ヴァイオリンの超新星、辻彩奈の外連味のない演奏に心躍る!@東京オペラシティコンサートホール 2020.8.15
今日は午前中にゲネプロを聴かせてもらい、午後は本番という贅沢な音楽鑑賞です。ゲネプロでも辻彩奈のヴァイオリンは輝いていました。ワクワクする気持ちを抱きながら、本番の演奏に臨みました。
前半はストラヴィンスキーのバレエ音楽「カルタ遊び」から始まります。この曲は初めて聴きます。面白い曲ではありますが、《春の祭典》のような先鋭さは影を潜め、優等生的に新古典主義に回帰したようなもどかしさを感じます。演奏自体は東響の素晴らしいオーケストラの響きで最高ではありますけどね。ラヴェルのラ・ヴァルスやロッシーニの《セヴィリアの理髪師》をパロディってて、そのあたりの弦楽パートや木管の響きの素晴らしさに酔いしれて聴いていたので、十分に楽しませてもらいましたが、やはり、《春の祭典》だったら、どんな演奏になったんだろうと、余計なことを考えてしまいます。
次はいよいよ、ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番です。ゲネプロのときと違って、辻彩奈はマスクを外して登場します。そう言えば、指揮者の沼尻竜典とコンサートマスターの水谷晃もゲネプロの時と違って、マスクを着けていません。これでいいんですよね。水谷晃の発案のようです。とりわけ、ソロ奏者はマスクを着けずに思いっきり、演奏してもらいたいものです。もちろん、客席の聴衆は全員マスク着用です。
冒頭のオーケストラのワクワク感たっぷりの序奏に乗って、辻彩奈の清冽な響きがホールの空間に満ちます。たちまち、saraiの心を持っていかれます。ヴァイオリンの音の響きも美しいし、音楽的な表現も見事ですが、それ以上に何か華というか、オーラに輝いています。第1楽章の主部に入り、その瑞々しい演奏に魅了されます。スケール感のある演奏を聴いていて、チョン・キュンファのことを想起します。あのレベルの演奏に達しています。その演奏に感銘を覚えているうちに第1楽章から第2楽章に移行していきます。第2楽章のまるでR.シュトラウスの音楽のような静謐な美しさを辻彩奈は弱音の響きを効果的に使って、歌い上げていきます。何という素晴らしい音楽なのでしょう。オーケストラもそれに呼応しながら、大きなうねりの音楽で高潮していきます。第1楽章以上の素晴らしさにただただ、うっとりと音楽に酔ってしまいます。後期ロマン派の精華を味わい尽くす思いです。第2楽章がいつまでも続いてほしいと念じますが、無情にも第3楽章に移行します。第3楽章は一転して、勢いのある音楽です。saraiの好みは第2楽章の静謐の美です。ところが期待していなかった第3楽章は冒頭から、辻彩奈の光り輝くような演奏で素晴らしいこと、この上なしという見事さです。パワーがありながらも音楽の美を歌い上げるという離れ業のような凄い演奏です。第3楽章は東響の最高の演奏と相俟って、辻彩奈の凄い演奏に感嘆しているうちに、終盤を迎えます。フィナーレは辻彩奈がぐんぐん加速して、圧倒的な高みに達します。
何という素晴らしいヴァイオリニストが出現したんでしょう。その演奏たるや、まさに恐いもの知らずで、弾きたい放題の感もありますが、ちゃんと音楽の枠におさまっています。もっといい楽器を手に入れれば、さらなる輝きも期待できそうな予感もあります。これから、彼女の音楽を楽しみに人生を過ごしていきたいとsaraiに思わしめるような素晴らしいコンサートでした。
そうそう、アンコールで弾いたバッハの無伴奏ですが、よい意味であっけらかんとした演奏。無理に難しく弾くことはありません。リラックスして聴けるバッハでした。選曲もこれでよかったでしょう。
後半はベートーヴェンの交響曲 第2番。沼尻竜典の指揮の下、東響の素晴らしいアンサンブルで堪能させてもらいました。何もコメントする必要のない演奏です。第1楽章の颯爽としたところ、第2楽章の一点の曇りのない美しさ、第4楽章の高揚。ベートーヴェンの交響曲の中で一番、聴いていない曲ですが、やはり、素晴らしいです。何故にフルトヴェングラーはこの曲をあまり演奏しなかったのか、不思議です。
今日のプログラムは以下です。
指揮:沼尻竜典(ジョナサン・ノットの代演)
ヴァイオリン:辻 彩奈
管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:水谷晃
ストラヴィンスキー:バレエ音楽「カルタ遊び」
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番
《アンコール》J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番 ホ長調 BWV.1006より第3曲《ロンド風のガボットGavotte en Rondeau》
《休憩》
ベートーヴェン:交響曲 第2番 ニ長調 Op.36
最後に予習について、まとめておきます。
1曲目のストラヴィンスキーのバレエ音楽「カルタ遊び」は以下のCDを聴きました。
クラウディオ・アバド指揮ロンドン交響楽団 1974年10月 ロンドン、セッション録音
見事な演奏です。
2曲目のブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番は以下のCDを聴きました。
アンネ・ゾフィー・ムター、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル 1980年 セッション録音
とても若干17歳の少女だったムターが天下のカラヤンを向こうに回して演奏したとは思えない素晴らしさ。やはり、ムターは凄い。
3曲目のベートーヴェンの交響曲 第2番は以下のCDを聴きました。
ルドルフ・ケンペ指揮ミュンヘン・フィル 1971~73年、ミュンヘン、セッション録音
今まで聴いたことのない人の演奏を聴いてみようと思って、これを聴きましたが、全集のほかの曲も聴いてみたくなりました。立派な演奏で、活き活きした演奏です。
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