音楽が聖なるものに昇華する瞬間(とき)に感動は生まれる クァルテット・アルモニコ@鶴見サルビアホール 2021.3.30
クァルテット・アルモニコは初聴きです。てっきり若手だと思っていたら、意外にベテランなのだそうです。芸大の学生時代に結成以来、既に26年経ち、ウィーンでも研鑽を積んできたそうですが、出産などで途中、ブランクもあったそうです。さすがに技術的には高いレベルですが、曲によって、出来が異なります。実力をすべてにおいて出し切るだけの練習量が不足しているのではないかと想像されます。これから、徐々に本来の力を発揮していくような予感がします。これからの活躍を期待しましょう。
さて、今日の演奏ですが、最初のハイドンの「皇帝」は第1楽章は緊張感が漲っていますが、少し、力み過ぎで上滑り気味。第2楽章以降、徐々にアンサンブルがよくなります。まあまあの演奏でしょうか。
2曲目のドヴォルザークの「アメリカ」は本来の力を発揮した見事な演奏。これくらい弾ければ文句ありません。とりわけ、第2楽章の美しい響きにはうっとりと聴き入りました。
前半は2曲の有名曲でしたが、休憩後の後半は名曲中の名曲、ベートーヴェンの晩年の傑作、弦楽四重奏曲第15番です。どう弾くのか、聴く前は不安でしたが、事実、第1楽章の入りは微妙な感じです。手探り状態で弾いている感じで、聴いている方としても変な緊張感があります。しかし、次第に集中力が増して、第3楽章では弾く演奏者も聴いている聴衆も音楽に没入していきます。ホール全体が一体化して、ベートーヴェンの晩年の高い境地の音楽以上の音楽にみなの心が満たされていきます。ベートーヴェン晩年の弦楽四重奏曲3曲(第13番~第15番)はやはり、人類が生み出した最高の音楽であることを痛切に感じます。楽章後半のコラールにも例えられる寂漠とした音楽の寂寥感に感極まります。長い楽章ですが、じっと聴き入るのみです。彼女たちの演奏も最高レベルに達します。第3楽章が終わった後の休止でこの音楽が終わったような達成感があります。しかし、第4楽章もカタルシスのような感じで無理なく続いていきます。そして、短い休止で第5楽章に入ります。素晴らしい演奏に高潮していきます。たまらず、強い感動に襲われます。ベートーヴェンが達したものが何であったのか・・・苦しみの後の悟りとも、あるいはそれでも人間は生きていくという決意とも思えるような音楽を彼女たち(彼ら)は魂の声として表現していきます。そういう意味での美しい音楽です。第3楽章以降はまさに神の恩寵のような素晴らしい演奏でした。
アンコールはハイドンが完成させた最後の弦楽四重奏曲の最後の楽章。これは完璧な演奏でした。これなら、本編も「皇帝」ではなく、こちらの「雲がゆくまで待とう」を聴きたかった気分ですが、終わりよければ、すべてよし。
数年後のクァルテット・アルモニコがさらなるレベルに達していることを願わずにはいられません。精進してくださいね。
今日のプログラムは以下です。
弦楽四重奏:クァルテット・アルモニコ
菅谷早葉 vn 生田絵美 vn 阪本奈津子 va 松本卓以 vc
ハイドン:弦楽四重奏曲 第77(62)番 ハ長調 Op.76-3 Hob. III. 77「皇帝」
ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲 第12番 ヘ長調 Op.96「アメリカ」
《休憩》
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第15番 イ短調 Op.132
《アンコール》
ハイドン:弦楽四重奏曲 第82(67)番 ヘ長調 Op.77-2 Hob.III:82「雲がゆくまで待とう」 から 第3楽章
最後に予習について触れておきます。
1曲目のハイドンの弦楽四重奏曲 第77(62)番 「皇帝」は以下のLPレコードを聴きました。
アマデウス弦楽四重奏団 1963年9月 ドイツ、ハノーファー セッション録音
アマデウス弦楽四重奏団のLPレコードのほぼすべてのコレクションを収集し終えて、順次、聴いているところです。これはアマデウス四重奏団にしてはまあまあの演奏ですね。
2曲目のドヴォルザークの弦楽四重奏曲 第12番 ヘ長調 Op.96「アメリカ」は以下のLPレコードを聴きました。
スメタナ弦楽四重奏団 1980年 神戸文化会館 ライヴ録音
ドヴォルザークの弦楽四重奏曲 「アメリカ」と言えば、スメタナ弦楽四重奏団。学生時代に京都で実演に接した記憶がいまだに鮮烈に思い出されます。このレコードはその時よりも後の来日時の録音で素晴らしい響きが聴けます。
3曲目のベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第15番 Op.132は以下のLPレコードを聴きました。
アマデウス弦楽四重奏団 1962年4月 ベルリン セッション録音
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲もアマデウス弦楽四重奏団のLPレコードで順次聴いています。Op.18の6曲は素晴らしい演奏です。後期のこの曲も安定した演奏です。
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