ルツェルン散策:ローゼンガルト・コレクション~クレーの名作 1918年-1920年
ルツェルンLuzernの街歩き中で、ローゼンガルト・コレクションSammlung Rosengartに立ち寄っています。ピカソとクレーの膨大なコレクションを楽しみました。そして、クレーの作品をピックアップして、ご紹介しているところです。クレーの転機となった1914年のチュニジア(北アフリカ)旅行のちょっと前の作品からチュニジア旅行中、その後の1917年までの作品を見てきました。
これから、1918年の作品から、順にsaraiが気に入った作品を見ていきます。なお、制作年の後ろの括弧の中の数字はその年の作品番号です。
《散歩している女の子》。1918年(41)、クレー39歳頃の作品です。淡い色彩の水彩とペンで描かれたシンプルな具象作品です。しかし、単なる具象的作品ではなく、抽象的な要素もミックスしているのがこの頃のクレーの特徴です。おさげ髪の少女が可愛いですね。クレーが第1次世界大戦に従軍した終わり頃の作品ですが、戦争の影はまったく見られません。チュニジア旅行での強い色彩もおさまり、色んな意味で落ち着きが感じられます。

《最初の動物たち》。1919年(216)、クレー40歳頃の作品です。紫色で統一した画面は美しい抽象画の世界です。しかし、よく見ると、その抽象的な画面の中に先史時代の動物が配置されています。鳥や恐竜たちは抽象的な形態に変容されて、不思議な一体感を醸し出しています。クレーは第1次世界大戦への従軍は前年に終えて、この年、ミュンヘンの画商ゴルツと契約を結び、新進気鋭の画家として、世の中に頭角を現してきました。この作品も傑作と言って、間違いないレベルの作品です。

《にわとりと擲弾兵のいる絵画》。1919年(235)、クレー40歳頃の作品です。暗いけれどもはっきりした色調で構成された画面は抽象絵画そのものですが、そこに部分的に具象的な要素を組み込んだクレー独特の絵画手法が光ります。画面中央の上部ににわとり、下部に擲弾兵を配置しています。今風に言えば、抽象絵画と具象絵画をミックスしたハイブリッド絵画で、両方のテーストが楽しめます。擲弾兵を描いたのは前年に終結した世界大戦の記憶がまだ強烈だったからでしょう。青騎士時代の同志、マッケとマルクが戦死した記憶は決して、消え去ることはないでしょう。

《秋のハーモニー》。1920年(86)、クレー41歳頃の作品です。チュニジアの鮮やかな色彩で秋のイメージを抽象絵画でまとめた作品です。画面の左右に木の幹を描き、単なる抽象絵画で終わらせないクレーの意思がみてとれます。画家の矜持でしょう。

《決して欲しがらない子供がそこにいる》。1920年(88)、クレー41歳頃の作品です。大きな帽子を被ったお洒落をした女の子が画面の中心におり、顔の周りの空間は綺麗な赤で塗られています。何かを辛抱している様子ですが、華やぐような雰囲気も醸し出されています。画家の温かい眼差しが感じられるファミリアな作品です。具象的なモティーフを用いて、画面を大きく分割した色彩構成に挑んだ作品です。この年はミュンヘンのゴルツの画廊でクレーの大回顧展が開かれ、時代の最前線の画家として広く知られるようになります。

《機械としてのドラゴン》。1920年(111)、クレー41歳頃の作品です。タイトルを見なければ、幾何学的なパーツを配置した抽象絵画と見てしまうでしょう。しかし、クレーが目指すのはハイブリッド絵画です。灰色と黒の背景の上に鮮やかな色彩で不思議な形のドラゴンを描いています。それだけでは飽き足らなかったようで、画面の上と下にグラデーションする緑の帯を描き加えて、画面全体の色彩的な調和を図っています。

《アスコナ》。1920年(160)、クレー41歳頃の作品です。アスコナは、スイス・ティチーノ州のマッジョーレ湖の汀にある南スイスの中世風の観光地です。ジャズのフェスティバルやクラシックの音楽祭が開かれます。アスコナの背後の丘「モンテ・ヴェリタ」(Monte Verità、直訳すれば「真理の山」)に、20世紀初頭、自然への復帰を目的とした菜食主義者たちのコロニーが作られ、多くの芸術家が訪れました。クレーもその一人です。
この作品はアスコナの街並みを色彩のパッチワークで描いています。青騎士風のスタイルを思い起こさせます。この時期頃から、カンディンスキーとの交遊も盛んになります。カンディンスキーの影響も感じられます。

この年にヴァルター・グロピウスの招聘を受け、翌1921年から1931年までバウハウスで教鞭をとることになります。ある意味、クレーの芸術の頂点を極める時代になります。次はそれらの作品群を見ていきます。
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