ジョナサン・ノット教授の現代音楽実験工房という風情の格調高いコンサート@東京オペラシティコンサートホール 2023.11.17
前半の4曲はドビュッシーを除くと、古いものでもリゲティ。新しいものはまだ、作曲して10年経っていないアマンの作品という現代作品。それも最近はやりのやわな現代作品ではなく、ばりばりの格調高い作品。現代ものを得意にするジョナサン・ノットはいともたやすく流れるような美しい指揮でこなします。ノットの知性の高さには恐れ入ります。凄い演奏に圧倒されました。
まずは今年、生誕100年のリゲティ。このアパリシオンはノットがベルリン・フィルを指揮して世界初録音したものです。いわば、ノットはリゲティの権威です。その演奏は理解したとは正直言えませんが、自信みなぎる流麗な指揮で微塵もゆるがないものでした。リゲティの作品によくあるような、宇宙空間の無の世界から開始して、次第に原子、分子、生命体が出現するというイメージが浮かび上がるような難解でありながら、心を励起させる音楽です。題名のアパリシオンはフランス語で幻影とか出現という意味なので、美術の世界のギュスターヴ・モローの《出現L'Apparition》を連想して、イメージしていました。この絵はサロメが指さす先に突然、出現した洗礼者ヨハネの生首が浮かび上がっています。

By Gustave Moreau - Gustave Moreau, 1876, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=19585188
ともあれ、何とも素晴らしいリゲティでした。
次のドビュッシーの3つの夜想曲より 「祭」は一転して、分かりやすい音楽に聴こえます。ここではノットは浮き立つような音楽を披露してくれました。時代を少しだけ遡ると、音楽はこんなに形を変えます。
次はブーレーズのメサジェスキス。 独奏チェロと6つのチェロという7人と指揮者ノットだけの演奏。チェロのさざ波のような音響、そして、無窮動的な音楽です。ブーレーズにしてはとっても分かりやすい音楽ですが、演奏は超難しそうです。東響のチェロ・セクションが総力を上げての演奏でした。伊藤文嗣の素晴らしいチェロ演奏が印象的でした。
前半の最後はディーテル・アマンが2016年に完成させたグラットGlut。まだ、作曲されて、7年ほどの現代音楽。オーケストラが様々な音響を奏でる派手な作品です。これも演奏が難しそうですが、ノットはまるでモーツァルトでも演奏するように流麗な指揮です。その美しい指揮を見ていると何とも簡単そうですが、オーケストラは汗をかいて演奏していました。
この前半だけでも聴きものでした。こんなものが演奏できるのはジョナサン・ノットを音楽監督に持つ東響だけですね。ジョナサン・ノットを聞き始めてから、現代音楽が近い存在になりました。とりわけ、リゲティは素晴らしい。
後半はごくふつーの音楽。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番《皇帝》です。ゲルハルト・オピッツが予想を上回る美しい演奏を聴かせてくれました。まあ、前半ほどのインパクトはありませんでしたけどね。
今日から、saraiの黄金の10日間がスタートします。明日は新国立劇場でオペラ。そして、ウィーン・フィル、ベルリン・フィルと続きます。東京は素晴らしく音楽文化が享受できる街です。
今日のプログラムは以下のとおりです。
指揮:ジョナサン・ノット
ピアノ:ゲルハルト・オピッツ
チェロ:伊藤文嗣(東響ソロ首席奏者)
管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:景山昌太郎(客演)
リゲティ:アパリシオン
ドビュッシー:3つの夜想曲より 「祭」
ブーレーズ:メサジェスキス ~独奏チェロと6つのチェロのための~
アマン:グラット
《休憩》
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 op.73 「皇帝」
最後に予習について、まとめておきます。
1曲目のリゲティのアパリシオンを予習した演奏は以下です。
ジョナサン・ノット指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 リゲティ・プロジェクト2 2001年 セッション録音
リゲティの晩年に録音されたアルバム、リゲティ・プロジェクト(5CD)に含まれるリゲティのスペシャリスト、ジョナサン・ノットがベルリン・フィルを振って世界初録音した演奏。リゲティも立ち会ったようです。
2曲目のドビュッシーの3つの夜想曲より 「祭」を予習したCDは以下です。
フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮ル・シエクル 2018年1月、フィルハーモニー・ド・パリ セッション録音
ロトとル・シエクルによる作曲当時のオリジナル楽器を使った演奏。色彩感あふれる演奏です。
3曲目のブーレーズのメサジェスキスを予習したCDは以下です。
ジャン=ギアン・ケラス、ピエール・ブーレーズ指揮パリ・チェロ・アンサンブル 1999年10月、シテ・ド・ラ・ムジーク、パリ セッション録音
ブーレーズ監修による決定盤。
4曲目のアマンのグラットを予習した演奏は以下です。
チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団 YOUTUBE
https://www.youtube.com/watch?v=pDNyvfoHjdE&list=PLFWHEZH48SJpkygeD-Km0yPv5MIqY-81l&index=1
音響の洪水。
5曲目のベートーヴェンのピアノ協奏曲 第5番「皇帝」を予習した演奏は以下です。
内田光子、サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 2010年2月14日、ベルリン・フィルハーモニー ライヴ収録 (ベルリン・フィル デジタル・コンサートホール)
内田光子は冒頭こそ、スケール感不足に感じますが、第1楽章終盤あたりから、ピアノが鳴り始め、第2楽章の美しさは筆舌尽くし難しの感があります。ラトル指揮ベルリン・フィルも熱い演奏です。
↓ saraiのブログを応援してくれるかたはポチっとクリックしてsaraiを元気づけてね
いいね!
- 関連記事
-
- 男のオペラ、ヴェルディの歌劇「シモン・ボッカネグラ」なれど、ソプラノのイリーナ・ルングが舞台を支配@新国立劇場 2023.11.18
- ジョナサン・ノット教授の現代音楽実験工房という風情の格調高いコンサート@東京オペラシティコンサートホール 2023.11.17
- 最高レベルのバッハの無伴奏チェロ組曲、アントニオ・メネセスの深い響きのチェロの音色に強く感銘@上大岡 ひまわりの郷 2023.11.12