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自己と葛藤するマーラーを鮮やかに表現・・・アラン・ギルバート&東京都交響楽団@サントリーホール 2019.12.14

アラン・ギルバートのセンスを買って、つい1週間前に急遽、チケットを求めましたが、その期待は裏切られませんでした。第5番から第7番までの中期の交響曲はマーラーの交響曲の中では、どう演奏されて、どう聴き取ればいいのか、難しいと感じます。この第6番は都響でベルティーニ、インバルで聴いてきましたが、正直、演奏に完全に満足したわけでもなく、また、自分としても、どう向き合えばいいのか、迷うところも多い難しい音楽です。それはマーラーと妻アルマの微妙な関係に原因があるのではないかと思うところが多々あります。第5番でアルマとの愛にあふれていたマーラーもアルマへの愛が深まるにつれて、ある意味、焦燥感のようなものにかられたのではないでしょうか。永遠の愛を信じつつも、頭の片隅にある疑念をぬぐい切れない・・・後にそれは現実のものとなるわけですが、この時期はそんな兆候すらもなく、ヴェッター湖のほとりにあるヴィッラの周りの自然は美しく、山中のマイヤーニックの作曲小屋は静けさに包まれています。本当は幸福感の絶頂にある筈ですが、現代人の自我はそんなに単純にはなれません。逃げようもない死への思いもあったでしょう。現実世界ではウィーンの楽壇では困難さにつきまとわれていました。そういう感情が激情となって迸り出た作品がこの第6番ではないでしょうか。

長々と前口上を書きましたが、それはいかにこの作品の演奏は難しいかを表現したかったんです。今日のアラン・ギルバート&東京都交響楽団は見事に演奏しました。ベルティーニ、インバル以上の出来だったと思います。そうそう、忘れないうちに書いておきますが、今日の中間楽章の演奏順はアンダンテ→スケルツォの順でした。マーラーの初演のときの順序ですね。終楽章のハンマーは3度叩かれました。これもマーラーの初演と一緒ですね。
第1楽章は終始、力強いアンサンブルの響きでしたが、その暗い響きは地獄の奈落の底を眺めている風情です。一瞬、アルマのテーマで愛を歌いますが、それは長続きしません。第2楽章にはいると一転して、のんびりしているとも思える明るい表情になります。ヴェルター湖の自然の中にいるような心持ちです。しかし、後半では千々に心が乱れるとでも形容したくなる哀しい叫びが美しい自然を覆い隠します。このあたりのアラン・ギルバートの表現は素晴らしく、微妙なタッチです。
第3楽章はまた、第1楽章の動機が戻ってきて、再び、地獄の暗い表情が纏綿と綴られていきます。そして、決然として、第4楽章に入ります。ここは一番の難所です。愛や絶望など、もろもろの要素がないまぜになった精神分裂症的とも思える一貫性のない音楽ですが、ここに至って、さらにアラン・ギルバートのセンスのよさが光ります。都響のアンサンブルをまとめ上げて、きっちりと音楽を進行させていきます。難しい音楽内容を見通しよく描き出したと言えます。後半、音楽が高潮していくところで、その質の高い音楽にsaraiは深く感動しました。芸術家マーラー、人間マーラーの率直とも思える自己との葛藤の凄まじい表現に共感を覚えたからです。

期待していたとは言え、ここまでの演奏を聴かせてくれたアラン・ギルバート&東京都交響楽団に深く感謝します。素晴らしいマーラーでした。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:アラン・ギルバート
  管弦楽:東京都交響楽団  コンサートマスター:矢部達哉

  マーラー:交響曲第6番 イ短調《悲劇的》


マーラーの交響曲第6番を予習したCDは以下です。

 マイケル・ティルソン・トーマス指揮サンフランシスコ交響楽団 2001年9月12日~15日、サンフランシスコ、デイヴィス・シンフォニー・ホール ライヴ録音
 
演奏された日付に注目!! 何とあの痛ましい同時多発テロの翌日です。そのせいかどうか分かりませんが、マイケル・ティルソン・トーマスはいつもの内省的な表現よりも激しく強い演奏スタイルの部分が印象的です。表現方法はともかく、やはり、MTTのマーラーは素晴らしいです。



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ジャンル : 音楽

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05/13 23:47 sarai
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