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ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会7回目 音楽と一つになれた喜び、感動のフィナーレ@東京文化会館小ホール 2024.3.22

ウィーンの巨匠ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会、今日は全7回の最終回です。

これまでは初期と中期、あるいは後期を組み合わせたプログラムでしたが、最終回は無論、後期の3つのソナタで締めます。それしかないでしょう。それに今回は休憩もなく、3つのソナタを一気に弾きます。何となく、ブッフビンダーの気概が見えたような気がしましたが、そんな生易しいものではありませんでした。
実はこれまでウィーンの巨匠として、美しい演奏を賛美してきましたが、どこか、自分の気持ちに余裕があるというか、全面的に音楽にのめりこんでいなくて、ちょっと遠くから演奏を聴いていました。それはブッフビンダーと自分の心が真に共鳴していなかったとも言えます。まあ、そんな音楽の聴き方もあるので、それはそれでよかったんです。然るに今日は全然違いました。もちろん、ブッフビンダーの演奏が今日はすべての余力をつぎこんだもので、saraiも体調がすこぶるよくて、ブッフビンダーとsarai、そして、ベートーヴェンの魂が完全に共鳴したんです。saraiの集中力がずっと持続して、ブッフビンダーの演奏、それもベートーヴェンの最高傑作の音楽のすべてを受け止めることができました。ベートーヴェンの作品でこの3曲に匹敵できるのは後期弦楽四重奏曲だけです。ブッフビンダーがこれほどの音楽を奏でることができるとは、正直思っていませんでした。巨匠のチカラをみくびっていたようです。心からお詫びを述べたいと思います。現代に生き残った真のベートーヴェン弾きであることを分からせられました。


もう、どの曲がどうだというような分かった風なことは書きたくありません。音楽が魂を揺さぶったというだけです。それも3曲、すべてを通してです。と言いつつ、今日の演奏を思い出してみましょう。

最初のは第30番のソナタは最初の一音から心に響いてきます。第1楽章はとてもソナタ形式に思えません。幻想曲、あるいは前奏曲のようにこの後に続く第31番、第32番の序奏のようにも聴こえます。ブッフビンダーの演奏がとても素晴らしく、こんな演奏を今までどこに隠していたのかと思うほどです。演奏が心に共鳴して、長く長く続きますが、突如終わり、そのまま、続けて、第2楽章にはいります。ここでもソナタ形式は感じられずにただ、幻想曲のような響きが心を高揚させます。そして、いったん、曲を閉じます。少し、間を取って、第3楽章が始まります。何と巨大な変奏曲なのでしょう。ここにこそ、このソナタの実体がありました。ただただ、心が高揚するだけです。もう、これ以上の音楽はありえないと思ってしまいます。音楽と自分の心がシンクロするのが分かります。一瞬、一瞬の音の響きに心が敏感に反応し、どんどん、心が研ぎ澄まされる思いです。果てしなく、変奏が続きます。いつまでも聴いていたくなる最高の音楽です。最後に原型の主題が回想されて、静かに曲を閉じます。圧巻の演奏でした。もう、今日はこれでコンサートが終わっても満足です。

次は第31番のソナタです。美し過ぎる第1楽章が始まり、もはや、先ほどの第30番の素晴らしさを凌駕する音楽であることを悟ります。ブッフビンダーの美しい音の響きは何でしょう。ただ、一音一音に耳を傾けるのみです。この音楽の素晴らしさを表現する言葉が見当たりません。saraiの高揚した心は澄み切っていきます。第2楽章のスケルツォはようやく、ほっと一息つく思いですが、すぐにまた高揚していき、そのまま、第3楽章に入ります。あー、この第3楽章・・・何と言う音楽でしょう。序奏的なレチタティーヴォに続き、《嘆きの歌》が切々と歌われていきます。その崇高さ、哀しさは心に沁み渡っていきます。そして、十分に心が震えたところで、タ、タ、タ、タンと終止します。この終止だけはいつも何か違和感がありますが、ともかく、それに続いて、フーガ、それも飛びっきりの凄いフーガが壮大に展開されます。圧倒的な迫力です。そして、また、再び、《嘆きの歌》が趣きをさらに深めて歌われます。ここで心が崩壊します。感動の極です。水をさすようにまた、タ、タ、タ、タンと終止します。フーガが圧倒的な勢いで展開され、すべてを粉砕して、圧巻の完結を果たします。もう、これで十分でしょう。これ以上の音楽はありえません。しかし・・

最後の第32番のソナタです。ハ短調の第1楽章が華々しく奏でられて、《ワルトシュタイン》、《アパッショナータ》という中期の大傑作を凌ぐ凄まじい情熱を爆発させたような圧倒的な音楽が響きます。これでベートーヴェンのソナタが完結したことが納得させられます。ブッフビンダーのここまで溜めていたチカラを一挙に開放するような勢いです。もう聴いているsaraiの心はずたずたになります。これでこそベートーヴェンです! 第1楽章は最後、ディミヌエンドしてハ長調で終止します。
ハ長調の第2楽章はアリエッタの主題とその変奏曲です。ハ短調⇒ハ長調というのは、交響曲第5番《運命》に代表される勝利の方程式ですが、ここではあまりに美しいアリエッタの変奏曲が流れ、心にカタルシスを覚えさせます。ブッフビンダーの美しい響きはもう、素晴らし過ぎます。そして、アリエッタは次第に高揚していき、心が震えます。最後は静謐に曲を完結させます。

ベートーヴェンの音楽の長い旅路を32曲のソナタを通して、堪能しましたが、この最終日の3つのソナタの凄過ぎる演奏は決して忘れることのないものです。ブッフビンダーのベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会はもう日本で聴く機会はないでしょう。ブッフビンダーの素晴らしいプレゼント、ありがとう!!


あ、アンコールがありました。この後期3ソナタの後に弾く曲などないと思っていましたが、何とシューベルト! そうです。ベートーヴェンのピアノ・ソナタを継承するように素晴らしいピアノ・ソナタを書いたのはシューベルト。とりわけ、遺作の3つのソナタはベートーヴェンと並ぶ大きな嶺です。そのシューベルトに続き、シューマン、ブラームスとドイツ・オーストリア音楽の本流は継承されていきました。素晴らしいシューベルトの即興曲はこの本流の流れを示唆するもので、これ以上のアンコールはありませんでした。それにしても見事なシューベルトでした。ブッフビンダーのシューベルトのソナタは聴いたことがありませんが、どうなんでしょうね。


今日のプログラムは以下です。


 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会 VII

  ピアノ:ルドルフ・ブッフビンダー
  
 ベートーヴェン:ピアノソナタ

  第30番 ホ長調 op.109
  第31番 変イ長調 op.110
  第32番 ハ短調 op.111

   《休憩》なし

   《アンコール》
   シューベルト:4つの即興曲 op.90 D899 より 第4番 変イ長調


最後に予習について、まとめておきます。

すべて、ブッフビンダーとメジューエワの以下のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全集を聴きました。

 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ全集 2014年8月 ザルツブルク音楽祭 ライヴ録音

ウィーンの巨匠ブッフビンダー3回目のピアノ・ソナタ全集はザルツブルク音楽祭のライヴ録音です。ともかく、高音域の美しい響きに感銘を覚えました。そして、ベートーヴェンが初期から中期にかけて、音楽的に上り詰めていく様が見事に表現されています。後期は別世界です。

 イリーナ・メジューエワ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 2020年6月~7月、新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音

メジューエワの2回目のピアノ・ソナタ全集はコロナ禍の際に録音されました。予定していたチクルスが中止になったのを機に録音したものです。メジューエワらしい力強いタッチの演奏。まったく隙のない演奏です。



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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

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最後までレビューありがとうございます。最後は時間の都合がつかず視聴できず、非常に残念でした。

アンコールも含め好評のレビューを見てますます残念ですが、お陰様でどんな様子だったか垣間見ることができました。
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michelangeloさん

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03/31 01:42 sarai

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03/29 21:28 michelangelo

《あ》さん、saraiです。

結局、最後まで、ご一緒にブッフビンダーのベートーヴェンのソナタ全曲をお付き合い願ったようですね。
こうしてみると、やはり、ベートーヴェン

03/22 04:27 sarai

昨日は祝日でゆっくりオンライン視聴できました。

全盛期から技術的衰えはあると思いましたが、彼のベートーヴェンは何故こう素晴らしいのか…高齢のピアニストとは思えな

03/21 08:03 

《あ》さん、再度のコメント、ありがとうございます。

ブッフビンダーの音色、特に中音域から高音域にかけての音色は会場でもでも一際、印象的です。さすがに爪が当たる音

03/21 00:27 sarai

ブッフビンダーの音色は本当に美しいですね。このライブストリーミングは爪が鍵盤に当たる音まで捉えていて驚きました。会場ではどうでしょうか?

実は初めて聴いたのはブ

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