アンガス・ウェブスターと東響による初々しいブラームスの交響曲第4番@東京オペラシティコンサートホール 2023.9.30
今日の東響のコンサートマスターは客演の関 朋岳。若手の弦楽四重奏団、チェルカトーレ弦楽四重奏団の第1ヴァイオリンとして、活躍している逸材です。なお、チェルカトーレ弦楽四重奏団の第2ヴァイオリンは戸澤采紀が弾くという豪華な顔ぶれで、いつも美しいアンサンブルを聴かせてくれています。今後、関 朋岳は東響のコンサートマスターとしても活動してくれるのでしょうか。
前半はまず、英国出身の現代音楽作曲家、アンナ・クラインの《彼女の腕の中で》です。弦楽5部、各3人ずつ、計15人で、立奏します。この曲はアンナ・クラインが彼女の母の死を悼みつつ、ベトナムの平和活動家のティク・ナット・ハンの詩(メッセージ)にインスピレーションを得て、書き上げたものです。詩の内容はベトナム戦争で亡くなった人は母なる大地の腕に抱きしめられて、野の花として再生するという感動的なものです。弦楽アンサンブルがレクイエムのように美しい演奏を聴かせてくれて、思わず、感動してしまいました。生きとし生けるものへ捧げる挽歌です。音楽を超えた何かがそこにありました。無論、現在進行中のウクライナ戦争への思いも込められて、聴く者はそこへの思いも新たにしなくてはなりません。
次はオーケストラ演奏へステージの模様替えをして、エルガーの海の絵が演奏されます。これは5曲からなるオーケストラ伴奏付きのコントラルト独唱曲です。イギリスの若手コントラルトのジェス・ダンディの気持ちのこもった歌唱でした。英国風の調べに心が浮き立つパートもあり、楽しく聴けました。2曲目の作詞はエルガーの妻アリスによるもの。エルガーの妻アリスへの思いを感じ、ほのぼのとします。
後半は一転して、本格的なドイツ・オーストリアもの。ブラームスの交響曲 第4番です。
どういう演奏になるか、第1楽章の冒頭、身構えます。うん、なかなか、よいテンポです。早からず、遅からず。理想的なテンポでアンガス・ウェブスターは手をゆらゆらさせながら、たゆたうような音の流れを形づくっていきます。しかしながら、弦のアンサンブルが少々、固くなっています。本来、もっと柔らかい響きが欲しいところです。第1楽章の再現部あたりになって、響きは固いなりにまとまった美しいものになります。この後は初々しさのある清々しい響きで見事な演奏が続きます。第2楽章のアンダンテの弦楽合奏は特に美しい演奏でうっとりと魅了されました。第4楽章は高潮して、コーダはなかなかの盛り上がり。こういう若々しい演奏もいいものです。
今日のプログラムは以下のとおりです。
指揮:アンガス・ウェブスター
コントラルト:ジェス・ダンディ
管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:関 朋岳
アンナ・クライン:彼女の腕の中で
エルガー:海の絵 Op.37
《休憩》
ブラームス:交響曲 第4番 ホ短調 Op.98
最後に予習について、まとめておきます。
1曲目のアンナ・クラインの彼女の腕の中でを予習した演奏は以下です。
エリム・チャン指揮フィルハーモニア管弦楽団 2021年8月13日 ロンドン、ロイヤルフェスティバルホール ストリーミング コンサート(YouTube)
とても美しい演奏です。
2曲目のエルガーの海の絵を予習したCDは以下です。
ジャネット・ベイカー、ジョン・バルビローリ指揮ロンドン交響楽団 1965年8月 セッション録音
ジャネット・ベイカーの名唱。
3曲目のブラームスの交響曲 第4番を予習した演奏は以下です。
キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 2020年8月28日、ベルリン・フィルハーモニー ライヴ映像(デジタル・コンサートホール)
首席指揮者キリル・ペトレンコ指揮による2020/21年シーズンのオープニング・コンサート。とても柔らかなアンサンブルによる素晴らしい演奏。今秋の来日公演でもこのコンビの演奏が聴けます。楽しみですね。
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