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菊池洋子ピアノ・リサイタル@紀尾井ホール 2012.2.16

今日のピアニスト菊池洋子を本格的に聴くのは初めてです。彼女のリサイタルに行ってみる気になったのは昨年末のみなとみらいホール・ジルヴェスターコンサートで彼女のピアノの響きに触れたからです。そのときの経緯はここです。
今日、リサイタルを終え、saraiは満足そのものです。本物のモーツァルトが聴けました。特にK.330のハ長調のソナタの素晴らしかったこと。やはり、こういう演奏を聴くとモーツァルトの素晴らしさが再認識できます。エレーヌ・グリモーのモーツァルトの演奏を聴いて、今どきのモーツァルト演奏は分からないと思っていたモヤモヤがすっかり晴れました。暗然たる思いになったグリモーのリサイタルはここに書きました。もちろん、グリモーのピアノ演奏自体は素晴らしかったのですが、彼女はドイツ・オーストリア・ロマン派をベースとするピアニスト。そして、今日の菊池洋子は古典派、とりわけ、モーツァルトをベースとするピアニストということでしょう。

さて、話をリサイタルの前に戻します。リサイタルは7時からなので、四ツ谷駅前の洋食屋「たけだ」で配偶者と定食を食べました。紀尾井ホールでのコンサート前にはこれが定番になりつつあります。夕食を終え、紀尾井ホールに向かいますが空気が冷たく、そのうちに雪がちらつき始めました。開場前にホールに着きましたが、ホールも気を利かせたのか、早目の開場になりました。ホールに入ると聴衆の入りが今一つ。それにあまりこういうコンサートでは見かけないオバサン達の団体がいっぱいでびっくり。ただ、今日はNHKの録画があるようです。後日、放送とのこと。
若干、異質な聴衆と一緒に集中してピアノが聴けるか、心配はありますが、TV収録もあるし、静かに聴けることを期待しましょう。

今日のプログラムは以下の通りです。

 モーツァルト:幻想曲ハ短調 K.475
 モーツァルト:ピアノ・ソナタ第14番ハ短調 K.457
 ショパン:《ドン・ジョヴァンニ》の「お手をどうぞ」による変奏曲 Op.2

  《休憩》

 モーツァルト:ピアノ・ソナタ第10番ハ長調 K.330
 リスト:《ドン・ジョヴァンニ》の回想 S.418

  《アンコール》
 リスト:愛の夢 第3番 変イ長調
 ショパン:エチュード Op.25-1「エオリアンハープ」
 モーツァルト:小さなジーグ K.574

まずはモーツァルトの幻想曲です。幻想曲では、ニ短調の幻想曲のほうが好きなのですが、ハ短調の幻想曲は後続の演奏曲のハ短調のソナタとセットですから、こういうプログラムになるのは仕方のないこと。ハ短調の幻想曲ではありますが、saraiはそんなにデモーニッシュには感じない曲です。演奏は意外に遅めのテンポです。もっと今風に早いテンポになるかと思っていましたが、sarai好みのゆったりテンポです。深い響きの低音で開始し、ボリュームのある響きながら、タッチは明快。まさにモーツァルトにぴったりの響きです。幻想曲らしく、緩急の対比のきいた演奏で、はめを外すこともない節度ある演奏です。
幻想曲が終わると、すぐに間を置かず、ハ短調のソナタの第1楽章です。まさにソナタの序奏としての幻想曲です。ソナタのほうもそんなに短調っぽくない響き。明るい感じさえしてしまう響きです。この曲はもっとおどろおどろしい感じで弾くほうがよさそうにも思いますが、演奏そのものはいかにもモーツァルトっていう響きで好きな演奏と言えます。第2楽章はますます明るさが増し、少し悲しい長調くらいの感じです。これはこれでいいでしょう。第3楽章は勢いよく進み、フィナーレ。満足のモーツァルトですが、もうひとつ心に迫るものが足りない感じです。まあ、贅沢ですね。

次は一転して、ショパン。モーツァルトのオペラのアリアを主題とした変奏曲。ショパンらしい華麗な響きがホールに満ちます。モーツァルトで味わった古典派とのあまりの落差に今更ながら気が付かされます。ロマン派の流麗さは時として、鼻につくこともありますが、逆に言うと古典派は地味とも言えます。まあ、古典派もロマン派もそれぞれの良さがあり、それをどう表現するかが演奏者の力量でしょう。このショパンの曲はモーツァルトの主題をもとにしているとは言え、まったくもってショパンそのものです。この曲を聴くのは初めてですが、シューマンをして、ショパンを天才と言わしめた曲として知られています。そういう歴史的な曲を聴けて、満足ですし、演奏自体、とても質の高いものでした。15分を超える長い曲ですが、終始、うっとりとさせられてしまいました。彼女はモーツァルトのスペシャリストとのことですが、なかなかやりますね。相当に弾き込んだのでしょう。ところでこの曲は普通はピアノとオーケストラで演奏される曲です。ショパンが自分で弾くためでしょうが、ピアノ独奏バージョンも作りました。このほかに2台のピアノバージョン、室内楽バージョンもあるようです。この日、菊池洋子が弾いたのはこのピアノ独奏バージョンで、かって、クララ・シューマン(クララ・ヴィーク)がまだ少女時代に愛奏していたそうです。二人の聴き比べをしてみたい欲求にもかられますが、かなわぬことです。ただ、クララ・シューマンの時代にはスタインウェイはありませんから、菊池洋子のダイナミックで華麗な響きは出せなかったでしょうね。

休憩後、モーツァルトのハ長調のソナタです。予想されたことですが、菊池洋子のピアノの響きはこの長調の曲にぴったりと合っています。第1楽章はとても素晴らしい演奏で納得、また納得です。これぞ、クリアーなタッチといい、豊かな響きといい、まさにモーツァルトの王道を行く演奏です。節回しも心地よく、1フレーズだけある付点のメロディーも滑らかで美しく響きます。シンプルでありながら、奥行きのある表現でした。第2楽章は美しく歌い、心地よく響きます。第3楽章は第1楽章と並び、あるいはそれ以上に素晴らしい演奏でした。のりのよい演奏でありながら、決して拙速でない天国のような美しい演奏。心地よい響きに身を任せながら、音楽を聴く幸せに酔っていました。これほどのモーツァルトの演奏に出会えるとは想像していませんでした。この曲を聴けただけでもこのリサイタルに来た甲斐がありました。機会があれば、彼女のモーツァルトの全曲チクルスを聴いてみたいものです。数年前にこの紀尾井ホールで全曲チクルスをやったそうです。是非、もう1度、お願いしたいものです。

最後はまたロマン派の巨匠リストの曲です。この曲もショパンと同じくモーツァルトのオペラのアリアをもとにした作品です。20分ほどの曲ですが、リストらしいピアノのテクニックを尽くしたような派手な作品です。これに比べれば、ショパンも地味に思えるほどです。菊池洋子はまさに力演でした。パーフェクトな演奏ではありませんが、凄い気迫には脱帽です。CDでしか聴いたことのない作品でしたが、こんなに華やかに演奏される曲だとは思っていませんでした。リサイタルのフィナーレとして、気持ちよく聴ける演奏で満足。

アンコールは不要なほど充実したコンサートでしたが、3曲のアンコールがありました。密かにモーツァルトのニ短調の幻想曲を期待していましたが、残念ながらそうではありませんでした。今年は早々に素晴らしいピアノ・リサイタルが聴けて、とても満足。また、彼女のリサイタルを聴かせてもらいましょう。

そうそう、いつ放送されるか分かりませんが、NHKで放送される菊池洋子のこのリサイタルは必見・必聴ですよ!



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この記事へのコメント

1, 岩田正之さん 2012/02/17 06:04
素敵なリサイタルでした。菊池さんのモーツァルトはディスクでは愛聴していたのですが、生演奏は今回がはじめてでした。長調のソナタがとても楽しく聴けました。ドンジョバンニをモチーフとしたショパンとリストの描き分けもなるほどと納得できました。難曲として知られるリストバージョンはさすがにミスタタッチもありましたが熱演に心から拍手を送りました。派手さはないものの、こうした正統派のピアニストが育っていることに心強さを感じました。モーツアルトのソナタ全曲演奏を聴き逃した私は、ぜひまたその機会を得たいと思いました。

2, saraiさん 2012/02/17 17:50
岩田正之さん、初めまして。コメントありがとうございます。

一緒に素晴らしいリサイタルに聴けて、お互い、幸せでしたね。日本人でもこういう古典派の曲がきっちり弾ける人がいるのは嬉しいです。モーツァルトから、さらにベートーヴェンに幅を広げて欲しい人です。また、リサイタルに通いましょう。
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ジャンル : 音楽

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オペラ・美術が大好きでヨーロッパの旅にはまっています。音楽の聖地ウィーンが中心で、イタリア、フランス、ドイツも巡っています。国内外のオペラ・コンサートの体験もレポートします。

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