快演!パク・ヘユン・ヴァイオリン・リサイタル@紀尾井ホール 2012.4.27
今日のリサイタルはプロジェクト3×3というシリーズの一環で、昨年から続いています。パク・ヘユンも昨年から2回目のリサイタルで来年の3回目まで続く筈です。昨年は大震災の影響で4カ月延期して7月にリサイタルが行われました。そのときのリサイタルについての記事はここです。実に不満足で残念なリサイタルでした。体調不良とのことでしたので、今日は是非、復活したパク・ヘユンを聴きたいと思っていました。ただ、正直、不安感もあったのは事実です。結果はすべての不安を払拭してくれて、ブラームスの協奏曲を弾いたときのあの素晴らしいパク・ヘユンが戻ってくれました。
今日のプログラムは以下です。
ヴァイオリン:パク・ヘユン
ピアノ:ラウマ・スクリデ
シューベルト:ヴァイオリン・ソナタ イ長調 D.574
ラヴェル:ヴァイオリン・ソナタ ト長調
《休憩》
シマノフスキ:3つの神話 Op.30より 第1曲《アレトゥーサの泉》
プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ第2番 ニ長調 Op.94bis
《アンコール》
ドヴォルザーク:4つのロマンティックな小品 Op.75より、第1曲 アレグロ・モデラート 変ロ長調
クライスラー:中国の太鼓
パク・ヘユンがステージに登場してきました。昨年よりも、やや顔がふっくらした感じで、笑みをうっすらと浮かべて聴衆に挨拶。ずい分、昨年とは印象が異なります。
まず、シューベルトのソナタです。第1楽章はシューベルトの優しさが滲み出たような音楽ですが、パク・ヘユンのヴァイオリンの響きは第1音から、その優しさを見事に表現しています。この時点でsaraiはパク・ヘユンの復活を確信しました。第2楽章以降も動きの少ない弓さばきで端正な音楽を奏でてくれました。刺激的な響きのまったくないパク・ヘユン特有の音作りです。まずは満足しました。
次はラヴェルのソナタです。ピアノ協奏曲と同じト長調でジャズの要素を取り入れた兄弟のような作品です。パク・ヘユンが奏でる響きは実に新鮮で今まで聴いた、この曲とは印象が異なります。先ほどのシューベルトに比べて、ヴァイオリンの響きが深く、美しくなったようです。第1楽章はジャズというよりも流麗な音楽な流れます。第2楽章のブルースも実に流麗、うっとりと美音に聴きほれます。第3楽章は一転して、凄いテクニックでバリバリと弾きこなされます。パク・ヘユンは静かな動きの弓づかいでの流麗な響きと激しい動きの弓づかいでのダイナミックな響きの2面性のある響きを明確に弾き分けて、多彩な音楽表現を聴かせてくれます。今後、この2つの表現がさらに密接によりそっていくことで素晴らしい音楽を構築していってくれることでしょう。今はまだ、その序章段階です。
休憩後、まず、シマノフスキの《アレトゥーサの泉》です。実にミステリアスな曲が流れます。前半の演奏よりも音の響きがよくなり、見事な演奏です。弓づかいは静かな動きの流麗な響きで、この曲の曲想にぴったりです。選曲も見事ですね。途中、自然な感じでさりげなく、ダブルストップで演奏されますが、あくまでも響きは刺激的でなくて流麗そのもので、ミステリアスな雰囲気を高めます。前半の2曲に増して、素晴らしい演奏で心が洗われる思いの清新な演奏です。
ちなみに題名のアレトゥーサというのはギリシャ神話の女神であり、その女神が泉に変身してアレトゥーサの泉になったそうです。このアレトゥーサの泉はsaraiが昨年旅したシチリアのシラクーサの街のオルティージャ島にあります。パピルスの生い茂る印象深い泉です。この泉から5分ほどのところにあるホテルに泊まりました。ホテルの名前もアレトゥーサ・ヴァカンツェB&Bでした。そのときの模様はここに書きました。
最後はプロコフィエフのソナタ第2番です。これはsaraiの大好きな名曲です。最初は原曲のフルート・ソナタで馴染んだ曲で、なかなかヴァイオリン・ソナタとしては違和感が拭えませんでしたが、今ではフルート・ソナタであったことを失念するほど、ヴァイオリンがぴったりに感じます。プロコフィエフの新古典主義で作曲した曲のうち、とても成功した曲です。第1楽章の古典的で端正な響きをパク・ヘユンが素晴らしく美しく奏でます。この第1楽章の演奏は素晴らしく、今までの3曲の演奏を大きく上回ります。しり上がりに音の響きの豊かさ、演奏の精度を上げてきました。端正で新鮮で瑞々しい演奏です。何かつけくわえる要素としては、細かなテンポの揺らしでしょうが、20歳の若いヴァイオリニストにとっては、そういう小細工めいたものは排して、若々しい演奏に徹してもらったほうがsaraiも気持ちがいいです。第2楽章、第3楽章とすっきりとした音楽を聴かせてくれました。第4楽章にはいると、今度はバリバリとテンポアップしてきびきびした演奏に変わります。こういう演奏が実に爽快で素晴らしいです。フィナーレに向かい、saraiは高揚感で音楽の楽しさを満喫。パク・ヘユンは確実にステップアップしたようです。これからも紆余曲折もあるでしょうが、現代を代表するヴァイオリニストの一人になってくれることは間違いないでしょう。saraiの命のある限り、見守り、応援していきたい逸材です。
アンコールのドヴォルザークは懐かしさを感じさせる素晴らしい演奏でした。まさにこの日の演奏の頂点に達したようです。続くクライスラーも別の響きで満足の演奏でした。
まだ、彼女は知名度が低く、聴衆が少なくて、気の毒でしたが、saraiにとっては、少ない聴衆の一人として、こういう素晴らしいリサイタルを堪能できて、大変、贅沢な思いをしました。
次はNHK交響楽団の定期演奏会でメンデルスゾーンの協奏曲を弾くようなので、多くの人が彼女の真価に付くことになるでしょう。
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