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劇的緊張感に満ちたマタイ受難曲、粒ぞろいの独唱に圧巻の合唱、とりわけ、身を清めるシャワーの如きコラールに深く感銘:バッハ・コレギウム・ジャパン@東京オペラシティコンサートホール 2022.4.15

295年前の聖金曜日にライプツィヒの聖トーマス教会で初演されたマタイ受難曲。今年も聖金曜日に聴いたバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)の演奏はこれまでと一味違って、力強い演奏が印象的でした。これまでロマンティックな傾向になってきていた演奏スタイルが劇的緊張感に満ちたものになりました。エヴァンゲリスト役のトマス・ホッブスの存在が大きかったのではないかと思います。もちろん、すべてを仕切ったのは指揮者の鈴木雅明です。エヴァンゲリスト役のトマス・ホッブスの多彩な表現を活かして、すべてのパートを力強い表現でまとめあげたようです。その結果は素晴らしい演奏になりました。saraiもこのマタイ受難曲を聴くのは今回で10回目になりますが、今日の素晴らしい演奏に対して、何か、評論めいたことを書く以前に最高レベルの演奏者たちへのリスペクトの気持ちを表明しておきたいと思います。本当に彼らの音楽的レベルは尊敬に値するものでした。

いつものことですが、マタイ受難曲を聴くという行為は襟を正しながら、真剣勝負に向かい合う気持ちになります。己のおかしてきた罪や恥ずべき行いを省みながら、この神聖な作品で魂を洗い清める思いになります。自分にそう思わせるような破格の音楽です。
冒頭の音楽は少しざらつくような感じがありましたが、BCJの力強い合唱が始まると、その美しさに魅了されていきます。
エヴァンゲリスト役のトマス・ホッブスが登場すると、力強さと繊細さを兼ね備えた多彩な表現に圧倒されます。こんな素晴らしいエヴァンゲリストは聴いたことがありません。櫻田 亮のエヴァンゲリストも素晴らしいのですが、トマス・ホッブスの劇的な表現はマタイ受難曲の語り部として、実に物語の進行を分かりやすく表現してくれます。それにとても美声でソットヴォーチェの表現が巧みです。
アルトのベンノ・シャハトナーも美声で力強い歌唱で続きます。そして、最高の名曲、《エルバルメ・ディッヒ、マイン・ゴット(憐れみたまえ、我が神よ)》のアリアでは、若松夏美のオブリガートヴァイオリンの名演も相俟って、異次元のような音楽が成立します。カウンターテノールでこんな素晴らしい歌唱を聴いたことがありません。saraiにとって、この曲だけは1959年録音のカール・リヒター盤のアルト歌手、ヘルタ・テッパー以上の歌唱はなかったのですが、今日のベンノ・シャハトナーの歌唱はそれに並び立つものです。感動で涙が滲みました。
ソプラノのハナ・ブラシコヴァも期待通りの歌唱。菅きよみのフラウト・トラヴェルソのソロが主導して、アウス・リーベAus Liebe、ヴィル・マイン・ハイラント・シュテルベンWill Mein Heiland Sterben(愛故にわが救い主は死にたまわんとす)と澄み切った声で歌ってくれました。満足です。でも、これは菅きよみのフラウト・トラヴェルソが素晴らしかったです。
海外勢の歌手3人が素晴らしい歌唱を聴かせてくれましたが、脇を固める日本人歌手たちも見事な歌唱でした。とりわけ、イエス役の加耒徹の堂々とした歌唱は圧巻でした。ともかく、自信に満ち溢れた歌唱には彼がさらに一段高いステージに上ったことを確信させてもらうものでした。

そして、やはり素晴らしかったのはマタイ受難曲の中核をなすコラールの数々です。中でも5回登場する受難コラールは西洋音楽の最高峰であるマタイ受難曲の中の音楽を超える特別のものです。BCJは合唱と器楽のありったけの力でこの受難コラールを歌い上げてくれます。それも5回とも表現を変えながら、最高のものをもたらしてくれます。特に4回目に登場する第54曲のコラール「おお、血と涙にまみれし御頭」の極限に至るような美しさは力強さもあって格別でした。繰り返しでぐっと抑えた表現の優しさは聴く者すべてを慰撫するかのようです。最後の5回目の登場はイエスが十字架で亡くなった直後に歌われます。
第62曲の コラール「いつの日かわれ去り逝くとき」です。このフリギア旋法で歌われるコラールはすべての人々に優しく救いをもたらすようにしみじみと歌われます。頭を垂れて、じっと聴き入りました。BCJの最高の音楽です。コラール以外もBCJの合唱はすべて素晴らしいものでした。合唱と言っても、一人一人のレベルが独唱者のレベルであるのだから、並みの合唱ではありません。

指揮の鈴木雅明が見事であったことは言うまでもありません。今回は違った引き出しでの表現を聴かせてくれましたが、ますます、高みに上り詰めていきそうです。来年のBCJのマタイ受難曲の演奏が今から楽しみです。


今日のプログラムは以下です。


  指揮:鈴木雅明
  エヴァンゲリスト(テノール):トマス・ホッブス
  イエス(バス):加耒徹
  ソプラノ:ハナ・ブラシコヴァ、中江早希
  アルト:ベンノ・シャハトナー、青木洋也
  テノール:櫻田 亮
  バス:渡辺祐介
  フラウト・トラヴェルソ/リコーダー:菅きよみ
  オーボエ:三宮正満
  ヴァイオリン(コンサートマスター):若松夏美、高田あずみ
  チェロ:山本徹
  ヴィオラ・ダ・ガンバ:福沢宏
  チェンバロ:鈴木優人
  合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン


J. S. バッハ

マタイ受難曲 BWV 244

第1部

 《休憩》

第2部


最後に予習について、まとめておきます。

以下のCDを聴きました。

 フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮コレギウム・ヴォカーレ 1998年8月25-29日、la Grande Salle de l'Arsenal de Metz セッション録音
  イアン・ボストリッジ(福音史家)、フランツ・ヨゼフ・ゼーリヒ(イエス)
  シビッラ・ルーベンス、アンドレアス・ショル、ヴェルナー・ギーラ、
  ディートリヒ・ヘンシェル

独唱に若干、不満が残ります。特にCTのアンドレアス・ショルは確かに美声ですが、気魄に欠けています。しかし、合唱は絶品。コラールの美しさに魅了されて、総合的には満足しました。



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ジャンル : 音楽

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オペラ・美術が大好きでヨーロッパの旅にはまっています。音楽の聖地ウィーンが中心で、イタリア、フランス、ドイツも巡っています。国内外のオペラ・コンサートの体験もレポートします。

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たかぼんさん、初めまして。saraiです。

嬉しいコメント、ありがとうございます。ブッシュ四重奏団は素晴らしいですよ。とりわけ、第14番は最高です。
もっとも、ブッシュ

09/17 02:04 sarai

とても素晴らしいお話をお聞かせ頂き感謝いたします。
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09/16 13:52 たかぼん

ミケランジェロさん、saraiです。

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06/23 23:50 sarai

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06/14 08:27 michelangelo

えりちゃさん、コメントありがとうございます。
最終公演に行きますが、ムーティ&ウィーン・フィルは渾身の力で凄い演奏を聴かせてくれますよ。特にシューベルトは有終の

11/09 22:13 sarai

尻上がりに素晴らしくなりました!
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11/09 10:56 えりちゃ

えりちゃさん、お久しぶりです。saraiです。

なかなか、海外渡航の見通し、立ちませんね。来年あたりはどうでしょうね。長期戦覚悟で我慢するしかありませんね。

こちら

04/10 02:37 sarai
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