ルツェルン散策:ローゼンガルト・コレクション~クレーの名作 1938年
ルツェルンLuzernの街歩き中で、ローゼンガルト・コレクションSammlung Rosengartに立ち寄っています。現在、クレーの作品をピックアップして、ご紹介しているところです。ここまで、1913年から1937年までの作品を見てきました。
これから、1938年の作品から、順にsaraiが気に入った作品を見ていきます。なお、制作年の後ろの括弧の中の数字はその年の作品番号です。
《充溢》。1938年(30)、クレー59歳頃の作品です。クレーは晩年に差し掛かりますが、創作意欲は衰えるどころか、絶頂と言える状況になっていきます。この作品自体も内包するエネルギーが横溢しています。黒い太線で描かれた様々な記号などのシンボルの力強さ、背景のシックな色彩など、素晴らしい作品です。

《リトルX》。1938年(63)、クレー59歳頃の作品です。クレーは晩年に至り、線画表現で芸術の完成を目指します。この作品はその先駆けとも言える大傑作であり、このローゼンガルト・コレクションを代表するする作品でもあります。簡潔さを極めた作品の芸術的な美しさに魅了されます。まるで達人の描いた書のようですね。一気呵成に描いた感があります。この路線は翌年の天使シリーズに昇華します。

《操舵手》。1938年(182)、クレー59歳頃の作品です。これは木炭で描いた作品。クレーとしては珍しい? まあ、一種の線画とも言えますね。これまたシンプルな作品です。山を望む川(あるいは海?)で帆掛け船を操る人物を描いています。ベルン近辺の風景でしょうか。あるいはエジプトのナイル川も思い浮かべてしまいます。なにか、ほのぼのとした作品です。

《ゲストのいる海岸沿いのヘルスリゾート》。1938年(185)、クレー59歳頃の作品です。上の作品と姉妹作のように木炭で水辺の風景を描いています。簡潔ではあるものの風景が丹念に描き込まれています。樹木や太陽などの自然がありありと伝わってくる作品です。わざわざ尋ねてきてくれた客人がパラソルを広げて帰っていくのを楽し気に見送っている人物が絵が描かれている心のこもった作品でもあります。

《壁画作者のためのABC》。1938年(320)、クレー59歳頃の作品です。白い背景を壁に見立てて、ただ、アルファベットの文字を配置しただけの作品ですが、見事な抽象画に仕上がっています。何か心惹かれるものがあります。

《冬の太陽》。1938年(413)、クレー59歳頃の作品です。冬の荒涼とした雪原の上に樹木、あるいは何かシュプールが描かれ、沈みゆく夕陽が憂愁を誘います。スイス、ベルンの冬は長く厳しいと地元の人に聞いたことがあります。病は小康状態とは言え、クレーはどのような心持ちでこの絵を描いたのでしょう。

《仮面のコレクションから》。1938年(414)、クレー59歳頃の作品です。赤い帽子を被った女性の傍らに仮面を着けたと思しき道化が立つという不思議な構図の作品です。水彩と油彩で鮮やかに色付けした画面が強烈な印象をもたらします。こういう土俗的な雰囲気はピカソからのインスピレーションなのでしょうか。

クレーの人生をたどりながら見てきたローゼンガルト・コレクションの膨大な作品も1939年と最晩年の1940年の2年に描かれた4作品を残すのみです。素晴らしいクレーのコレクションを締めくくるのにふさわしい名作ばかりです。
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