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最高のブラームス、そして、奇跡のバッハ アンドラーシュ・シフ ピアノ・リサイタル@東京オペラシティ コンサートホール 2020.3.12

母の逝去、コロナウィリス・・・2月の中旬から3月20日までのコンサートは12回の内、10回が中止になり、唯一残ったのが今日と来週のアンドラーシュ・シフのピアノ・リサイタルです。9年前の大震災のときは9分の1のコンサートでしたが、今回は今のところ、12分の2のコンサートです。12分の2であるシフのコンサートが一番聴きたかったコンサートだったというのは僥倖です。しかし、ほぼ、50年ぶりに聴く予定だったアルゲリッチが聴けないのは運命でしょうか。以前、チケットを買ったのにころっと忘れていて、行きそびれたトラウマがあるのがアルゲリッチ。しょせん、縁がないのでしょう。デビューしたてのアルゲリッチを胸の底にしまっていけというご託宣かもしれません。ともかく、シフのピアノ・リサイタルは1年以上も前から楽しみにしていたものでした。それというのも、シフのピアノでブラームスの晩年の名作を聴くのが以前からのsaraiの夢だったんです。まさか、それが実現するとは思ってもいなかったんです。何せ、シフはほとんどブラームスの作品をCD化していないんです。しかし、CDで聴けるブラームスの《ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ》ではシフが素晴らしい演奏を聴かせてくれています。これを聴いて、saraiの夢がふくらんでいたんです。

で、今日、実際に聴いたブラームスの《7つの幻想曲集 Op.116》は期待を上回る素晴らしい演奏。3曲のカプリッチョの暗い情念は深い響きのピアノで心に迫りましたし、4曲のインテルメッツォはインティメットな心の呟きが美しい響きのピアノで優しく語りかけてきました。これ以上、何も求めることはできないでしょう。今日から、saraiにとってのブラームスはピアノ独奏曲が最高のジャンルになりました。交響曲でも協奏曲でも室内楽でもなく、ピアノ独奏曲こそ、ブラームスが作り上げた最高の世界です。若きブラームスがデュッセルドルフのシューマン宅を訪れたときにピアノ・ソナタを聴いてもらって、ブラームスの音楽人生が実質的に始まり、晩年にバート・イシュルで書いたのが今日の《7つの幻想曲集 Op.116》。ブラームスは常にピアノ演奏家としてもピアノの独奏曲を書き続けていました。来週のリサイタルでは晩年の残りの独奏曲集のOp.117、Op.118、Op.119が聴けます。アンドラーシュ・シフにとって、バッハに始まるドイツ・オーストリア音楽こそ、もっとも音楽的な基盤とするところです。3年前にハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトの最後の2つのソナタを聴かせてもらいましたが、ドイツ・オーストリア音楽はシューマン、ブラームスを聴かないとその輪を閉じることができません。シューマンはザルツブルク音楽祭で幻想曲やピアノ・ソナタなどを聴きました。今回、ブラームスの晩年の作品を聴くことで一応の完結に達します。

しかし、バッハこそはシフのベースとなる音楽です。saraiがシフを初めて認めたのは彼の弾くバッハのフランス組曲を聴いたときのことでした。その頃はシフはバッハ弾きだと思っていました。これまでも素晴らしいバッハの演奏を聴かせてもらいました。ザルツブルク音楽祭で聴いた平均律クラヴィーア曲集第2巻はその頂点に立つ演奏でした。今日は初めて、シフの弾くイギリス組曲を聴きました。第6番だけですが、まさに神が降臨したような奇跡の名演でした。早めのテンポで弾き始めたプレリュードはフーガに入ると、超絶的な高速演奏。あり得ないレベルのバッハです。アルマンドも早めの演奏で聴き惚れるだけです。クーラントも高速演奏。サラバンドは噛みしめるような演奏で、中間の美しさは光り輝きます。有名なガヴォットは楽しく聴き惚れます。そして、圧巻のジーグは究極のフーガ。圧倒的な高みに達して終わります。凄い演奏でした。実はCDで彼の演奏を聴いていましたが、全然、こんな演奏ではありませんでした。シフはあり得ないほどに進化したことに気が付き、愕然としました。

ともかく、後半に弾いたブラームスとバッハは素晴らしかったんです。前半のメンデルスゾーン、ベートーヴェン、ブラームスもよかったのですが、後半に比べると、音の輝きも粒立ちもそこまでのものではありませんでした。シフにしては美しい音の響きが足りないとさえ思っていましたが、後半になり、まるで別人。後半に向けて、ためていたのでしょうか。

アンコールはいつものシフのように第3部のプログラムが始まったみたいです。イタリア協奏曲は今回でアンコール3度目。よほど、お好きなようです。ベートーヴェンの葬送は何とも厳かな演奏でベートーヴェンの真髄を聴くような感じでした。ブラームスは晩年の作品群の中で一番、有名とも思えるインテルメッツォ。素晴らしい演奏にただただ、聴き惚れるのみ。来週、もう一度聴けるのが嬉しいですね。最後にシューベルトの珍しい曲が聴けて満足。

この時期に日本を訪れて、リサイタルを開いたというのはシフにも並々ならぬ思いがあったようです。アンコールではこれまで聴いたことのない彼の日本語の片言を聴きました。コロナ・ウィリスに負けずに希望を抱いてほしいというメッセージを日本人に伝えたかったのでしょう。ただただ、感謝の気持ちに浸るのみです。


今日のプログラムは以下です。

 メンデルスゾーン:幻想曲 嬰ヘ短調 Op.28《スコットランド・ソナタ》
 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第24番 嬰ヘ長調 Op.78《テレーゼ》
 ブラームス:8つのピアノ小品 Op.76

   《休憩》

 ブラームス:7つの幻想曲集 Op.116
 J.S.バッハ:イギリス組曲第6番 ニ短調 BWV811


   《アンコール》

    J.S.バッハ: イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV971
    ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第12番 変イ長調 Op.26「葬送」から 第1楽章
    メンデルスゾーン:無言歌第1集 Op.19bから 「甘い思い出」
             無言歌集第6巻 Op.67から 「紡ぎ歌」
    ブラームス: インテルメッツォ イ長調 Op.118-2
    シューベルト: ハンガリー風のメロディ D817

最後に今回の予習についてですが、ブラームスを中心に聴きました。内容は次回のリサイタルで書きましょう。ブラームス以外はシフの演奏を中心に聴きました。



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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

       シフ,

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久々のコメント、ありがとうございます。
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