極上のシューマンの夕べ ファウスト&メルニコフ@王子ホール 2021.1.26
最初に演奏されたシューマンのヴァイオリン・ソナタ第1番は暗い情感に満ちていて、ファウストの柔らかい表情のヴァイオリンの響きがロマンティックに歌い上げます。メルニコフの力強いタッチのピアノがそれを支えます。どこか、やるせない雰囲気もあります。ラフマニノフはロシアのやるせなさの音楽ですが、シューマンもドイツのやるせなさの音楽だったのかと今さらながら感じます。この曲はシューマンとしては後期のデュッセルドルフ時代に作曲されたものです。狂気に苛まれ始めたシューマンが美しいロマンの中にどこか苦しそうな感情を秘めたような音楽を書きました。傑作である以上にsaraiの愛する作品です。それは後で演奏される第2番のソナタも同様です。その愛する作品がこれ以上はないように演奏されるのですから、saraiはたまりません。身もだえするような気持ちで聴き入っていました。素晴らし過ぎるシューマンに魅了されました。
次のウェーベルンはとても短い曲ですが、恐ろしいほど緊張感に満ちた演奏に呪縛されました。
プログラムの前半、最後に演奏されたブラームスのクラリネット・ソナタ第2番はブラームスが生涯で最後に書いた室内楽作品です。今日はブラームス自身が編曲したヴァイオリン版です。もちろん、初めて聴きます。冒頭からブラームスらしい抒情的な旋律が流れますが、ファウストの柔らかい響きのヴァイオリンはまったく違和感がなく、美しさの極みです。詳細は書きませんが、今後はヴァイオリン版も演奏機会が増えそうな気がします。それほど素晴らしい演奏でした。ブラームスのヴァイオリン・ソナタは3曲ですが、クラリネット・ソナタ2曲のヴァイオリン版を入れて、これからはヴァイオリン・ソナタが5曲も聴けるのは嬉しいですね。
休憩後、一番、楽しみにしていたシューマンのヴァイオリン・ソナタ第2番です。冒頭で演奏された第1番と同じような雰囲気の素晴らしい演奏です。第1番ほどはやるせなさはありませんが、それ以上に暗い情感が前面に出ます。シューマンの自殺未遂事件の頃の作品です。ロマンや明るく勢いのある外面の背後にシューマンの狂気や苦しみが秘められています。そういう微妙な雰囲気を見事に表現するファウストの演奏です。この作品の聴きどころは第3楽章で哀しい調べのコラールが奏でられるところです。ピチカートに始まり、弓で単音、重音と弾き継がれます。ここで大きな感動があります。激しいトリオを経て、また、コラールに回帰します。ここでさらに感動が増します。ファウストのヴァイオリンも素晴らしいですが、メルニコフのピアノの伴奏の美しいこと! 第4楽章は祝典的にも思える音楽ですが、暗い狂気も秘めています。圧巻のフィナーレでした。
こんな素晴らしいシューマンは2度と聴けないような気がします。コロナ禍の中、よくもお二人は来日してくれました。素晴らしい音楽をありがとう!
そうそう、アンコールで演奏されたクララ・シューマンの美しいロマンス、うっとりと聴きました。いつぞや、コパチンスカヤの演奏でも聴きましたが、とても素晴らしい曲です。
今日のプログラムは以下のとおりでした。
ヴァイオリン:イザベル・ファウスト
ピアノ:アレクサンドル・メルニコフ
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 イ短調 Op.105
ウェーベルン:ヴァイオリンとピアノのための4つの小品 Op.7
ブラームス:クラリネット・ソナタ 第2番 変ホ長調 Op.120-2(ヴァイオリン版)
《休憩》
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ニ短調 Op.121
《アンコール》
クララ・シューマン :ピアノとヴァイオリンのための3つのロマンス Op.22より 第1楽章
最後に予習について、まとめておきます。
1曲目、4曲目のシューマンの2つのヴァイオリン・ソナタを予習したCDは以下です。
イザベル・ファウスト、ジルケ・アーヴェンハウス 1999年 セッション録音
ギドン・クレーメル、マルタ・アルゲリッチ 1985年 セッション録音
アドルフ・ブッシュ、ルドルフ・ゼルキン 1943年 ワシントン ライヴ録音
いずれも素晴らしい演奏。ブッシュは古い録音ですが、感動なしに聴けません。
2曲目のウェーベルンのヴァイオリンとピアノのための4つの小品を予習したCDは以下です。
アンネ=ゾフィー・ムター、ランバート・オーキス 2000年5月 ライヴ録音
ギドン・クレーメル、オレグ・マイセンベルク 1994年5月 ドイツ、ノイマルクト
これも名人2人の演奏は緊張感に満ちた素晴らしい演奏。
3曲目のブラームスのクラリネット・ソナタ 第2番はヴァイオリン版のよいものがなくて、ヴィオラ版を中心に以下のCDで予習しました。
ウイリアム・プリムローズ(ヴィオラ)、ルドルフ・フィルクスニー 1958年 セッション録音
ヨゼフ・スーク(ヴィオラ)、ヤン・パネンカ 1990年 セッション録音
イェルク・ヴィトマン(クラリネット)、アンドラーシュ・シフ 2018年5月14-16日 ドイツ、ノイマルクト、Historischer Reitstadel セッション録音
プリムローズは古い録音ですが、おおらかな演奏で楽しませてくれます。スークはとても美しい、清々しい演奏。ヴィトマンとシフはこれぞ真打ちという深い演奏です。
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