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ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会5回目 チクルス最高の頂点、燃え上がるようなアパッショナータ@東京文化会館小ホール 2024.3.20

ウィーンの巨匠ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会、今日は全7回のうち、5回目です。

もう気が付けば、これが5回目です。前回まではどんどん上り詰めて、遂に後期ソナタの大曲《ハンマークラヴィア》で最高の演奏。今回はブッフビンダーはベートーヴェンの中期ソナタの最高傑作《アパッショナータ》を美しく壮大に演奏してくれました。今回のチクルスの華となるでしょう。無論、最後の回で弾かれる後期3ソナタは別次元の音楽ですが、古典派のソナタは今日の演奏が極限のものであると疑いません。それにしても依然として衰えを知らない巨匠としてのブッフビンダーの颯爽として、風格のある演奏をここ日本で聴くことができて、幸せです。


今回の最初の曲は第2番のソナタです。初期のソナタを代表するような明快さを湛えた作品です。今回のチクルスでの最後の初期らしいソナタです。第1楽章は決然とした第1主題を中心にした明快な構造の作品でウィーンに出てきた若きベートーヴェンの自信と意気込みが伝わってきます。ブッフビンダーはこの曲でも弱音の美しさをいかした軽快な演奏を聴かせてくれます。アパッショナートと指示のある緩徐的な第2楽章はきっちりしたリズムを低音で刻み、ゆったりした歩みを想像させます。第3楽章はスケルツォの軽快な楽章です。第4楽章は優美さを湛えたロンド。ブッフビンダーの美しいピアノの響きが光る演奏でした。

次は第9番のソナタです。初期のソナタが簡潔な形で結実した本作はベートーヴェンの着実な進歩が現れています。第1楽章は爽やかに流れるような音楽が心地よく響きます。和声の美しさを堪能させてくれながら、最後は最弱音で曲を閉じます。もう初期の最初の頃に見られたような衒いはそこになく、確たる自信に裏付けられた音楽になっています。第2楽章はアレグレットで自然な音楽が駆け抜けます。第3楽章は勢いのあるロンド。溌剌とした音楽が歯切れよく奏でられます。ここでもブッフビンダーの美しい音色の演奏が光ります。

前半最後は第15番《田園》です。第14番《月光》と同時期に書かれた作品ですが、幻想的な作風で革新的に書かれた《月光》と異なり、形式的には古典的な形式を踏襲した作品になっています。次に飛躍するのは第17番《テンペスト》を待つことになりますが、本作でも中期の作品として、新しい音響の追求がなされています。
第1楽章は穏やかな自然の風景を感じさせる音楽が流れゆき、まさに田園風景を感じさせます。第2楽章は優美で歌謡性を感じさせる音楽がゆったりと弾かれます。この楽章はツェルニーによると、ベートーヴェンのお気に入りだったそうで、飽きることなく弾いていたそうです。なるほどね。第3楽章のスケルツォを経て、第4楽章はロンドで、ここでも田園情緒に満たされた音楽が流れます。ブッフビンダーの自然な演奏はこの音楽の真髄をゆくものです。


休憩後、第27番のソナタです。この頃、ベートーヴェンはスランプ期にはいっており、《告別》ソナタを書いて以来、4年の歳月が流れていました。もはや、中期のソナタは書き終えていた時期で、最後の後期に向けての準備中とも言える時期にさしかかっていました。古典派のソナタを確立した後、ソナタ形式から自由になろうという意思が芽生え、それはロマン派への志向ともいうべき歌謡性へのシフトでした。この作品はそういう意味で重要な意味がありますが、無論、ロマン派のソナタを確立するのはシューベルトの天才を待つことになります。
2楽章構成のこのソナタは第1楽章は強い打鍵による主和音に始まる明朗で情熱的な音楽が展開されます。最後は静かに曲を閉じます。第2楽章はロンドソナタ形式で、旋律的で歌うような音楽が展開されます。まるでシューベルト。無論、シューベルトがこのベートーヴェンのロマン派的傾向を継承したわけですけどね。ブッフビンダーの右手の美しい響きがこの曲にぴったりです。

最後はいよいよ、第23番 《アパッショナータ》です。ベートーヴェンの創作期は実り多い中期、いわゆる《傑作の森》に入ります。交響曲では第3番(英雄)、ヴァイオリンソナタでは第9番(クロイツェル)、ピアノソナタでは第21番(ワルトシュタイン)といった傑作が次々生み出され、ベートーヴェンの作風は大きく前進していきます。本作は歌劇《フィデリオ》、交響曲第5番《運命》と同時期に手がけられました。ベートーヴェンの偉大さが横溢する傑作です。これに匹敵するソナタは第21番(ワルトシュタイン)くらいでしょう。後期ソナタは別格としてですが・・・。
いやはや、この演奏について、何も言う言葉はありません。ブッフビンダーはベートーヴェンの偉大さを証明するような演奏をしたと言えば、十分でしょう。美しく、壮大にベートーヴェンの高邁な精神が表現されました。これを聴くためにベートーヴェンのピアノ・ソナタ全作を聴いてきたという思いが胸に去来します。ブッフビンダーもこの曲を弾くためにベートーヴェンのソナタを弾く修行を続けてきたのではないのでしょうか。難しい指回りを高齢のブッフビンダーが高速に実現している姿は神々しいものです。これが聴けただけで、今回のチクルスを聴いた甲斐がありました。

すると、アンコールで何と《月光》の第3楽章が演奏されます。今日は休日で聴衆席は満席。凄いサービスですね。《アパッショナータ》に劣らないような素晴らしい響きの音楽が演奏されます。初日の演奏を上回るような素晴らしいものでした。今日だけの聴衆は《アパッショナータ》と一部とはいえ《月光》まで聴けた幸運な聴衆ですね。


明日は、《悲愴》と《ワルトシュタイン》が演奏されます。今日の演奏に並ぶような演奏が聴けるでしょうか。ブッフビンダーの渾身の演奏が続きます。


今日のプログラムは以下です。


 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会 V

  ピアノ:ルドルフ・ブッフビンダー
  
 ベートーヴェン:ピアノソナタ

  第2番 イ長調 op.2-2
  第9番 ホ長調 op.14-1
  第15番 ニ長調 op.28《田園》

   《休憩》

  第27番 ホ短調 op.90
  第23番 ヘ短調 op.57《アパッショナータ(熱情)》

   《アンコール》
   ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 op.27-2《月光》より 第3楽章 Prestissimo


最後に予習について、まとめておきます。

すべて、ブッフビンダーとメジューエワの以下のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全集を聴きました。

 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ全集 2014年8月 ザルツブルク音楽祭 ライヴ録音

ウィーンの巨匠ブッフビンダー3回目のピアノ・ソナタ全集はザルツブルク音楽祭のライヴ録音です。ともかく、高音域の美しい響きに感銘を覚えました。そして、ベートーヴェンが初期から中期にかけて、音楽的に上り詰めていく様が見事に表現されています。後期は別世界です。

 イリーナ・メジューエワ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 2020年6月~7月、新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音

メジューエワの2回目のピアノ・ソナタ全集はコロナ禍の際に録音されました。予定していたチクルスが中止になったのを機に録音したものです。メジューエワらしい力強いタッチの演奏。まったく隙のない演奏です。



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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

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昨日は祝日でゆっくりオンライン視聴できました。

全盛期から技術的衰えはあると思いましたが、彼のベートーヴェンは何故こう素晴らしいのか…高齢のピアニストとは思えない推進力が感じられました。

会場に行けない身としては本当にライブストリーミングは有り難かったです。
残りのレポートも楽しみにしております。

No title

《あ》さん、saraiです。

結局、最後まで、ご一緒にブッフビンダーのベートーヴェンのソナタ全曲をお付き合い願ったようですね。
こうしてみると、やはり、ベートーヴェンのソナタは単曲ではなく、全曲を聴くと違った味わいがありますね。天才がいかに努力して、上り詰めていくかが分かるようです。

ブッフビンダーはそういうことをちゃんと表現してくれます。見た目は高齢ですが、その音楽の瑞々しさはいささかも衰えていません。

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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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最後までレビューありがとうございます。最後は時間の都合がつかず視聴できず、非常に残念でした。

アンコールも含め好評のレビューを見てますます残念ですが、お陰様でど

04/02 12:33 

michelangeloさん

saraiです。大変、ご無沙汰しています。
このたびは過分なご評価いただき、恐縮しています。

よいコンサート、オペラを聴くと、興奮して、記事を書き過

03/31 01:42 sarai

sarai様

こんばんは。

3月に8回も《トリスタンとイゾルデ》公演が開催される東京は音楽都市です。再び御感想を拝読し、改めて感じるのはsarai様のクラシック音楽オペラ公

03/29 21:28 michelangelo

《あ》さん、saraiです。

結局、最後まで、ご一緒にブッフビンダーのベートーヴェンのソナタ全曲をお付き合い願ったようですね。
こうしてみると、やはり、ベートーヴェン

03/22 04:27 sarai

昨日は祝日でゆっくりオンライン視聴できました。

全盛期から技術的衰えはあると思いましたが、彼のベートーヴェンは何故こう素晴らしいのか…高齢のピアニストとは思えな

03/21 08:03 

《あ》さん、再度のコメント、ありがとうございます。

ブッフビンダーの音色、特に中音域から高音域にかけての音色は会場でもでも一際、印象的です。さすがに爪が当たる音

03/21 00:27 sarai

ブッフビンダーの音色は本当に美しいですね。このライブストリーミングは爪が鍵盤に当たる音まで捉えていて驚きました。会場ではどうでしょうか?

実は初めて聴いたのはブ

03/19 08:00 
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