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クリスティーン・ガーキーを中心に強烈に光り輝く《エレクトラ》 1回目 ノット&東京交響楽団@ミューザ川崎シンフォニーホール 2023.5.12

昨年の超絶的とも思えた《サロメ》に続き、今年は《エレクトラ》。期待するなというのが無理な話ですが、今度もやってくれました。昨年の《サロメ》はタイトルロールのアスミク・グリゴリアンの強烈な歌唱がすべてと言ってもいい内容でしたが、今年はバランスよく、すべてが存在感を放つ演奏でした。無論、《サロメ》以上とも言っていいR.シュトラウスの油の乗り切った先鋭的な世界が展開されました。そうそう、このオペラはホフマンスタールが台本を書いて、R.シュトラウスとコンビを組んだ最初の記念碑的な作品でもあり、ホフマンスタールの詩人としての才能が最高に光るものでもあり、今日の公演でも歌手たちが豊かな表現力を発揮していました。今日に限りませんが、この《エレクトラ》を聴くと、この後、古典回帰してしまうR.シュトラウスの作品が甘ったるく感じて、物足りなくなってしまいます。今日の演奏は実に先鋭的かつ強烈でその印象はさらに深まってしまいます。ある意味、R.シュトラウスの最高の芸術を味わった思いに駆られました。

冒頭、アガメームノンのモティーフがオーケストラで奏せられ、すぐに侍女たちの狂ったような歌唱が始まります。侍女たちはみな日本を代表するような歌手たちで驚くほどの声の張りが響き渡ります。そして、満を持して、ずっとステージ上にいたエレクトラ役のクリスティーン・ガーキーが深い響きの声で長いモノローグを歌っていきます。中低音は深く、高音は鋭く、圧倒的な声量をその巨体を震わせて歌います。ワーグナーソプラノを連想します。ワルキューレのブリュンヒルデです。しかし、表現内容はエキセントリックでヒステリックでさえもあります。病的、狂人的です。エレクトラ役はえてして叫びまくるという感じもありますが、ガーキーはその豊かな声量で余裕の歌唱です。このあたりが、素晴らしくもあり、かつ、物足りない感じでもあります。その余裕さ故にどこか醒めている雰囲気もあります。ともあれ、異次元の歌唱であり、オーケストラの響きを抑えて、圧倒的な存在感を示し、実際、物理的にも彼女の歌声だけが聴衆の耳をつんざくような具合に響きます。超大編成の東響の響きは彼女の歌の合間に聴こえるという感じですが、《サロメ》の時とは比較にならないような充実の響きです。コンサート形式ということもありますが、歌付きの交響詩という風情も感じられます。実際、攻撃的なフレーズを聴くと、R.シュトラウスの交響詩による浮遊感を抱きます。

クリソテミス役のシネイド・キャンベル=ウォレスが登場し、エレクトラとのダイアローグ的な歌唱を繰り広げます。クリソテミスは音楽的にはエレクトラと対立関係にあり、常識的な個性を調性のある音楽で表現していきます。実際、シネイド・キャンベル=ウォレスは声量的も小さめ(ガーキーの声量が圧倒的であるせいですが)で、しなやかな歌声です。彼女は終盤ではもっと歌い上げますが、ここでは強烈な個性のガーキーのアンチテーゼ的な役割に終始します。

次いで、クリテムネストラ役のハンナ・シュヴァルツが登場。このクリテムネストラ役は歌手が「キャリアの秋」に歌う古典的なキャラクター役のひとつだそうですが、この役を歌うということはかつての名歌手だった証しでもあります。7年前、新国立劇場の《イェヌーファ》で《ブリヤ家の女主人》を素晴らしい歌唱で驚かせてくれて、そのときでさえ、まだ、歌っていたとは思っていませんでした。そのときに調べてみたら、最後に聴いたのは1993年の《トリスタンとイゾルデ》のブランゲーネ役でした。ワーグナーの楽劇に欠かせない人でした。その新国のときも72歳で現役と驚きましたが、今回はさらにお歳を重ねられて、79歳の筈です。無論、声量がどうだということを言っても意味がありませんが、表現力、声の美しさは一級品です。悪役というよりも健気さを感じ、こういう人を殺さなくてもいいのにという印象を受けてしまいます。ガーキー演じるエレクトラはその健気な母親のクリテムネストラを容赦なく責め立てます。ある意味、年寄りいじめですが、爽快な印象もあります。ガーキーはどんどん音楽的に高潮していきます。

笑いながら退場するクリテムネストラと入れ替わりに再登場するクリソテミス役のシネイド・キャンベル=ウォレスが弟オレストの死を告げます。それを契機にエレクトラは妹クリソテミスに母の殺害を手伝わせようとそれまでの狂人的な歌唱から一転して、長調の明るい歌唱で説得しようとします。ガーキーは複雑な個性を歌い分ける難しい箇所も難なく歌い上げます。実に見事な歌唱力と言わざるを得ません。

エレクトラの説得を拒絶して退場したクリテムネストラを罵り、エレクトラは一人で母殺害を決意。そこに遂に弟オレスト役のジェームス・アトキンソンが登場。残念ながら、男声陣は女声陣に比べ、迫力に欠けます。まあ、そういうオペラですけどね。オレストに再会したエレクトラは喜びますが、同時に今の自分の無様な姿を恥じ入ります。また、ここでガーキーは繊細極まる表現力を駆使して、音楽に深みを与えます。声量だけでは乗り切れない役どころを素晴らしく表現します。

そして、いよいよ、音楽は佳境に入っていきます。エレクトラは家に入っていったオレストが母を殺害するシーンを聴き入ります。このシーンは遂にノット指揮の東響が音楽でその残酷なシーンを描き出します。主役に躍り出た東響がおどろおどろしい音楽をベースや管楽を駆使して素晴らしく表現します。

最後の人物、母親の情夫であるエギスト役のフランク・ファン・アーケンの登場です。ここでも偽善的な個性に扮したエレクトラをガーキーが実に気持ちよく歌い上げます。一人何役という超人的な歌唱をやってのけます。そして、エギストは家に入り、オレストに討たれます。エレクトラの復讐劇の完成です。クリソテミスが現れて、オレストの出現と仇討ちを誇らしげに語ります。

そして、音楽は大団円へ。狂乱するエレクトラは踊りながら崩れ落ち、そのまま死の奈落へ。素晴らしい響きの東響はオレストのモティーフを強烈に繰り返し、圧倒的なフィナーレ。誰もが熱狂の渦に。

2023051201.jpg



演出監修のサー・トーマス・アレンがどれほどの仕事をしたのか、うかがい知れませんが、コンサート形式でありながら、この迫力の舞台を作り上げたのですから、見事としか言えません。心理劇という難しいものを深い洞察力で仕上げた知性には感服するしかありません。

明後日も同じプログラムをサントリーホールで聴きます。今日聴いたエレクトラ以上のものは想像できませんが、実に楽しみです。きっと、今年最高の音楽体験になるでしょう。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:ジョナサン・ノット
  演出監修:サー・トーマス・アレン
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:小林壱成

  エレクトラ:クリスティーン・ガーキー
  クリテムネストラ:ハンナ・シュヴァルツ
  クリソテミス:シネイド・キャンベル=ウォレス
  エギスト:フランク・ファン・アーケン
  オレスト:ジェームス・アトキンソン
  オレストの養育者:山下浩司
  若い召使:伊藤達人
  老いた召使:鹿野由之
  監視の女:増田のり子
  第1の侍女:金子美香
  第2の侍女:谷口睦美
  第3の侍女:池田香織
  第4の侍女/クリテムネストラの裾持ちの女:髙橋絵理
  第5の侍女/クリテムネストラの側仕えの女:田崎尚美
  合唱:二期会合唱団


最後に予習について、まとめておきます。

 R.シュトラウス:『エレクトラ』(ザルツブルク音楽祭2010)

  エレクトラ:イレーネ・テオリン(ソプラノ)
  クリテムネストラ:ヴァルトラウト・マイヤー(メゾ・ソプラノ)
  クリソテミス:エファ=マリア・ウェストブローク(ソプラノ)
  エギスト:ロバート・ギャンビル(テノール)
  オレスト:ルネ・パーペ(バリトン)、他
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
  ダニエレ・ガッティ(指揮)

  演出:ニコラウス・レーンホフ
  装置:ライムント・バウアー(舞台装置)
  衣装:アンドレア・シュミット=フッテラー

  収録時期:2010年
  収録場所:ザルツブルク、大祝祭劇場(ライヴ)

さすがにウィーン・フィルで聴くR.シュトラウスは見事。キャストも豪華で隙もなく、特にガッティの指揮は特筆すべきものです。



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