ブラームスの晩年の名作、至高の演奏 アンドラーシュ・シフ ピアノ・リサイタル@東京オペラシティ コンサートホール 2020.3.19
しかし、最高に素晴らしかったのはブラームスの晩年の名作の最後を飾るOp.119の4つの小品です。最初の2曲はアイロニーに満ちた哀切極まりない演奏です。ブラームスがこの分野でいかに高みに達したかを示してくれる素晴らしい演奏に聴き惚れます。そして、最後の第4曲。ラプソディーが高らかに歌われます。魂の高揚・・・何というレベルの演奏でしょう。
saraiが夢に思い描いていた通りの素晴らしい演奏でした。CDにも録音していないので、まさにシフのブラームスの晩年の名作は初聴きだったんです。以前、Op.117の第1曲の間奏曲をアンコールで聴いて以来、シフがこういうレベルの演奏をするだろうと期待していましたが、その通りの演奏でした。ただただ、満足です。
ブラームス以外も素晴らしい演奏でした。シューマンの最後のピアノ曲はある意味、痛々しい音楽ではあります。幻想曲やクライスレリアーナ、交響的練習曲などの晴れやかなピアノ曲とはまったく雰囲気を異にします。シューマンが最後の力を振り絞って、歌い上げた白鳥の歌とでも表現しましょうか。それをシフは実に誠実に演奏しました。シューマンを愛するシフでなければ、こうは演奏できなかったでしょう。音楽とはかくも人間的なものなのですね。ベートーヴェン、シューベルト、ブラームスの晩年の作品とは様相が異なりますが、シフは大作曲家の晩年の作品に焦点を合わせたような演奏活動をしていますが、このシューマンは異色なものです。シフは我々にこのシューマンの最後の作品はいかに価値あるものかを問いかけるものです。saraiもこれから、じっくりとこの作品に向かい合っていきましょう。
モーツァルトのロンド イ短調 K.511は素晴らしく美しい作品です。シフが今日の演奏で教えてくれました。幻想曲 ニ短調 k.397、幻想曲 ハ短調 k.475と同様に座右に置いておきたい名曲ですね。これもシフが我々にこの名曲を忘れてはいませんかと問いかけてきたようなものです。
バッハの平均律は安定した見事な演奏。何も言うことはありません。うっとりと聴いただけです。プレリュードの美しさ、フーガがだんだんと音の密度を濃くして楽興に至る素晴らしさには参りました。シフにとって、バッハは音楽の原点なのでしょう。いつでもその最高の音楽を取り出すことができますね。
最後に弾いたベートーヴェンの告別ソナタもベートーヴェンの音楽の本質を描き出すものでした。これ以上のベートーヴェンを聴くことはできません。中期のピアノ・ソナタの高揚から後期のソナタの晦渋に至る、すべてがここに語り尽くされています。ああ、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲を聴きたくなりました。それを思わせる力のある演奏でした。何と魅力的な演奏だったか!
アンコールはまた、ゴルトベルク変奏曲のアリア。これは酷ですよ。絶対に全曲を次の来日で聴かせてくださいね。待てないので、とりあえず、YOUTUBEにあるBBCのゴルトベルク変奏曲の演奏でも聴きますか。
ブラームスのアルバムの小品という短くて美しい作品は最近になって新発見の作品なんですね。シフがBBCで放送初演したそうです。これもYOUTUBEで聴けます。
シューマンのアラベスクは素晴らしい演奏。これぞ、最盛期のシューマンのピアノ曲です。
最後はとびっきり美しいシューベルトの即興曲。憧れに満ちた楽想がこれでもか、これでもかと続きます。次の来日ではシューベルトの後期作品のチクルスを絶対に聴かせてください。→関係者殿
最後にコンサート欠乏症の我々に素晴らしい音楽をプレゼントしてくれたシフとカジモトに多大の感謝を捧げます。
今日のプログラムは以下です。(今日のリサイタルはペーター・シュライヤーとピーター・ゼルキンに捧げるそうです。二人ともつい最近亡くなりました。合掌!)
シューマン: 精霊の主題による変奏曲 WoO24
ブラームス: 3つの間奏曲 Op.117
モーツァルト: ロンド イ短調 K.511
ブラームス: 6つのピアノ小品 Op.118
《休憩》
J.S.バッハ: 平均律クラヴィーア曲集第1巻から
「プレリュードとフーガ」第24番 ロ短調 BWV869
ブラームス: 4つのピアノ小品 Op.119
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第26番 変ホ長調 Op.81a「告別」
《アンコール》
J.S.バッハ: ゴルトベルク変奏曲 BWV988から アリア
モーツァルト: ピアノ・ソナタ第15番 ハ長調 K.545から 第1楽章
ブラームス: アルバムの小品
シューマン: アラベスク Op.18
シューマン: 「子供のためのアルバム」Op.68から 楽しき農夫
シューベルト: 即興曲 変ト長調 D899-3
最後に今回の予習についてですが、ブラームスを中心に聴きました。なお、ブラームス以外はシフの演奏を聴きました。
田部京子 Op.117、Op.118、Op.119 2011年8月 上野学園 石橋メモリアルホール
ジュリアス・カッチェン Op.76、Op.116、Op.117、Op.118、Op.119 1962年5月 ロンドン
ペーター・レーゼル Op.76、Op.116、Op.117、Op.118、Op.119 1972-74年
アンナ・ヴィニツカヤ Op.76、Op.116 2015年9月7-10日 Reitstadel, ノイマルクト、ドイツ
ヴィルヘルム・ケンプ Op.76、Op.116、Op.117、Op.118、Op.119 1963年12月 ハノーファー、ドイツ
エレーヌ・グリモー Op.116、Op.117、Op.118、Op.119 1995年11月 ノイマルクト、ドイツ
まずは規範となるのはジュリアス・カッチェン。この人のブラームスは別格です。ブラームスを弾くために生まれてきたとしか思えない天才ピアニストです。次いで、ペーター・レーゼルも負けていません。現代の巨匠と言えば、この人。そう言えば、最近、来日しませんね。巨匠と言えば、ヴィルヘルム・ケンプも忘れてはいけません。見事な軽みに至った演奏です。そして、美女3人のブラームスも最高です。田部京子、アンナ・ヴィニツカヤ、エレーヌ・グリモーは彼女たちの持ち味を十二分に発揮した名演です。今や、ブラームスのピアノ曲も演奏に恵まれる時代になったようです。
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