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研ぎ澄まされた音の響きが語りかけるものは愛と平和の希求か ユリアンナ・アヴデーエワ ピアノ・リサイタル@横浜みなとみらいホール 2023.2.24

ユリアンナ・アヴデーエワのソロ・ピアノ・リサイタルは王子ホールに続いて2回目。そのピアノの響きの純粋無垢なきらめきは変わらず、素晴らしいですが、色々、考えさせられる2時間でもありました。
言うまでもなく、アヴデーエワはロシア人。音楽家といえども、ロシアのウクライナ侵略には心を痛めている筈です。人間としても、音楽家としてもその姿勢を問われる状況になっています。今日のプログラムも深読みをしてしまいます。ショパンは祖国ポーランドを出て、生きては2度と祖国の土を踏めなかった悲しい運命を辿った人。シュピルマンとヴァインベルクはユダヤ系のポーランド人で苦難の生涯を送った人。ラフマニノフは祖国ロシアを出て、生涯戻ることなく、どこかやるせなさを感じさせる人。アヴデーエワは何を思って、このプログラムを考えたのでしょうか。その答えは最後のアンコールにありました。長いメッセージ。よくは聞き取れませんでしたが、ウクライナを代表する作曲家シルヴェストロフは今は避難してドイツに住んでいます。アヴデーエワは彼と会ったそうで、アンコール曲もシルヴェストロフのバガテル。彼女の弾く音楽は実に静かな音で奏でられます。そこには彼女の心の中のため息とも哀しみともとれるものがあります。戦争を悲しみ、どこにも持っていけない心の痛みが切々と奏でられます。短いバガテルは尻切れトンボのような形で止まります。実はシルヴェストロフのバガテルはアタッカで終わり、次のバガテルにつながるように作られています。シルヴェストロフによると、小さなバガテルをすべてアタッカで繋いで演奏すると70分ほどの大曲になるのだそうです。アヴデーエワはアタッカで終えた後、長い沈黙の時間を続けます。その音楽は続いていくのか、終わるのか・・・あるいは戦争で亡くなった人々への哀悼を捧げる時間なのか、彼女自身の心の中の葛藤が続き、やがて、意を決して立ち上がります。沈黙を守っていた聴衆も果たして拍手をしていいものなのか・・・答えのない問題はまるでウクライナ侵略戦争と重なります。重いコンサートでした。
明後日はトリフォニーホールで前半は同じプログラム。後半は何とプロコフィエフの戦争ソナタです。また、重いコンサートになりそうです。しかし、アヴデーエワも我々も現状を直視して、ウクライナ戦争の悲劇に心を向け続けないといけませんね。

今日のコンサートの内容にも軽く触れておきましょう。すべてはアヴデーエワの凝縮した音の響きの一瞬、一瞬のきらめきにあることは前回のリサイタルから変わりません。

1曲目のショパンの幻想ポロネーズはそういうアヴデーエワの美質が結実した素晴らしい演奏で、何とも魅力的なパッセージの連なりになっています。はっとするような走句の美しさに魅了されているうちに長大なポロネーズが終わってしまい、あまりに急に終わったようなような印象に絶句してしまいます。アヴデーエワのショパンは彼女がショパンコンクールで優勝したとき以来、変わらずに輝くような魅力にあふれています。

2曲目のシュピルマンのピアノ組曲「ザ・ライフ・オブ・ザ・マシーンズ」は前回のリサイタルのアンコールで聴いたときが初聴きでしたが、そのときは超絶的な演奏に驚愕しました。ですから、今日はそういう驚きはないものの、やはり、凄い超絶演奏です。テクニックだけでなく、磨き上げられた音にも感銘を受けます。無論、アヴデーエワは超絶演奏をめざすような音楽家ではありませんが、音楽によってはそういう底知れぬ実力も垣間見せるということです。

3曲目はヴァインベルクのピアノ・ソナタ第4番。ショスタコーヴィチの盟友でもあったヴァインベルクはこの曲では新古典主義的な一面を見せています。ショスタコーヴィチと同様です。アヴデーエワは美しい演奏で歌い上げていき、最終局面で圧巻の高潮した演奏を聴かせてくれました。なお、アヴデーエワは、ヴァインベルクの熱心な啓蒙活動をしているクレーメルと室内楽で共演し、感化された模様ですね。

休憩後、ラフマニノフのプレリュードOp.23から、7‐10番を逆順に演奏。パーフェクトな演奏ですが、あまりに綺麗過ぎて、もっと違う形で感銘のある演奏を彼女ならば弾けるのではないかとも思います。いつの日か、もっとスケール感のある演奏を聴かせてくれるでしょう。

続くラフマニノフのピアノ・ソナタ第2番(アヴデーエワ版)は満を持したような素晴らしい演奏。圧倒的な演奏です。第3楽章は凄い迫力で締めくくります。もっとも予習したホロヴィッツが凄過ぎて、それとは比較にはなりません。


アンコールは王子ホールと同じシュピルマンのマズルカ。そして、最後のシルヴェストロフは前述したとおりです。


いよいよ、明後日のトリフォニーホールが締めくくりです。プロコフィエフの戦争ソナタが楽しみですね。


今日のプログラムは以下です。

  ショパン:ポロネーズ第7番 変イ長調 Op.61「幻想ポロネーズ」
  シュピルマン:ピアノ組曲「ザ・ライフ・オブ・ザ・マシーンズ」
  ヴァインベルク:ピアノ・ソナタ第4番 ロ短調 Op.56

   《休憩》

  ラフマニノフ:10のプレリュード Op.23より(10,9,8,7)
  ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 op.36(アヴデーエワ版)

   《アンコール》

    シュピルマン:マズルカ
    シルヴェストロフ:バガテル Op.1-2


最後に今回の予習について、まとめておきます。

ショパンのポロネーズ第7番「幻想ポロネーズ」は、以下のCDで予習しました。

  イリーナ・メジューエワ ショパン・リサイタル 2010 2010年7月16日 新川文化ホール・小ホール(富山県魚津市) ライヴ録音
  
メジューエワの力感あふれる演奏。


シュピルマンのピアノ組曲「ザ・ライフ・オブ・ザ・マシーンズ」は音源が見つからず、予習していません。


ヴァインベルクのピアノ・ソナタ第4番で予習しました。

  アリソン・ブリュースター・フランゼッティ ヴァインベルグ:ピアノ作品全集 2009年11月23-25日 シェリー・エンロウ・リサイタルホール キーン大学 ニュージャージー、米国 セッション録音

何とも素晴らしい演奏。


ラフマニノフの10のプレリュード Op.23は以下のCDで予習しました。

  ニコライ・ルガンスキー 2017年9月 ル・フラジェ、ブリュッセル セッション録音

ルガンスキーらしい素晴らしい音で描き上げる見事な演奏。


ラフマニノフのピアノ・ソナタ第2番は以下のCDで予習しました。

  ウラディミール・ホロヴィッツ 1980年4月13&5月2,4,11日、ボストン、シンフォニー・ホールおよびニューヨーク・エイ
ヴェリー・フィッシャー・ホール ライヴ録音

ホロヴィッツ版の演奏です。聴くものを黙らせる演奏ですから、あえて、感想は戒めます。まあ、凄い!



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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aokazuyaさん

コメントありがとうございます。デジタルコンサートホールは当面、これきりですが、毎週末、聴かれているんですね。ファゴットのシュテファン・シュヴァイゲ

03/03 23:32 sarai

DCHは私も毎週末、楽しみに聞いています。
・スーパースターには、ファゴットのシュテファン・シュヴァイゲルトの名も挙げたいところです。
・清水直子さん後半のみ登場、D

03/01 19:22 aokazuya

金婚式、おめでとうございます!!!
大学入学直後からの長いお付き合い、素晴らしい伴侶に巡り逢われて、幸せな人生ですね!
京都には年に2回もお越しでも、青春を過ごし

10/07 08:57 堀内えり

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai
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