッセルドルフのシューマン夫妻宅を訪れて、長期滞在した直後に作曲され、シューマンに講評を求めて譜面を送った最後の作品です。若さゆえの情熱とロマンに満ちた大作です。田部京子の演奏は恐ろしいほど凄いもので、saraiがそのすべてを受けとめられたとは言えません。saraiの許容力を超えたすさまじい演奏でした。長大な第1楽章で聴く力を使い果たした感もあります。力強いけれども、そのロマンに満ちあふれた音楽の素晴らしさと言ったら・・・ブラームスの本質を見事に表現し尽くしていました。でも、最高に素晴らしかったのは第2楽章のアンダンテです。これまた長大な楽章ですが、静謐でありながらも芯のある音楽が熱を込めて弾かれ、saraiはすっかり心を奪われます。そして、終盤の熱い魂の盛り上がり。何という素晴らしさでしょう。最後の回想するようなパッセージを息を呑んで聴き入りました。終楽章までレベルの高い演奏が続き、saraiはついていくのがやっとという感じです。最後の壮大な頂点を聴き終え、ただただ、圧倒されました。若き日のブラームスの素晴らしさを初めて実感できましたが、決して十分に聴きとれ切れなかった自分が情けない感じです。

アンコールはそうしたsaraiの思いを優しく慰撫してくれるようなブラームスの晩年の名作です。これは文句なしに夢のような演奏で、saraiも耳馴染んだ名曲の世界で感銘の極みでした。2曲目は田部京子のファンならば、定番ともいえるシューベルトのアヴェマリア。右手の美しいタッチに感銘を覚えました。


今日のプログラムは以下です。

  田部京子シューベルト・プラス 第6回

  ピアノ:田部京子
 
  シューベルト:アレグレット ハ短調 D.915
  シューマン:子供の情景 Op.15
  グリーグ:ペール・ギュント 第1組曲 Op.46

  《休憩》

  ブラームス:ピアノ・ソナタ第3番 へ短調 Op.5

  《アンコール》
   ブラームス:『ピアノのための6つの小品』Op.118から、第2曲 間奏曲 イ長調 アンダンテ・テネラメンテ
   シューベルト:「アヴェ・マリア」(編曲:田部京子、吉松隆)


最後に予習について、まとめておきます。

シューベルトのアレグレットを予習したCDは以下です。

 マリア・ジョアン・ピリス 1996年6月、7月 ミュンヘン&ハンブルク セッション録音

ピリスの最高のシューベルト演奏です。


シューマンの子供の情景を予習したCDは以下です。

 田部京子 1999年8月10-13日 群馬 笠懸野文化ホール セッション録音


グリーグのペール・ギュント 第1組曲を予習したCDは以下です。

 田部京子 2018年4月12-13日 埼玉・富士見市民文化会館キラリふじみ セッション録音


ブラームスのピアノ・ソナタ第3番を予習したCDは以下です。

 ジュリアス・カッチェン 1962年6月 ウエスト・ハムステッド セッション録音

カッチェンの不朽の名演奏のブラームス全集の中から聴きました。これほど完成度の高いブラームスはないでしょう。



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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

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08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
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07/08 18:59 sarai

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07/08 15:53 じじい@

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久々のコメント、ありがとうございます。
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06/18 12:46 sarai

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05/13 23:47 sarai
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