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アンチヒーローが聖なる愛で救済される壮大なドラマ 《タンホイザー》@新国立劇場 2023.2.4

実に素晴らしいワーグナーの楽劇を堪能。《タンホイザー》って、こんなにも素晴らしいとは思っていませんでしたから、とても魅了されました。ハンス=ペーター・レーマンのシンプルで素直な演出だと、《タンホイザー》の本質が見えてきます。これまでタンホイザーは何を聴いてきたのか調べると、実演では、バイエルン国立歌劇場の豪華キャスト(ギャンビル、キーンリサイド、ピエチョンカ、マイヤー、メータ指揮)、ヴィデオではバイロイト音楽祭(ディヴィス指揮)で、どうやら、演出が分かりにくいものだったようです。そのため、saraiは《タンホイザー》の素晴らしさを見誤っていたようです。本来は今回の公演のように、聖と俗の狭間でアンチヒーローのタンホイザーが揺れ動き、聖なる女性エリーザベトの天使のような献身的な祈りが神に聞き届かれて、罪人タンホイザーが堕落の寸前で救われるというというシンプルなストーリーが、ワーグナーの奇跡のような音楽で描き出されるものです。予習したバーデン・バーデン祝祭劇場でレーンホフが演出したものは今回の公演と驚くほど似た印象で、いずれも天使のような乙女エリーザベトの死を覚悟した祈りでタンホイザーが救済されるところが感動的に描き出されています。それにしてもワーグナーの音楽の天才的な崇高さには圧倒されるのみです。最近のバイロイト音楽祭の演出はどうやらひどいもので、とても聴きに行く気が起きるようなものではありません。平凡な鑑賞者であるsaraiには、バイロイト音楽祭よりも新国立劇場の公演のほうがよほど好ましいと思えます。《タンホイザー》は《パルジファル》とかなりの点で似たところが多く、とても聴き映えがします。無論、この路線では《パルジファル》は最高傑作に間違いありませんが、親しみやすい旋律やストーリーのシンプルなところでは《タンホイザー》を好む人も多いのではないでしょうか。

総論は以上ですが、今日の公演の具体的な中身を見ていきましょう。アレホ・ペレスの指揮はワーグナーの音楽を実に明快に描き出しました。序曲の出だしこそ、金管の響きが弱く、あれれと思いましたが、全般には東響の美しい弦の響きをいかした壮麗で豊かな音楽を聴かせてくれました。特筆すべきはやはり、新国立劇場合唱団の素晴らしい合唱です。再三登場する《巡礼の合唱》の厳かさには感銘を受けました。そして、最後の幕切れの大合唱には感動しかありません。
タイトルロールのタンホイザーを歌ったステファン・グールドは文句なしに最高の歌唱でした。素晴らしい美声に圧倒されます。ただし、役どころがある意味、情けない男なので、何となく、むなしく響きます。
ヴェーヌスを歌ったエグレ・シドラウスカイテは思いのほか、よく歌っていたと思います。十分に男を魅了するという役どころを歌い切っていたと思います。
最高に素晴らしかったのはエリーザベトを歌ったサビーナ・ツヴィラク。第2幕のアリア《歌の殿堂》もさることながら、第3幕の巡礼者の中にタンホイザーの姿が見いだせなかった後に聖母マリアに願って歌うアリアの清らかさはうるうるものでした。透明でありながら、芯のある歌唱は見事の一語。
ヴォルフラム役のデイヴィッド・スタウトは高潔さを表出した歌唱。少し硬質な響きですが、有名なアリア《夕星の歌》は圧巻でした。
ヘルマンを歌った我らが妻屋秀和は堂々たる歌唱で海外の歌手たちにひけをとりません。
牧童を歌った前川依子は美しい声で素晴らしい歌唱を聴かせてくれました。彼女が巡礼たちの歌声と交錯して歌うシーンの見事さには聴き惚れました。

ドラマが盛り上がったのは第2幕の歌合戦。次第にタンホイザーの破局に向かう場面の迫真性。そして、罪を告白したタンホイザーの助命を懇願するエリーザベトの迫力と純真さを兼ね備えた歌唱に感銘を覚えます。そして、ローマに巡礼に行くことになったタンホイザーの哀れな姿にスポットがあてられながらの第2幕の終わりに音楽が高潮します。

最後は第3幕の幕切れのシーン。エリーザベトの死でタンホイザーに神の救済が与えられたところで一気に音楽は盛り上がり、圧倒的な合唱で感動のうちに幕。

ワーグナーの音楽の聴きどころは随所にありました。これほど、ワーグナーの音楽の崇高さを感じられるオペラはないかもしれません。罪の痛み、清らかな祈りなどが織り交ぜられて、静かで厳かな感動に満ちた音楽が素晴らしい独唱、アンサンブル、合唱で描き出されました。新国オペラのワーグナー作品の名演といっても過言ではないでしょう。


今日のキャストは以下です。

  リヒャルト・ワーグナー
   楽劇 タンホイザー 全3幕

【指 揮】アレホ・ペレス
  【演 出】ハンス=ペーター・レーマン
  【美術・衣裳】オラフ・ツォンベック
  【照 明】立田雄士
  【振 付】メメット・バルカン
  【再演演出】澤田康子
  【舞台監督】髙橋尚史
  【合唱指揮】三澤洋史
  【合 唱】新国立劇場合唱団
  【バレエ】東京シティ・バレエ団
  【管弦楽】東京交響楽団 コンサートマスター:水谷晃

【領主ヘルマン】妻屋秀和
  【タンホイザー】ステファン・グールド
  【ヴォルフラム】デイヴィッド・スタウト
  【ヴァルター】鈴木 准
  【ビーテロルフ】青山 貴
  【ハインリヒ】今尾 滋
  【ラインマル】後藤春馬
  【エリーザベト】サビーナ・ツヴィラク
  【ヴェーヌス】エグレ・シドラウスカイテ
  【牧童】前川依子
  【4人の小姓】和田しほり/込山由貴子/花房英里子/長澤美希


最後に予習について、まとめておきます。

以下のヴィデオを見ました。

・ワーグナー:歌劇『タンホイザー』全曲
 タンホイザー:ロバート・ギャンビル(T)
 エリーザベト:カミラ・ニュルンド(S)
 ヴェーヌス:ヴァルトラウト・マイヤー(S)
 ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハ:ローマン・トレケル(Br)
 領主ヘルマン:スティーヴン・ミリング(B)
 ヴァルター:マルセル・レイヤン(T)、他
 ウィーン・フィルハーモニア合唱団
 ベルリン・ドイツ交響楽団
 フィリップ・ジョルダン(指揮)
 演出:ニコラウス レーンホフ
 装置:ライムンド・バウアー
 照明:ドゥアン・シューラー

 収録時期:2008年
 収録場所:バーデン=バーデン祝祭劇場(ライヴ)

シンプルな演出で素晴らしいタンホイザーが楽しめます。エリーザベトのカミラ・ニュルンドの歌唱が最高です。ジョルダンの指揮も見事。



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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aokazuyaさん

コメントありがとうございます。デジタルコンサートホールは当面、これきりですが、毎週末、聴かれているんですね。ファゴットのシュテファン・シュヴァイゲ

03/03 23:32 sarai

DCHは私も毎週末、楽しみに聞いています。
・スーパースターには、ファゴットのシュテファン・シュヴァイゲルトの名も挙げたいところです。
・清水直子さん後半のみ登場、D

03/01 19:22 aokazuya

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大学入学直後からの長いお付き合い、素晴らしい伴侶に巡り逢われて、幸せな人生ですね!
京都には年に2回もお越しでも、青春を過ごし

10/07 08:57 堀内えり

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai
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