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ジャン・ムイエールの芸術@上大岡ひまわりの郷 2014.10.5

今日は上大岡ひまわりの郷のコンサート・シリーズの2014年秋の1回目。ジャン・ムイエールはフランス室内楽の大御所的存在のヴァイオリニストです。ヴィア・ノヴァ四重奏団の第1ヴァイオリンを弾いていたそうです。そういうわけで、今日のコンサートはすべて、フランス音楽の室内楽でした。フランス音楽を存分に堪能したコンサートでした。

今日のプログラムを紹介しておきます。

  ヴァイオリン:ジャン・ムイエール
  チェロ:ギヨーム・エフレール
  ピアノ:金子陽子

  ラヴェル:ヴァイオリンとチェロのためのソナタ
  ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ ト短調
  ドビュッシー:ピアノ三重奏曲 ト長調

  《休憩》

  サン=サーンス:白鳥(《動物の謝肉祭》より)
  フォーレ:ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ長調 Op.13

   《アンコール》
     シューマン:ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 Op.63より、第2楽章~第3楽章

前半はラヴェルとドビュッシーの作品です。
まず、ラヴェルのヴァイオリンとチェロのためのソナタです。珍しい構成の室内楽です。第1楽章は最初に出てきた音型がずっと繰り返される《ボレロ》的というか、現代のミニマルミュージックにつながるような新しさを感じさせられますが、ムイエールのヴァイオリンの鋭さとエフレールのチェロの安定した響きの対照の妙も興味深く聴けました。第3楽章のレントは無調風の響きが新鮮に聴こえます。全体に起伏が大きい演奏でした。弦楽四重奏を切り詰めたような音楽で豊潤な響きに満ちており、いっそのこと、弦楽四重奏に拡張してほしいとも思えました。なかなかの名曲・名演奏でした。

次はドビュッシーの有名なヴァイオリン・ソナタ。これは実にユニークな演奏です。聴き慣れた演奏とは大きく異なった表現です。一体、どこがこんなに普通と異なる演奏に聴こえるのかと考えていましたが、あの幻想的で抒情的なメロディーラインが切り捨てられて、より鋭角的で表現主義的とも思える攻撃的な演奏になっています。ドビュッシー最晩年の、そして、最後の作品ということで、古典的で落ち着いた演奏が相場になっていますが、ムイエールはあえて、ドビュッシーの新たな飛躍に向けた作品の位置づけと考えたのかもしれません。確かにその後の音楽の流れを先取りしているような音楽のようにも感じられました。いつもこんな演奏を聴かされるのは嫌ですが、今日だけは実に新鮮で熱い響きを楽しめました。面白かったのはこの先鋭的とも言えるヴァイオリンの響きに対して、金子陽子のピアノはいかにもドビュッシーらしい普通の響きだったことです。ある意味、これも対照の妙ですね。

前半最後はドビュッシーのピアノ三重奏曲。最晩年のヴァイオリン・ソナタに対して、これは18歳のドビュッシーの作品です。印象派の旗手であったドビュッシーの作風が確立する前の作品で、ロマン派的な作品です。ロマンティックな美しい曲です。ムイエールの情熱的なヴァイオリンをエフレールのチェロと金子陽子のピアノが安定した響きで支えながら、若々しいドビュッシーを聴かせてくれました。滅多に聴けない作品が見事な演奏で聴けて、満足しました。

休憩後の後半はまずは通俗名曲とも言えるサン=サーンスの白鳥。相変わらず、安定したエフレールのチェロの響き。もっと、歌わせてくれてもいいのにと思わないわけでもありませんが、妙に媚びた演奏よりも上品な演奏のほうがいいので、これはこれでいいでしょう。あっさりとした演奏でした。

最後はフォーレのヴァイオリン・ソナタ第1番。これは実に素晴らしい演奏でした。この日、一番の演奏でした。改めて、このヴァイオリン・ソナタ第1番の素晴らしさも感じさせられました。有名なフランクのヴァイオリン・ソナタはこの曲が作曲された10年後に作曲されたそうで、このフォーレの作品は近代フランスの室内楽を開拓した最初の名曲と言えそうです。ムイエールのヴァイオリンは美しい響きですが、フランス風のお洒落な響きというよりも、そのひたむきな熱さに裏打ちされた先鋭さに特徴があります。フォーレが作り出した抒情的な美しいメロディーを聴衆に熱く語りかけてくれます。精妙な室内楽というよりも熱情的な音楽を感じさせられました。第1楽章から第4楽章まで、その熱い音楽に魅惑されて、じっと聴き入ってしまいました。

アンコールはシューマンのピアノ三重奏曲第1番。特に第3楽章のコラール風のメロディーの素晴らしさは胸に沁み入ってきました。シューマンの室内楽の真髄です。

70歳を過ぎた老ヴァイオリニストであるムイエールの若々しい熱情あふれる演奏に感銘を受けました。




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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
たまには、旅ブログも書きます。

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 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

もろともにあはれとおもへ山ざくら 花よりほか

通りすがりさん

コメント、ありがとうございます。正直、もう2年ほど前のコンサートなので、詳細は覚えておらず、自分の文章を信じるしかないのですが、生演奏とテレビで

05/13 23:47 sarai
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