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ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会6回目 高邁で凛としたワルトシュタイン@東京文化会館小ホール 2024.3.21

ウィーンの巨匠ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会、今日は全7回のうち、6回目です。

今回がこれが6回目となり、最後の回で最後に弾かれる後期3ソナタ以外はすべて弾かれました。中期の傑作《ワルトシュタイン》も意外にさらっと演奏されたという感じです。もはや、このレベルの演奏は当たり前という感覚になりました。前回の中期ソナタの最高傑作《アパッショナータ》ほどの壮大な演奏ではありませんでしたが、とても高レベルの素晴らしい演奏に魅了されました。今回もブッフビンダーが高齢であることは感じさせない高速演奏に驚愕しました。


今回の最初の曲は第11番のソナタです。初期のソナタの最後を飾るような作品ですが、これは実に古典的な響きが第1楽章、第2楽章と続きます。第3楽章に至って、実に典雅なメヌエットが美しく奏でられます。続く第4楽章も爽やかなロンドが耳を楽しませてくれます。後半の2楽章はとても好感を持てますが、ベートーヴェンが自信を持っていたというほどの作品には残念ながら思えません。前作の第10番までの発展がこの作品で後退したようにさえ思えます。ブッフビンダーも心なしか、指慣らしに弾いている(第1楽章、第2楽章)ように感じられました。

次は第20番のソナタです。番号は中期の番号ですが、実際に書かれたのは第19番と一緒に第4番のソナタの前で純然たる初期のソナタです。2楽章制の簡素な形式からしばしばソナチネとされることもあります。しかし、音楽内容的にはとても優れたものです。第1楽章はソナタ形式の美しくまとまった和声が響きます。小気味よく音楽が進行して、きっちりと曲を閉じます。第2楽章は付点のリズムが心地よく刻まれる有名なメヌエットの旋律で始まります。この旋律は「ウィーンの誰もが知る曲」と言っていいほどだったという「七重奏曲」(Op20)の第3楽章にも転用された旋律で、ベートーヴェンもお気に入りだったそうです。ブッフビンダーも美しい音色で気持ちよさそうに弾いていました。

前半最後は第8番《悲愴》です。第14番《月光》と並んで、一番有名な作品ですね。ともかく、ブッフビンダーの素晴らしい演奏で3つの楽章をたっぷり楽しみました。結構、素早い指使いのパッセージもありますが、ブッフビンダーはものともせずにインテンポで弾き抜きます。子供の頃からずっと聴き続けている曲なので、隅々まで知り抜いていますが、何の違和感もなく、するっと耳に入ってくるようなパーフェクトな演奏でした。とりわけ、第3楽章の素晴らしさといったら・・・。


休憩後、第25番のソナタです。ベートーヴェン自身はソナタとは呼ばずにやさしいソナタと言っており、実際、ソナチネとも呼ばれている小品です。
3楽章構成のこのソナタは第1楽章は軽快な音楽が流れていきます。展開部では、手の交差によるパッセージでカッコウの声が繰り返されます。このソナタはそのことから、《かっこう》と呼ばれることもあります。第2楽章はアンダンテで舟歌のように歌謡性の高い音楽が流れます。第3楽章は軽快なロンドですが、さすがにこの時期、小品とは言え、破格の音楽が展開されます。ブッフビンダーはこのソナタを颯爽と弾き抜きます。

最後はいよいよ、第21番 《ワルトシュタイン》です。ベートーヴェンは《傑作の森》という時期とは言え、難聴に苦しんでいました。そこにエラール社から新しいピアノが贈られました。最新の性能のピアノの音色は聞こえにくくなっていたベートーヴェンの耳を刺激するのに十分で、「これまでになく輝かしく壮麗」と評されるピアノソナタが生み出されることになりました。この曲によって、ベートーヴェンはピアノ・ソナタに新しい地平を拓くことになり、《アパッショナータ》も後の後期ソナタもこの曲なしにはありえなかったでしょう。
いやはや、この演奏も素晴らしかった。第1楽章の和音連打の壮烈さ、第3楽章の深い味わいの中、息継ぐ暇のないような音楽の連鎖。この曲でベートーヴェンは頂に達しました。交響曲で第3番《英雄》で交響曲の歴史を書き変えたのと同様です。ブッフビンダーはそのことを証明するような演奏をしてくれました。《アパッショナータ》と同様に美しく、壮大にベートーヴェンの高邁な精神が表現されました。これを持って、チクルスは完了という思いです。明日の後期3ソナタは別次元ですからね。

そう思っていると、ブッフビンダーはアンコールで何と《テンペスト》の第3楽章を弾き始めます。本編での演奏を凌駕するような見事な演奏に聴き入ってしまいました。何せ、saraiがもっとも愛する作品ですからね。何とも魅力にあふれた音楽、そして、演奏でした。明日はきっとアンコールはないでしょうから、最後のアンコールが《テンペスト》とは、何よりのプレゼントでした。


明日は、後期3ソナタ。最後の第32番のアリエッタは胸に迫るものがあるでしょう。ブッフビンダーは最後の持てる力をふりしぼった演奏を聴かせてくれるでしょう。


今日のプログラムは以下です。


 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会 VI

  ピアノ:ルドルフ・ブッフビンダー
  
 ベートーヴェン:ピアノソナタ

  第11番 変ロ長調 op.22
  第20番 ト長調 op.49-2
  第8番 ハ短調 op.13《悲愴》

   《休憩》

  第25番 ト長調 op.79
  第21番 ハ長調 op.53《ワルトシュタイン》

   《アンコール》
   ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第17番 ニ短調 op.31-2《テンペスト》より 第3楽章 Allegretto


最後に予習について、まとめておきます。

すべて、ブッフビンダーとメジューエワの以下のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全集を聴きました。

 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ全集 2014年8月 ザルツブルク音楽祭 ライヴ録音

ウィーンの巨匠ブッフビンダー3回目のピアノ・ソナタ全集はザルツブルク音楽祭のライヴ録音です。ともかく、高音域の美しい響きに感銘を覚えました。そして、ベートーヴェンが初期から中期にかけて、音楽的に上り詰めていく様が見事に表現されています。後期は別世界です。

 イリーナ・メジューエワ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 2020年6月~7月、新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音

メジューエワの2回目のピアノ・ソナタ全集はコロナ禍の際に録音されました。予定していたチクルスが中止になったのを機に録音したものです。メジューエワらしい力強いタッチの演奏。まったく隙のない演奏です。



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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最後までレビューありがとうございます。最後は時間の都合がつかず視聴できず、非常に残念でした。

アンコールも含め好評のレビューを見てますます残念ですが、お陰様でど

04/02 12:33 

michelangeloさん

saraiです。大変、ご無沙汰しています。
このたびは過分なご評価いただき、恐縮しています。

よいコンサート、オペラを聴くと、興奮して、記事を書き過

03/31 01:42 sarai

sarai様

こんばんは。

3月に8回も《トリスタンとイゾルデ》公演が開催される東京は音楽都市です。再び御感想を拝読し、改めて感じるのはsarai様のクラシック音楽オペラ公

03/29 21:28 michelangelo

《あ》さん、saraiです。

結局、最後まで、ご一緒にブッフビンダーのベートーヴェンのソナタ全曲をお付き合い願ったようですね。
こうしてみると、やはり、ベートーヴェン

03/22 04:27 sarai

昨日は祝日でゆっくりオンライン視聴できました。

全盛期から技術的衰えはあると思いましたが、彼のベートーヴェンは何故こう素晴らしいのか…高齢のピアニストとは思えな

03/21 08:03 

《あ》さん、再度のコメント、ありがとうございます。

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03/21 00:27 sarai

ブッフビンダーの音色は本当に美しいですね。このライブストリーミングは爪が鍵盤に当たる音まで捉えていて驚きました。会場ではどうでしょうか?

実は初めて聴いたのはブ

03/19 08:00 
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