旅で見つけたブッシュ弦楽四重奏団のLPレコード
ウィーンの少し郊外のトゥルンの街、そこは画家エゴン・シーレの生まれた街です。シーレに惹かれて、トゥルンの街へ出かけ、通りを歩いていて、たまたま見つけたレコード店。そこのご主人の案内で店内の膨大なLPレコードのコレクションを見せていただき、偶然、目に止まったLPレコードがブッシュ弦楽四重奏団のベートーヴェン後期弦楽四重奏曲集でした。大枚はたいて、手に入れました。

大事にスーツケースの衣類の間に挟んで日本まで持ち帰りました。そして、ようやく時差ぼけがかなり解消した今日になって、ちょっとだけ聴いてみようと3枚組のディスクの1枚をケースから抜き取って、レコードプレーヤーに乗せ、慎重に針を下ろしました。
最初の1枚はベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番嬰ハ短調 Op.131です。何せ1936年の録音ですから、どういう音質なのか、皆目見当が付きません。とりあえず、今日は音質や盤質だけチェックし、後でゆっくりと鑑賞しましょう。
すると、スピーカーから流れてきたのは実に妙なる響き!! うっ、美しい。とても75年も前の演奏とは信じられない美しい響きです。もちろん、モノラルですが、そういうことを意識させない立体感のある音です。
それ以上に第1ヴァイオリンのアドルフ・ブッシュの素晴らしい演奏に耳をそばだたせてしまいます。特に高音域の伸びやかな響きは美しく、物悲しくもあります。ベートーヴェンの後期の作品は諦観を感じさせられるのが特徴ですが、ブッシュの演奏は気品に満ちていて、やわらかな情緒を漂わせています。もう、途中で針を上げる暴挙など、saraiにはできません。結局、美しい響きに身を任せて、第1面を聴き終えました。もちろん、ふらふらっと立ちあがったsaraiは何も考えずにディスクをひっくり返して、第2面に針を下ろします。弦楽四重奏曲第14番の残りの楽章の音楽がたおやかに流れ始めます。時間の流れを忘れ去り、ブッシュの素晴らしいヴァイオリンの高域の響きに集中するだけです。
全然、古さを感じさせないスタイルの演奏ですが、かと言って、今時の弦楽四重奏団では聴けそうもない実に優雅な演奏です。これがドイツ音楽の真髄を行く本流の演奏なんですね。綿々とした情緒を美しい響きで紡ぎだす演奏です。渋さとは縁遠い演奏。ウィーン風とでも表現したい音の響きです。オーケストラならば、ウィーン楽友協会で聴くウィーン・フィルの響きにでも例えたいような響きです。
第2面を聴き終わり、弦楽四重奏曲第14番も全曲聴き終わりました。でも、もう、ここで止めるわけにはいきません。とりあえず、次の第3面、第4面に収録されている弦楽四重奏曲第15番イ短調 Op.132も聴いてみましょう。特に第4面のMolto Adagioと最後のFinaleの素晴らしかったこと! この曲は今までは何といってもブダペスト弦楽四重奏団の演奏がダントツに好きでしたが、強力なライバル登場です。
ここまできたら、残りの1枚も聴いちゃいましょう。弦楽四重奏曲第12番変ホ長調 Op.127と弦楽四重奏曲第16番ヘ長調 Op.135です。あまりの素晴らしさに結局、3枚全部聴いてしまいました。
旅でたまたま出会ったLPレコードはドイツElectrola EMIのLPで盤質もとてもよく、ほとんどスクラッチノイズもなし。なにより、名演奏です。手放せない宝物を手に入れた気持ちです。やはり、これぞと思うものに出会ったら、即お買い上げは、はずれもありますが、原則中の原則です。こういうものは2度と出会えないでしょう。
こうやって、まだ、旅の名残りに浸っている日々が続いています。
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