イザベル・ファウストの心に沁みる内省的なベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲 ベルナルト・ハイティンク&ベルリン・フィル@ベルリン・フィルハーモニー(配信) 2015年3月6日
近く、都響でヴァイオリンのネマニャ・ラドゥロヴィチでベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を聴くので、予習も兼ねて、聴くことにしました。
無論、巨匠ベルナルト・ハイティンク、ドイツを代表するヴァイオリニストのイザベル・ファウストの共演ということに心を惹かれたこともあります。
まず、8年前はハイティンクはこんなに元気だったことに驚きます。すたすたとファウストと連れ立って、ステージに歩いてきます。すっと立って、彼らしい自然な棒さばきでベルリン・フィルを指揮します。当時、86歳という高齢だったとは思えないお元気な姿です。もっとも、この年の秋、ロンドン交響楽団を引き連れて、来日公演したハイティンクもたっぷりと聴いています。さらにはその2年後、わざわざ、ザルツブルクまで遠征して、ザルツブルク音楽祭でのウィーン・フィル公演でマーラーの交響曲第9番を2回も聴きました。88歳の巨匠の告別の音楽を聴いたのがハイティンクとのお別れでした。その2年後、ハイティンクは引退し、さらに2年後、死去。2年前のことです。そういう感傷の念に駆られながら、映像を眺めます。冒頭は自然で抑制気味の演奏です。
そして、当時42歳の気鋭のヴァイオリニストだったファウストが独奏ヴァイオリンを弾き始めます。あまりの自然な表現に虚を突かれる思いです。巨匠ハイティンクが指揮するベルリン・フィルに対して、気負うこともなく、美しいヴァイオリンの響きで切々と音楽を奏でていきます。それは実に内省的な音楽を志向するものです。ベートーヴェンのこの協奏曲でこういう演奏を予期していなかったので、半ば唖然としてしまいます。しかし、よく考えてみれば、この曲はそういう音楽なのかもしれません。ベートーヴェンが晩年に達することになる孤高の境地、辛くさびしい諦念の音楽へ続く道です。そして、それこそが、ドイツ音楽の本流であろうと信じて疑いません。ファウストこそがドイツ本流の音楽の継承者として、こういう内省的な音楽(saraiは女々しい音楽と思っています。無論、いい意味です。)を奏でることのできる音楽家であり、それは、シューマン、ブラームスでも発揮されます。対して、ハイティンクは時折、オーケストラパートで重厚な響きに満ちたヒロイックな音楽を奏でます。ファウストの内的な表現と対比して、音楽の妙を感じます。第1楽章の終盤はカデンツァをファウストが弾き始めます。聴き慣れないカデンツァです。これはベートーヴェン自身によるピアノ協奏曲版のカデンツァをヴァイオリン用に移し替えたもので、クリスティアン・テツラフが編曲したものです。カデンツァの後半ではティンパニとの協奏になるという面白い趣向です。
第2楽章にはいると、ベルリン・フィルも情緒に満ちた表現の音楽を奏で、ファウストのさらなる内的な表現と絡み合っていきます。もう、うっとりとその精神性に満ちた音楽に耳を傾けるのみです。カデンツァの後、ファウストとハイティンクが目を合わせて、呼吸を合わせて、第3楽章のロンドの軽やかな音楽にはいっていきます。さすがにここでは内省よりも軽やかなステップの流れに乗っていきます。最後はまた弱音で内省的な音楽を極めた後、一気に音楽を終えます。
巨匠ハイティンクの古典に根差した安定した音楽表現と気鋭のファウストの個性的でかつ、ドイツ本流を思わせる内省的な音楽表現がマッチした素晴らしいベートーヴェンの協奏曲に深く心の感銘を受けました。
なお、アンコールのクルタークのヴァイオリン独奏曲は現代的な作品ですが、内省的な音楽ということで、今日のベートーヴェンの音楽と共通項を持ったものでした。ファウストがしばしばアンコールで好んで取り上げる作品ですね。
この日のプログラムは以下です。
2015年3月6日、ベルリン・フィルハーモニー
指揮:ベルナルト・ハイティンク
ヴァイオリン:イザベル・ファウスト
管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 Op.61
《アンコール》ジェルジ・クルターグ:穏やかに、夢見ながら(シュテファン・ローマスカヌの思い出に)
なお、この日のコンサートでは、その他、以下の曲も演奏されました。(未聴)
ベートーヴェン:交響曲 第6番 ヘ長調 Op.68《田園》
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