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ネトレプコ+ガランチャ《アンナ・ボレーナ》@ウィーン国立歌劇場 2011.4.11

アンナ・ネトレプコは決して期待を裏切ることがありません。まだまだ、興奮さめやらないうちに記事を書こうと深夜のウィーンのホテルでPCに向かっています。

さて、今夜のウィーン国立歌劇場の公演は今シーズンの最大の話題の公演といってもいいネトレプコとガランチャの共演する超豪華版の公演です。プルミエが4月2日にあり、その後、5日、8日と公演が続き、今日、11日が4回目です。あとは14日、17日の2回を残すのみ。いずれの公演も発売前に完売という不思議なチケット販売ですが、何とか11日の公演のチケットを2枚確保しました。いわゆるプラチナチケットです。当初の心配はこういう公演だとオペラ好きというよりもネトレプコやガランチャ目当てのミーハーがかなり集まって、せっかくのオペラの雰囲気を台無しにすることもあるんじゃないかということでした。実際、前回、この歌劇場でネトレプコの《椿姫》を聴いたときにはオペラとは異質の聴衆を見かけました。しかし、これは杞憂に終わり、今日は実にオペラを愛する聴衆が集まり、気持ちよくオペラを鑑賞することができました。つまり、オペラに集中できたということです。

今夜のキャストは以下の通りです。

 指揮:エヴェリーノ・ピド
 演出:エリック・ジェノヴェーゼ
 アンナ・ボレーナ:アンナ・ネトレプコ
 ジョヴァンナ・セイモア:エリーナ・ガランチャ
 スメトン:エリザベート・クルマン
 ペルシー卿:フランチェスコ・メーリ
 エンリーコ8世:イルデブランド・ダルカンジェロ
 ロシュフォール卿:ダン・パウル・ドゥミトレシュー
 ハーヴェイ:ペーター・イェロシッツ

名実ともに力のあるネトレプコ、ガランチャ、ダルカンジェロが目立ちますがほかのメンバーもすべて実力のある歌手でまったく隙のない布陣です。

いよいよ序曲に続き、第1幕が始まります。合唱に続き、いきなり、ガランチャが歌い始めます。何と深くリッチな美しい声の響きでしょう。それにホール全体に響き渡る声量の大きさにも驚きます。まったく無理のない歌唱です。メゾソプラノの理想を具現化しているといっても過言でありません。生で聴くのは初めてですが、随分、ヴィデオでは聴いているので、どんな声かは知っていましたが、この深い響きと声量の豊かさには圧倒されます。まるで主役が登場して歌っている貫禄もあります。そうです、歌の力だけでなく、この人はやはり華のある人です。実に堂々たる存在感に満ちています。もちろん、顔も姿も美しいのはいうまでもありません。
で、続いて、ネトレプコの登場です。おっ、今日は最初から実に声が出ています。いつもの澄んだ美しい声です。すぐに魅了されます。もしかしたら、ガランチャを意識して、最初から飛ばしているのかもしれません。そして、いきなり、その2人の掛け合いです。もう、超弩級の歌声でホールの響きが凄いことになっています。それに2人の衣装もイギリスの古典的な衣装でとても豪華で舞台の華やかなこと、素晴らしいです。合唱団の女性(女官役)の衣装までとてもきらびやかで、こんなに豪華な舞台は滅多にあるものではありません。これもウィーン国立歌劇場ならではの実力のひとつでしょう。
スメトンを歌うクルマンはこの難しい役どころをネトレプコ、ガランチャというスーパー歌手にはさまれて、なかなか好演していました。
次はダルカンジェロが登場し、ガランチャとの絡み合いがありますが、もちろん、彼はとても力のあるバリトン。モーツァルトのオペラを歌わせたら、この人以上に歌える人はいないでしょう。で、今日のオペラはドニゼッティですが、何となく、モーツァルトを聴いている感じになってしまうのはご愛嬌です。とはいえ、堂々たる歌い振りで英国王の貫禄を遺憾なく表現しています。ガランチャとの掛け合いの素晴らしいこと、文句なしです。
続いて、ペルシー卿を歌うメーリも張りのある声のテノールで声の伸びが実によい。ネトレプコとの掛け合いも素晴らしく、もっとほかのオペラでも相手役がやれるかもしれません。
まあ、ウィーンの豪華絢爛な舞台に目も耳も奪われているうちに第1幕は完了。大満足です。
ご機嫌で休憩時間はシャンパンで乾杯。
第2幕はまあ凄いの一語。ネトレプコは第1幕はあれはまだ声ならしだったのかという感じです。合唱の後のネトレプコとガランチャの掛け合いは茫然としてしまうほど素晴らしい。ガランチャの豊かで切り込むような響きに対して、ネトレプコは澄んでいて、それに甘さも感じさせる優しい声の響き。この2つの声の響きがぶつかりあい、ホールが響きで満たされます。緊迫感もあります。続くネトレプコ、ダルカンジェロ、メーリの3人の掛け合いも素晴らしい。ダルカンジェロが王の権威を示し恫喝的な響きで圧倒するなか、メーリとネトレプコはリリックに純情な響きの歌を重ねていきます。実にオペラの醍醐味を感じます。続くガランチャとダルカンジェロの絡みもガランチャの深い響きの歌声に魅了されつくしです。
こう書いてきましたが、すべては最後の狂乱の場のネトレプコの絶唱に尽きます。ルチアのような狂乱の場に比べると派手さでは負けるかもしれませんが、底流にある人間の心情という点では遜色ありません。特にホーム・スイート・ホームのメロディーに乗って、ネトレプコが実に美しさの極致を極めた天使の声で祈るように歌うところでは、もう、こちらは心がずたずたで涙が止まりません。何という贅沢な喜びを与えてくれるのでしょう。
この後はネトレプコが一転して強烈な声の響きで狂乱の場、オペラを締めくくります。なんという感動でしょう。もう我を忘れて、ネトレプコの声の響きに身を委ねるのみ。感涙しているのかどうかも分からない状態です。本当にオペラは芸術のなかで自分という存在を根幹から揺さぶってくれます。その源は人間の声。声の力の計り知れない力に今日も翻弄されました。

saraiにとって生きていることを実感するのはオペラを聴いて感動している瞬間です。このために生き、今後もオペラを聴き続ける。それがsaraiの人生。かなり、感傷的になっています。



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この記事へのコメント

1, 佐々木 辰彦さん 2011/04/14 10:33
saraiさんの記事をまったく同感を持って読ませてもらいました。
このオペラは1年前から注目していて必ず観ようと思ってました。
一昨年ロンドンの「カプレーティと 」でネトレプコに振られ、昨年はウィーンの「カルメン」でガランチャに振られ、三度目の正直で二人の共演を観ることができました。4月2日のプレミエはまた異常な雰囲気で、紳士淑女が着飾った中で圧倒されました。
オペラそのものについてはあなたの文章に付け加えることはありません。当日のプログラムによると「ボレーナ」のウィーンでの上演は、まだケルントナートーア劇場当時の1833年以来の様です。
また、このオペラは二人のプリマを揃えなければならず、カラスとシミオナートの名演の壁を越えることができないと言われてきましたが、今回の公演はそれに並んだか、超えたのではないかと思います。その初日の公演を感動とともに感激で来た自分は果報者です。

2, saraiさん 2011/04/15 07:13
佐々木さん、初めまして、saraiです。
コメントありがとうございました。

何と何とプルミエに行かれたんですね。それは凄い。
カラスとシミオナートですか。それも凄いですが、ネトレプコとガランチャも人気だけでなく、実力も認めています。佐々木さんの並んだか、超えたというご意見、同意します。
また、佐々木さんのようにちゃんとご自分の耳で感動・感激できる聴衆あってのオペラだと思います。これからも彼女たちの素晴らしい声を楽しみましょう。
今後ともよろしくお願いしますね。

3, masahikoさん 2011/05/04 00:24
偶然このブログを見つけました。私も4/5~12まで2年ぶりのウィーンでオペラざんまい。本来は2009年5月以来の指輪目当てでいったのですが、こんな凄いアンナボレーナを8日と11日2回聴けました。8日は1幕のフィナーレが最高。今まで聴いたイタリアオペラのなかでもベストかという位、ただ休憩後はイマイチで、ちょっとがっかり。逆に11日は休憩後のネトレプコの調子がよく最後は凄かった。カラスとシミオナートをこえたかも。2回聴けてほんとにラッキー。やはり肉声ですから、その日のコンデションによって微妙にちがうのでしょう。
あとはワルキューレのジ―クリンデとフンディングがウィーンデビューのようで注目。2人とも知らない歌手ですがチェックです。
saraiさん。またよい情報あったら教えてください。

4, saraiさん 2011/05/04 01:12
masahikoさん、初めまして、saraiです。

アンナ・ボレーナをウィーンで聴いた希有な存在の日本人がこれで3人(saraiの配偶者も入れて4人)揃いましたね。いずれも熱狂的なオペラフリークのようです。
しかし、あのアンナ・ボレーナは素晴らしかったですね。少なくとも今年1番でした。それを2回も聴くとは、よくチケットを購入できるチャンスと財力がありましたね。羨ましい限りです。saraiも8日の公演もチェックしていましたがリーズナブルな価格のチケットが取れませんでした。
リングも歌手が揃っていたのでよかったことと思います。今回はワーグナーを聴く心境になかったのでパスしました。
また、当ブログにもお越しください。次はメトの6月の公演をレポートします。何といってもドン・カルロが期待です。

5, masahikoさん 2011/05/04 17:23
saraiさん。アンナボレーナのチケットは8日がパルケット最前列R6。11日はガレリーのハルブミッテ最後列で両方とも生まれてはじめて額面の3倍だしました。佐々木さんのようにネトレプコのキャンセルに会った人はたくさん知っているので、だした価値はあったと思っています。ネトレプコはウィーンの10-11シーズンではこれしかでないので、キャンセルなしと予想していました。あと8日はとなりに関西からきたご夫妻が、11日はとなりにウィーン在住の日本人の方がいたので、すくなくともあと3人このアンナボレーナを聴いています。

6, masahikoさん 2011/05/04 17:24
続き
私は熱烈なワグネリアンで、最近のウィーンでは2006の2月のトリスタン(3回聴きました。このときウィーンは凄い寒波でマイナス15℃位、あとバラを2回、テアターのイドメネオを2回聴き、毎日ワイン漬けでした)と2009年5月の指輪の新演出が印象に残っています。あとどうしてもウィーンのボリスゴドノフが聴きたくて2007年の5、6月にも行きました。このときはボリスよりもボータ、ストックマン、フリットーリのオテロが素晴らしく(2回聴きました)またコンビチュニー演出のフランス語版のドンカルロが面白かったです。このドンカルロの演出は超斬新で(ブーイングも凄い)見てなければお勧めします。1991年はじめてウィーンに行ってから今回で15回目ですが、仕事の関係でしばらくいけません。ぜひまたいろいろ情報ください。それでは。

7, saraiさん 2011/05/04 18:58
masahikoさん、再度の詳細なコメント、ありがとうございます。

こちらはウィーンで初めてオペラを観たのが1990年ですから、masahikoさんとほぼ同時期ですね。ただ、今回でウィーンは8回目ですから、回数はほぼ半分。最近は厳選してオペラを観ているので、シュターツオーパーでのオペラは通算15回です。最近では、2009年5月のネトレプコの椿姫、特に後半の素晴らしかったこと! 2007年5月のグルベローヴァのルチア、これも後半、それも狂乱の場の凄さ! 2006年5月のオランダ人はオケ、歌手、演出、セット、・・・すべてがパーフェクトでした。ちなみに指揮はオザワでしたが彼の指揮では最高のものでした。思い出としては1992年のフレーニのミミを聴けたのが感動でした。
また、おいでください。熱く語り合いましょう!

8, レイネさん 2011/12/10 19:10
最新の旅行記事から、saraiさんが4月にウィーンで『アンナ・ボレーナ』をご覧になってることを知り、
遅ればせながらコメントさせていただきます。(ホルバインの絵の下にこの記事へのリンクがあると便利)
現地ではなくTVのライブ中継で「アンナ・ボレーナ」を観賞したので、歌手の声や歌唱などは生ではないのでなんともコメントしがたいので、ブログ記事にはコスチュームのことを主に書きました。まるで、ホルバインの絵から抜け出たような登場人物の美しさにうっとりでした。(10月のメトのプロダクションでは、もっと凝ったコスチュームだったようですが)

ネトレプコとガランチャの黄金コンビによる『カプレッティとモンテッキ」を2009年にロンドンで観賞しました。翌日のサラ様ダイドーが第一目的でロンドンに行ったのですが、この二人の方に圧倒されました。

9, saraiさん 2011/12/11 02:15
レイネさん、こちらへもコメントありがとうございます。
ところで、ローマ歌劇場《エレクトラ》の記事にsteppkeさんからレイネさんにコメントがついています。左の『最新のコメント』欄からリンクできます。

確かに衣装はホルバインそのものでしたね。それにしてもあの2人は凄かった。レイネさんもロンドンに遠征してプラチナコンビを聴いたのですね。メトはガランチャの出産でプラチナコンビは実現しませんでしたね。4月のウィーンでガランチャのオクタヴィアンのチケットを購入しましたが、どうなることやら。今が旬の2人からは目が離せません。

10, 佐々木 辰彦さん 2012/01/06 22:13
 久しぶりにsaraiさんのブログを見て、年末に3回ほどコメントを入れたのですが届かなかったようです。(システムエラー?)
 このオペラ、昨年11月12日にTVで放映されたのをビデオに撮り、繰り返し繰り返し観てはあの夜の感動と至福なひとときを再現しています。5列目にいた自分は残念ながら写っていませんでした。
 saraiさんの最近の記事で4月の「ばら騎士」の件ありましたが、私も絶対観なくてはと思って計画していたところでした。他の演目やコンサートの関係で15日の公演にしようと考えていますが、もし差し支えなかったらsaraiさんがGETされたチケットの公演日を教えていただければ嬉しいです。よろしくお願いします。

11, saraiさん 2012/01/06 23:32
佐々木さん、お久しぶりです。

年末にコメントいただいたそうですが、こちらには届いていませんでした。当方のブログサイトに問題があったのかもしれませんね。申し訳けありませんでした。

TV放映の件、知りませんでした。クラシカ・ジャパンだったんですね。ウィーンではDVDが販売されていましたが購入しませんでした。
さて、4月の「ばら騎士」ですが、15日はベルリンに遠征中でベルリンから戻った18日のチケットを購入しました。なお、前日の17日は「ウェルテル」を見るつもりです。こちらはまだチケット未購入です。

12, 佐々木 辰彦さん 2012/01/07 15:25
 「ウェルテル」は14日に計画しています。これも欲を言えばガランチャのシャルロッテで観たいところですが…。「ばら」のシュテンメは以前ウィーンで「オランダ人」のゼンタで観て彼女の才能に感心しましたが、その後頭角を現し今やワーグナーソプラノの第1人者ではないでしょうか。またパーションも09年のザルツで「コジ」のフィオルディリージで好演してましたね。
 4月のウィーンでは「ばら」が主目的ですが「パルジファル」とキュッヒル四重奏団によるショスタコのSQも聴きたいのでsaraiさんの1サイクル前の観劇になります。またの機会にお会い出来ることを望んでいます。

13, saraiさん 2012/01/07 20:08
「ウェルテル」も1回前の公演を見られるのですね。カサロヴァのシャルロッテですから、文句は言えませんよ。もっとも、カサロヴァがキャンセルして、ガランチャが代役に出たりして・・・なんてこと、ある訳ないですね。「薔薇の騎士」はガランチャ以外も配役がいいですね。楽しみです。「パルジファル」はベルリン遠征前の8日のチケットを購入済みです。これもティーレマン、デノケ、シュトルックマンと豪華ですね。完売必至のチケットでしょう。ティーレマンは楽友協会でのウィーン・フィル定期のシューマンを聴く予定です。いつか、お会いしましょう。
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