鎮魂・・・フルシャ+プラハ・フィル@サントリーホール 2012.3.11
チケットを買った時点では、そのことに思い至っていませんでした。
ただ、事前にメールがきて、指揮者のフルシャの強い希望で演奏曲目が追加になったこととその経緯を読み、ああ、3月11日だったんだと悟りました。
そういうわけで、今日のコンサートの冒頭は犠牲者への追悼や被害に苦しんでいるかたに向けたメッセージです。その特別な演奏はプラハ・フィルに東京都交響楽団の数名のメンバーが加わって、ドヴォルザークの交響曲第9番《新世界から》の第2楽章「ラルゴ」です。演奏に先立って、フルシャがその思いを丁寧に語っていたことがとても印象でした。
演奏は弦のあたたかい響きがとても心地よく、演奏を通して音楽家の優しい思いが感じられるもので、実に感動的でした。それ以上、語ることは苦しいので、これくらいにさせていただきます。
さて、今日のプログラムは以下です。
ドヴォルザーク:セレナード ホ長調 Op.22
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35
ヴァイオリン:三浦文彰
《アンコール》バッハ:無伴奏パルティータ第2番からサラバンド(ヴァイオリン・ソロ)
《休憩》
ドヴォルザーク:交響曲第8番 ト長調 Op.88
《アンコール》ドヴォルザーク:スラブ舞曲ハ長調op.46-1
実に素晴らしいドヴォルザークが聴けて、体中に音楽の精気がみなぎった思いです。フルシャの作り上げるチェコ音楽はいつも特別です。昨年末に聴いたドヴォルザークの《スターバト・マーテル》もとても美しい演奏でした。そのときの感想はここです。
また、まだ19歳の若さの三浦文彰のチャイコフスキーはとても美しく、音楽の楽しさを堪能しました。
まず、最初はドヴォルザークのセレナードです。弦楽のみで奏でられます。全部で5楽章から成ります。特にチェロと第1ヴァイオリンの響きが美しいです。ボヘミアの雰囲気たっぷりで気持ちよく聴けます。有名な第5楽章以外も、昔からよく知っている曲を聴いている感覚(錯覚?)に陥ります。結構長い曲ですが、うっとりしているうちに終わりました。コンサートの出だしとしては上々です。
次はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲です。まず、オーケストラの演奏で始まります。チェコの音楽家たちのチャイコフスキーですが、同じスラヴつながりでしょうか、とてもぴったりの雰囲気です。いかにもチャイコフスキーらしい演奏で気持ちよく聴けます。こういうオーケストラの入りだと、独奏ヴァイオリンも乗りやすいでしょう。三浦文彰のヴァイオリンは若さを露呈するところもありましたが、実に音色の美しいヴァイオリンを奏でます。この響きの美しさが一番のポイントでしょう。ヴァイオリンはともかく響きが美しいことが一番大切です。そして、それは固有の才能の部分が大きいと思います。この美しい響きで第1楽章を堪能させてくれました。第1楽章が終わったところで聴衆から拍手がわきおこりましたが、それも仕方のないことだと思うほど、美しい演奏でした。まあ、sarai的には、オーケストラの演奏にも拍手を送りたいくらいだったのですが、それはそれとした、ヴァイオリンの演奏は新しい才能を感じさせてくれるものでした。第2楽章、第3楽章は第1楽章ほどの輝きがありませんでしたが、それでもとても美しい演奏でした。聴衆の拍手に応えて、アンコールは定番のバッハの無伴奏。響きの美しさはありましたが、これはもっと深みがほしいところです。彼の今後の進化を期待して、見守っていきましょう。次はブラームスのヴァイオリン協奏曲でも聴かせてもらいたいですね。
休憩後、ドヴォルザークの交響曲第8番です。saraiが一番、楽しみにしていた曲です。第1楽章、低弦の合奏で始まりますが、もう、ここで参ってしまいました。何と言うか、実に輪郭のしっかりした演奏でメロディーラインがくっきりと浮かび上がります。第1ヴァイオリンに受け継がれても、やはり、輪郭はしっかりとしています。見事な表現です。これまで聴いた有名オーケストラでも、こういうしっかりした表現は思い出せません。シンプルで分かりやすいのですが、それでいて、薄っぺらな印象はまったくありません。オーケストラの個々の技量が格段に凄いわけではないのに、ドヴォルザークの本質に迫る表現に思えます。フルシャが手兵のチェコのオーケストラを振るとこうなるんですね。難点を言えば、もう少し、木管がうまければというところですが、それは贅沢。第3楽章、出だしの有名で美しいメロディーが第1ヴァイオリンで奏でられます。とても美しい演奏です。しかも実にさりげない演奏でもあります。これがボヘミヤの血なんでしょうか。こんな演奏を生で聴くとたまりません。この楽章での弦の美しさったら、素晴らしいものでした。第4楽章、フィナーレの盛り上がりは最高です。
期待を上回る演奏でした。この演奏を超えるのはもうフルシャしか、いないでしょう。もっと、素晴らしいオーケストラで聴きたいのが本音。ベストはチェコ・フィルです。いつか実現してもらいたいものです。
フルシャは聴くたびに期待を裏切りません。チェコ音楽の素晴らしさは折り紙つきです。今後はチェコの先輩指揮者たちが名演奏を聴かせてきたマーラーをいつか聴かせてもらいたいと思います。今は自分の音楽を磨き上げる時期なんでしょう。
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この記事へのコメント
こんにちは。感動的な演奏でしたね。
>第1楽章が終わったところで聴衆から拍手がわきおこりましたが
私もその一人です(笑)
ただし、ソリストに対してではなく、オケの「encourage」したいという気持ちが伝わったからです。
気持ちの分、楽器が鳴っていた気がします。
三浦さんは、ハノーバーのファイナルでこの曲を弾いていたのですね(youtubeで見ました)
ドボ8も、こんないい曲だったのかと目が覚めるような熱演でした。今まで「田舎くさい」と馬鹿にしていた自分の不明を恥じます。
2, saraiさん 2012/03/17 14:23
中原さん、初めまして。saraiです。コメントありがとうございます。
ははっ、やりましたね。ルール違反ですよ。まあ、saraiも以前、パク・ヘユンのブラームスのヴァイオリン協奏曲の第1楽章の終わったところで、拍手したことがあるので、とやかく、言えませんが・・・
それにプラハ・フィルへの拍手なら、なおさら、許せますよ(笑い)。
ドヴォルザークの8番はとても素晴らしい演奏でしたね。下手に演奏されると退屈することも、まま、あります。フルシャの才能でしょう。それとチェコのオーケストラの相乗効果ですね。
また、コメント、お寄せくださいね。
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