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エベーヌ弦楽四重奏団@上大岡・ひまわりの郷 2011.11.6

秋の日の午後はブラームスの室内楽に浸る気分になります。
これはブログ友達のハルくんさんの名言のパクリですが、今日のコンサートにはまさにぴったりの表現でした。
本来は秋の日の木漏れ日の下で味わうのが一番ですが、生憎、今日は曇り空で小雨模様。そういう感じの天気にもブラームスの室内楽は心に沁みます。
フランスのエベーヌ弦楽四重奏団のブラームスは「やるせなさ」を感じさせる演奏です。ドイツ・オーストリア系のグループのような骨太さよりもフランスのエスプリ、もっと言うと鬱々とした情念を感じさせられる響き・表現です。この季節に相応しい気分の演奏です。暗いと言っては身も蓋もありませんが、人間は本来、弱い存在で「やるせなさ」を常に内に秘めながら、生きていかなくてはならない。このあたりにブラームスの本質があるような気がしてなりません。よくブラームスはベートーヴェンの継承者のような言われ方もしますが、ポジティブなベートーヴェンとは隔たりが大きいような気がします。もちろん、ベートーヴェンも交響曲とは違い、後期の弦楽四重奏曲では精神的な深み、あるいは悩み・鬱屈感とも言っていいものに到達するわけですが、人間存在の芯はしっかりした上でのものです。
今日のコンサートで、フランスの演奏グループこそ、ブラームスの室内楽の「やるせなさ」を表現するのに最適であると感じました。とても素晴しいブラームスを聴けた喜び(あるいは哀しみ)が胸に刻み込まれた演奏でした。
エベーヌ弦楽四重奏団は設立して10年ほどの若い男性4人のグループですが、熟成したグループにも表現できないような人間存在の「やるせなさ」を表現してくれました。若さ故の表現なのかもしれません。テクニックと音楽性を両立させた卓越グループでフランスものだけでなく、ドイツ・ウィーンものの演奏にも今後期待できそうです。シューベルト、シューマンあたりは聴いてみたいものです。

今日のプログラムは以下です。

 モーツァルト:弦楽四重奏曲 第19番 ハ長調 K.465 《不協和音》
 ボロディン:弦楽四重奏曲 第2番 ニ長調

  《休憩》

 ブラームス:弦楽四重奏曲 第2番 イ短調 Op.51-2

  《アンコール》

   ミザルー:パルプフィクションのテーマ

まず、モーツァルトの有名曲はとても美しい音で序奏を始め、初めて聴くこの団体の力量に少しびっくりです。研ぎ澄まされたアンサンブルで小ホールの特性を活かしたピアノッシモの表現も意欲的で美しい演奏を繰り広げました。外声部が内声部に対して、バランス的に強く感じましたが演奏の傷というよりもこの団体の特徴にも感じました。メロディー線が明快で聴きやすい印象です。

次のボロディンは第1楽章の実にロマンチックな演奏に心を奪われました。芸術的にはどうかというと難しくなりますが、うっとりと聴き惚れたのは事実。この曲はそれでいいのではないでしょうか。もちろん、超有名な第3楽章の演奏もチェロが奏でるメロディー、引き継いで第1ヴァイオリンが演奏するメロディー、とても美しく、これも心地よく聴けました。それにこのボロディンの曲、ロシア5人組の一人の作曲ということでもっとロシア臭さを予想していましたが、エベーヌ弦楽四重奏団の演奏はフランス的なエスプリを感じさせるものであったのが意外でした。

休憩後のブラームスが意外にも、もっとも優れた演奏でした。冒頭にも書いた通り、第1楽章の第1主題から実にやるせない。どうしてこんなにやるせないのか、これがブラームスの室内楽なのか。そういえば、名曲《クラリネット五重奏曲》も相当にやるせないですね。ただ、こんなに《やるせなさ》を前面に表出した演奏は聴いたような気がしません。フランス人の知性・性格のなせる業なんでしょうか。やるせないまま第一楽章が終わります。第一楽章では強奏しても《やるせなさ》がつのるばかりと感じます。
第2楽章では、一層、この《やるせなさ》が強まるばかり。見事といえば、見事な表現です。もちろん、聴いているこちらも《やるせなさ》を感じ、気持ちは暗く沈みます。ロマンチックという表現は通り越しています。
第3楽章は軽い感じの楽章ですが、気分は変わりません。
第4楽章は冒頭、高揚しますが、すぐに沈み込み、またまた、《やるせなさ》に包まれます。このまま、ある意味、見事な演奏はフィナーレ。
素晴しい演奏なのですが、強く拍手するような気分にはなれません。誰か、ブラボーか、声をあげていましたが、この場にふさわしかったのか疑問です。静かにしみじみと共感の拍手を送るのがこの演奏への賛辞だったでしょう。

曇り空の秋の日の午後にふさわしい名演奏でした。



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