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どこか温もりを感させるヴィルサラーゼのピアノを堪能@浜離宮朝日ホール 2020.1.17

たった1台のピアノで奏でる音楽が好きです。ピアノ・リサイタルを開くピアニストは誰でも素晴らしい音楽を聴かせてくれます。超一流のピアニストだけでなく、広く聴きたいと思いますが、まあ、そうもいきません。膨大な数のピアノ・リサイタルが日々、開かれています。今日はロシアを代表するピアニストの一人、エリソ・ヴィルサラーゼのピアノ・リサイタルに足を運びました。前から気になっていたピアニストですが、これが初聴きになります。もっともCDではシューマンなどを聴いていました。

会場はほぼ満席。sarai同様、ピアノのファンは多いですね。熟年のヴィルサラーゼが黒づくめのいでたちで登場。黒髪の彼女はピアノも含めて、漆黒の舞台を作り上げます。椅子に座ると、間を置かないで、鍵盤を叩き始めます。

プログラム前半はロシアもの。まず、チャイコフスキーの四季です。てっきり、全12曲弾くのかと思っていたら、1月から8月までの8曲だけに絞るそうです。プログラム全体の長さを考慮したのでしょう。有名な6月《舟歌》はちゃんと弾かれるのでいいでしょう。10月《秋の歌》が聴けないのがちょっと残念です。
安定した響きの演奏です。指慣らし程度の演奏かと思っていたら、きちんと熱の入った本格的な演奏です。あまり、ロシアを前面に出したような演奏ではなく、ピュアーなピアノで真摯な音楽を奏でていきます。どこか人間の温かみを感じさせる演奏にぐっと惹き入れられます。やはり、有名な6月《舟歌》は見事な演奏でチャイコフスキーの美しい旋律美を堪能させられます。全12曲でないのは残念ですが、素晴らしい8曲の演奏に満足。

次はプロコフィエフ。サルカズム5曲とトッカータが続けて演奏されます。同じロシアものと言ってもチャイコフスキーとプロコフィエフはまったく別物です。ロマンの香りのするチャイコフスキーに対して、プロコフィエフはモダンで先鋭的です。激しいリズムで超絶技巧の作品をヴィルサラーゼはなんなく弾きこなします。超絶的な演奏ではありますが、テクニシャンが陥りやすい無機的で音楽的内容に乏しい演奏とは一線を隔して、ここでも、どこか温もりのある音楽を聴かせてくれます。それでも、迫力のあるピアニズムはさすがネイガウス門下であることを思い起こさせます。カミソリのような切れ味鋭いピアノではなくて、たっぷりとしたピアノの響きを聴かせながらも怒涛のダイナミズムのピアノの演奏でした。うーん、素晴らしいプロコフィエフです。

後半はヴィルサラーゼの得意とするシューマンです。
まずはノヴェレッテンの第8曲。なかなかの大曲です。複雑な作品ですが、旋律線を明確にして、よく整理された演奏です。素晴らしいシューマンです。満足、満足。

最後はシューマンの傑作中の傑作、幻想曲。第1楽章が出色の出来でした。ともかく、ここでも明確な旋律線。シューマンでここまで明確に弾き切るのは至難の業でしょう。と言っても、シューマンらしいロマンと展開の意外性が損なわれているわけではありません。ヴィルサラーゼならではのシューマンがここでは聴かれます。ちょっと不満があったのは第3楽章です。よいところはここでも明確さですが、鳴らし過ぎの感は否めません。このあたりは趣味の問題かもしれませんが、saraiとしてはこの第3楽章は密やかに静謐に音楽を奏でてもらいたいんです。ホールの後方の席で聴けば、また、印象が違ったかもしれません。昨年聴いた田部京子やザルツブルク音楽祭で聴いたアンドラーシュ・シフの素晴らしい第3楽章のイメージが忘れられません。

と言うことで、シューマンの幻想曲の第3楽章を除けば、チャイコフスキーもプロコフィエフもシューマンも第1級の出来でした。アンコール曲は本編と関係なしに何とショパン。特に最後の華麗なる大円舞曲が素晴らしい演奏。あまりショパン好きではありませんが、思わず聴き惚れてしまいました。


今日のプログラムは以下です。

  ピアノ:エリソ・ヴィルサラーゼ
 
  チャイコフスキー:四季 Op. 37bより 1月~8月
  プロコフィエフ:風刺(サルカズム) Op.17
   ニ短調 Op.11

  《休憩》

  シューマン:8つのノヴェレッテ Op.21より第8番嬰へ短調
  シューマン:幻想曲 Op. 17

  《アンコール》
   ショパン:マズルカ 第45番(遺作) Op.67-4 イ短調
   ショパン :華麗なる大円舞曲 第2番 Op.34-1 変イ長調


最後に予習について、まとめておきます。

チャイコフスキーの四季を予習したCDは以下です。

 ミハイル・プレトニョフ 1994年1月 アビー・ロード第1スタジオ、ロンドン セッション録音

あんまり、プレトニョフのピアノは聴いていませんが、刮目するような演奏です。一度、実演を聴いてみたくなります。


プロコフィエフの風刺(サルカズム)を予習したCDは以下です。

 ヴァレリー・アファナシエフ 2017年7月3-5日 フェストハレ、フィアゼン、ドイツ セッション録音

アファナシエフの『テスタメント(遺言)』と題された6枚組の超弩級のボックス・セットに含まれた録音です。2017年にハイドン、ベートーヴェン、シューベルト、シューマンという独墺音楽のほか、ビゼー、フランク、ドビュッシーというフランス音楽、そして、プロコフィエフが録音されました。凄い演奏です。アファナシエフも縁がなく、聴き逃がしているピアニストです。一度はチケットを買いましたがヨーロッパ遠征のスケジュールと重なったため、聴けませんでした。早々に実演に駆け付けましょう。


プロコフィエフのトッカータを予習したCDは以下です。

 マルタ・アルゲリッチ 1960年7月 ハノーファー セッション録音

アルゲリッチのデビュー・アルバムの中の1曲。何と颯爽としているんでしょう。


シューマンの8つのノヴェレッテを予習したCDは以下です。

 伊藤恵 シューマニアーナ6 1995年5月 埼玉アーツシアター セッション録音

伊藤恵の重厚でしっかりしたシューマンは聴き応え十分。


シューマンの幻想曲を予習したCDは以下です。

 伊藤恵 シューマニアーナ5 1993年9月 田園ホール・エローラ(松伏町中央公民館)、埼玉県北葛飾郡 セッション録音
 アンドラーシュ・シフ 2010年6月20日-22日 コンツェルトザール、ノイマルクト、ドイツ セッション録音

伊藤恵の素晴らしいシューマン! そして、それ以上に素晴らしいシフのシューマン! もちろん、今回は聴きませんでしたが、リヒテルの名演も忘れてはいけません。田部京子も是非、録音してほしいものです。



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08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
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07/08 18:59 sarai

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クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
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07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

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コメント、ありがとうございます。正直、もう2年ほど前のコンサートなので、詳細は覚えておらず、自分の文章を信じるしかないのですが、生演奏とテレビで

05/13 23:47 sarai
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