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ルツェルン散策:ローゼンガルト・コレクション~クレーの名作 1923年

2019年9月14日土曜日@ルツェルン/8回目

ルツェルンLuzernの街歩き中で、ローゼンガルト・コレクションSammlung Rosengartに立ち寄っています。現在、クレーの作品をピックアップして、ご紹介しているところです。ここまで、1913年から1922年までの作品を見てきました。
これから、1923年の作品から、順にsaraiが気に入った作品を見ていきます。なお、制作年の後ろの括弧の中の数字はその年の作品番号です。

《青色=オレンジ色のハーモニー》。1923年(58)、クレー44歳頃の作品です。暗く沈んだ色調の油彩画です。矩形に区切られた面が暗色で塗られているだけの純粋な抽象画です。ただ、色彩のハーモニーだけに力点が置かれています。タイトルにあるように青色とオレンジ色が主ではありますが、その色のイメージにあるような輝くような色ではなくて、とても暗い色のハーモニーです。画家の内面を示しているのでしょうか。この時期のクレーは順風満帆だったはずですが・・・。

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《倉庫街(あるいはキャンプ)の通り》。1923年(146)、クレー44歳頃の作品です。ほぼ、単色で描かれた水彩画です。通りの両側の建物は極端に単純化されて、一種の幾何学模様のようです。茶色一色の濃淡だけで塗り分けられた画面は統一性のある景色を作っています。通りを歩く女性二人を配することで画面に温もりを与えています。妙な魅力がある作品です。

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《解放された扉のパースペクティブ(遠近感のある眺め)》。1923年(143)、クレー44歳頃の作品です。上の作品と似たような作品です。ほぼ同時期に描かれたものでしょう。遠近法できっちりと描かれた形象が目に心地よく感じますが、むしろ、茶色で塗られた色の濃淡の微妙な味わいがこの絵の中心的な魅力です。禁欲的な描き方ですが、立ち上る絵心に心を奪われます。

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《2重のテント》。1923年(114)、クレー44歳頃の作品です。一転して、レインボーカラーで色鮮やかに描かれた作品です。左右にほぼ同じ構成の絵を少しずらして、鮮烈な色で描かれた上下の三角形のテントの色彩効果を楽しむ仕掛けです。画面の中央縦に切断線のようなものが見えますね。多分、同じ絵を2枚描いて、少しずつずらして、ちょうど塩梅のよさそうなところで貼り合わせたのでしょう。実験的な作品です。

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《エロス》。1923年(115)、クレー44歳頃の作品です。上の作品とは姉妹作のようです。三角形を色分けすることが主題にあります。ただ、この三角形はテントではなく、ピラミッドのように見えます。しかし、タイトルから想像すると、人体の一部を意識しているようです。ピラミッドの頂点付近は上からの逆さ三角と重なり、重なった部分の中央が薄くオレンジ色のひし形に塗られています。下からの2つの黒い矢印が指し示すのはこのオレンジ色の菱形で、ここに絵の重心があることを示しています。タイトルのエロスとは、この部分に相違ないでしょう。それが何か・・・見るものが想像するだけです。
ピラミッドの色彩の変容と調和が美しいですね。

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《自身で武装するフィオルディリージ》。1923年(95)、クレー44歳頃の作品です。ちょっと見ると男性かと思いましたが、帽子を被った巻毛の女性ですね。で、タイトルを見て、はっとします。これって、モーツァルトのオペラ、ダ・ポンテ三部作の《コジ・ファン・トゥッテ》の一場面ではありませんか。ちょうど、明日の夕方、ここルツェルンの音楽祭で聴く予定のオペラです。
この絵で描かれているのはオペラの第2幕、許婚者が戦場に出かけているときにプリマドンナのフィオルディリージが別の男に言い寄られて、まさに心が折れてしまいそうになるとき、その気持ちを断ち切るように、フィオルディリージは貞節を守るために恋人のいる戦場へ行こうと決意し軍服をまとう場面です。女性の悲愴な覚悟がこの絵に描かれています。でも、結局、ここに言い寄る男が現れて、その気持ちは折れてしまうという何とも微妙で切ない女心までがこの絵には込められているような気がします。ちなみに大きな帽子は軍帽でしょう。フィオルディリージの大きな目・鼻・口が印象的です。うーん、いいときにいい絵を見ました。

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2年後に上のデッサン画はリトグラフに水彩でスプレーされて完成画として結実します。リトグラフですから、同じ絵が何枚か、あるのでしょう。

《コミック・オペラ歌手》。1925年(225)、クレー46歳頃の作品です。まさに題材も絵の構成も上の作品の通りです。ただ、スプレーされた赤い水彩絵の具のグラデーションはこの絵の本質を明らかにしています。女性の内から燃え上がる性へのあくなき情熱、そして、そういう女性に惹かれる男たちの性の願望をモーツァルトの名作オペラのストーリーを題材に描き尽くしています。ちなみにこのモーツァルトのオペラはその不道徳性から、作曲された当時からまったく人気のないオペラで、かのワーグナーは自身の不道徳的な女性遍歴(人妻との不倫等)にもかかわらず、このオペラを酷評しています。このオペラが再評価されたのは20世紀になってからですが、それでもフィガロなどのオペラに比べて、まだ、評価は低いようです。しかし、saraiはこのところ、立て続けにこのオペラの名演を聴き、今や、最高に好きなモーツァルトのオペラになっています。そして、明日の鬼才クルレンツィスの公演を聴き、このオペラの真価を確信するに至ります。もしかして、クレーもこのオペラの真価をこの時代に見抜いていたのでしょうか。天才芸術家は天才の作品の本質を知っていたとすると・・・何か、ぞくぞくします。

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《風光明媚な人相》。1923年(179)、クレー44歳頃の作品です。顔が風景の一部と化したシュールな作品です。まずは変形された顔が面白いですね。よくよく見ないと、この絵のそこかしこに仕掛けられたものを見逃しそうです。レンガ色の水彩1色で描かれていますが、照りつける太陽の存在感には色合いも感じてしまいそうです。チュニジア旅行で鮮やかな色彩に目覚めたクレーもこの時期には、その色彩をあえて封印して、単色だけでも色彩感を表せることに挑戦しているようです。

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ここまでが1923年の充実した作品群でした。バウハウス時代も2年を過ぎ、クレーは同僚にカンディンスキーを迎え、一時はアトリエも共有し、絵画理論の探求に突き進みます。クレーの絵の世界は次第に頂点に向かっていきます。クレーの精緻で構成感に満ちた作品が次々と生まれていきます。



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