バッハ・コレギウム・ジャパン、創立30周年を締めくくる入魂のヨハネ受難曲@サントリーホール 2021.2.19
聖金曜日から真夏に延期になった《マタイ受難曲》の最高の名演に続き、ロ短調ミサ曲もポリフォニーの極致を極める清冽で迫力のある音楽を聴かせてくれました。この2つはバッハと言うよりも、西欧音楽の頂点に立つ作品です。今日のヨハネ受難曲はその2曲に比べると、曲の構成、オーケストラと合唱隊の構成が小さくて、地味な印象ですが、BCJは創立以来、この曲を得意にしており、世界的にも最高水準の演奏を続けています。そういう意味でとても期待が持てます。それに白状するとsaraiは実演でこの曲を聴くのは初めてなんです。
で、結論を先に述べると、マタイ受難曲、ロ短調ミサ曲に並び立つ素晴らしい演奏でした。演奏自体だけで言うと、まさにBCJの名人たちがその持てる力を出し尽くしたとも言える入魂の演奏でした。
BCJの総力を挙げた演奏でしたが、その演奏の素晴らしさの原動力を3つ、挙げるとすると、第一にエヴァンゲリストを歌った櫻田 亮の美声とテクニックの巧みさ、さらには気魄の凄さに驚嘆しました。これはマタイ受難曲のとき以上と言えます。これだけ歌える人は世界中探してもいないでしょう。
2番目は合唱隊の素晴らしさです。特にコラールの美しさは例えようもありません。このコラールを聴くだけでもヨハネ受難曲を聴く甲斐がありました。バッハの音楽の最高峰はマタイとヨハネの2つの受難曲のコラールではないかと思ってしまいます。どんなささくれた気持ちも癒されてしまいます。BCJの合唱隊のコラールは西洋音楽の原点を衝くものです。
3番目は指揮者の鈴木雅明のバッハへの情熱です。それがBCJの全員に伝わっての名演につながっています。
以上が今日の演奏の総括ですが、どうしても書きたいところに絞って何点かを挙げます。
第30曲のアルトのアリア、成し遂げられた!Es ist vollbracht !
ヴィオラ・ダ・ガンバの美しい響きに乗って、CTの久保法之があり得ないような歌唱を聴かせてくれました。失礼ながら、持てる実力の150%くらいの美し過ぎる歌唱でした。これなら、海外のCTに引けをとりませんし、BCJのCDで聴ける米良の歌唱にも優るとも劣らないという絶唱でした。
この第30曲に続く10曲は素晴らし過ぎる演奏ばかりです。
第32曲のアリアとコラール、尊い救い主よ、お尋ねしてよろしいでしょうかMein teurer Heiland,lass dich fragen
今日、好調の加耒 徹の張りのある歌唱は素晴らしいです。そのバックで合唱隊が低い音量で歌うコラールの何とも美しいことに感銘を覚えます。この味わいは実演ならではでしょう。
第35曲のソプラノのアリア、わが心よ、涙となって融け流れよZerfließe, mein Herze, in Fluten der Zähren
これは今日の最高の演奏でした。BCJの達人たちが総結集した名演です。弱音器を付けたヴァイオリンの若松夏美、フラウト・トラヴェルソの菅きよみ、オーボエ・ダ・カッチャの三宮正満、オルガンの鈴木優人、チェロの山本徹の素晴らしいアンサンブルをバックにソプラノの松井亜希が畢生の歌唱を聴かせてくれました。正直言って、彼女がこんな素晴らしい歌唱を聴かせてくれるとは衝撃でした。ピュアーな声と素晴らしい節回し、それに完璧とも思える曲の理解。ここまで歌えるソプラノだったとは・・・絶句です。
第39曲の合唱、安らかに眠ってください、聖なる骸よRuht wohl, ihr heiligen Gebeine
マタイ受難曲の終曲と類似した音楽が素晴らしい合唱で聴けます。聴き惚れるだけです。
第40曲のコラール、ああ 主よ、あなたの愛する天使を遣わされAch Herr, las dein lieb Engelein
BCJの合唱隊が持てる喉の最後の力を振り絞ったような感銘あふれる終曲です。
コロナ禍で海外からの独唱者が来日できず、日本人メンバーだけでの演奏になりましたが、そういうことを払拭するような最高の演奏でした。
今日のプログラムは以下です。
指揮:鈴木雅明
エヴァンゲリスト:櫻田 亮
イエス/バス:加耒 徹
ソプラノ:松井亜希
アルト:久保法之
テノール:谷口洋介
オルガン/チェンバロ:鈴木優人
フラウト・トラヴェルソ:菅きよみ
オーボエ:三宮正満
ヴァイオリン(コンサートマスター):若松夏美
チェロ:山本徹
合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン
J. S. バッハ
《ヨハネ受難曲》 BWV 245
第1部
《休憩》
第2部
最後に予習について、まとめておきます。
以下のCDを聴きました。
鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパン
ゲルト・テュルク(福音史家)、浦野智行(イエス)
イングリット・シュミットヒューゼン、米良美一、桜田亮、ペーター・コーイ
1998年4月、神戸松蔭女子学院大学チャペル セッション録音
バッハ・コレギウム・ジャパンのデビュー録音もヨハネ受難曲でしたが、これはその3年後のBIS録音です。さらにこの2年後には映像版も収録されています。昨年、2020年、コロナ禍のヨーロッパで演奏旅行中に演奏会を断念したケルンでこの曲の3回目のCD録音も行っています。今回は名演の誉れ高い1998年のCDを聴きましたが、昨年の新録音は所蔵するもまだ聴いていません。ヨハネ受難曲はBCJの十八番です。楽しみはとっておきましょう。
↓ saraiのブログを応援してくれるかたはポチっとクリックしてsaraiを元気づけてね
いいね!
- 関連記事
-
- 久々のマーラー、久々の中村恵理 大野和士&東京都交響楽団@東京文化会館 2021.2.22
- バッハ・コレギウム・ジャパン、創立30周年を締めくくる入魂のヨハネ受難曲@サントリーホール 2021.2.19
- イザベル・ファウストのシマノフスキはミステリアスでありながら、チャーミング 熊倉 優&NHK交響楽団@東京芸術劇場コンサートホール 2021.2.12