田部京子、極上のベートーヴェン with 東京都交響楽団@東京芸術劇場コンサートホール 2020.10.11
今日のコンサートは都響のメンバー全員がマスクなし。コロナ禍が始まった後、こういうすっきりしたコンサートは初めてです。もちろん、指揮者も田部京子もマスクなし。田部京子のマスクなしのお顔を拝見するのは久々です。心なしか、ピアノ演奏への負担も少ないように思われます。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番はピアノ独奏から始まります。いつも通りのピアノ演奏ですが、第1楽章の終盤まではもう一つ、集中できていないようで、切れがありません。前回のコンサートでもそうでした。どうもエンジンのかかりが遅いようです。マスクはありませんが、客席の聴衆がコロナ配置で半分以下なので、ホールの響きをつかみ切れていないのかもしれません。都響のアンサンブルも同様でもう一つの響きです。しかし、第1楽章のカデンツァに入る前あたりから、本来のピアノの響きが戻ってきます。カデンツァはまだ最高の演奏とは言い難いのですが、十分に魅了してくれます。ようやくエンジンがかかってきたようです。
第2楽章は田部京子の独壇場のピアノ演奏です。オーケストラの強奏とナイーブなピアノ独奏が交互に続くベートーヴェンの独創的な音楽で、田部京子の抒情味豊かなピアノの響きが心を打ちます。オーケストラの激しい荒波に耐える一輪のか弱い花が美しい歌を歌い上げます。田部京子だけが表現できる美しい詩情に感動します。とりわけ、最後の独奏パートでの長いトリルの始まる前の絶唱には強い感動を覚えて、涙が滲みます。そして、素晴らしいトリルで音楽は絶頂を迎えます。感動の第2楽章でした。思わず、脳裏に少女時代のマルタ・アルゲリッチがクラウディオ・アラウの演奏を聴いて、この同じ部分で音楽とは何かということを初めて悟ったという逸話が浮かび上がります。アルゲリッチはその後、この曲の演奏を封印したそうです。多分、今でも弾いていないのではないでしょうか。確かに録音で聴くアラウの演奏の素晴らしさは極め付きと言えますが、今日の田部京子の美しい詩情はそれ以上にも思えます。
第3楽章は一転して、切れのよいピアニズムで進行します。そして、圧巻のフィナーレ。終わってみれば、最高のベートーヴェンでした。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲はアンドラーシュ・シフの至高の名演を昨年末に聴いたばかりですが、田部京子の演奏はやはり、彼女にしか弾けない極上の逸品です。まあ、このお二人はsaraiが熱愛するピアニストですから、こういう演奏を聴かせてくれるのは当然と言えば、当然です。去年と今年、ベートーヴェンのピアノ協奏曲の名演を聴けて、幸福感いっぱいです。
後半はドヴォルザークの交響曲第7番。都響は大編成で素晴らしい響きを聴かせてくれました。想像以上の素晴らしい演奏でした。美しい旋律が満載の曲だけに、都響の弦パートの美しい響きは実に心地よく聴けます。とりわけ、第4楽章では都響のアンサンブルの響きが最高潮に達して、感銘を受けます。梅田俊明のツボを押さえた指揮も見事でした。
演奏とは関係ありませんが、東京芸術劇場のレストランもなかなかの充実ぶりです。友人のSteppkeさんとsarai夫婦で、コンサート前には、2階のカフェ・ビチェリンでイタリア・トリノの名物のビチェリンを味わいました。トリノのアル・ビチェリンの支店もしくは提携店のようで、本場同様の味が楽しめました。もっとも、トリノのアル・ビチェリンのように、ビチェリンを混ぜないで飲んでねというメッセージはありませんでしたけどね。スプーンが出されなかったので、混ぜたくても混ぜられないから、メッセージは不要なのかもしれません。三層の味を口の中でミックスする味わいは極上です。
コンサート後はそのカフェ・ビチェリンのお隣のアル・テアトロで美味しいイタリアンとスプマンテを頂きました。とてもリーズナブルな料金でコースディナーが楽しめます。お勧めですよ。
今日のプログラムは以下です。
指揮:梅田俊明
ピアノ:田部京子
管弦楽:東京都交響楽団 コンサートマスター:四方恭子
ベートーヴェン:序曲《コリオラン》 Op.62
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 Op.58
《休憩》
ドヴォルザーク:交響曲第7番 ニ短調 Op.70 B.141
最後に予習について、まとめておきます。
1曲目のベートーヴェンの序曲《コリオラン》は以下のCDを聴きました。
ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団 1966年10月29日 クリーヴランド、セヴェランスホール セッション録音
セルのゆるぎない指揮のもと、素晴らしいサウンドの演奏です。ハイレゾで音質も最高です。
2曲目のベートーヴェンのピアノ協奏曲 第4番は以下のCDを聴きました。
内田光子、サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィル 2010年2月20日 ベルリン、フィルハーモニー ライヴ録音
ラトルはモダンな表現での演奏で、内田光子のピアノも素晴らしいタッチの響きを聴かせてくれ、見事です。しかし、ここは田部京子の演奏を聴いておくべきだったと後で反省。それは復習で聴きましょう。
3曲目のドヴォルザークの交響曲第7番 は以下のCDを聴きました。
ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団 1960年3月18-19日 クリーヴランド、セヴェランスホール セッション録音
セルのドヴォルザークは素晴らしいです。クーベリックと甲乙つけがたしです。ハイレゾでの音質も素晴らしいです。
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