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トレドはエル・グレコの街:サンタ・クルス美術館のエル・グレコ没後400年の特別展「トレドのギリシャ人」-その2

2014年5月29日木曜日@マドリッド~トレド/10回目

サンタ・クルス美術館のエル・グレコ没後400年の特別展「トレドのギリシャ人」を鑑賞しています。
ここまで、イタリア時代の作品から、スペイン、トレドに移って10年ほどまでの作品を見てきました。これから、エル・グレコが才能を発揮し、次々と傑作を生み出していくことになります。年代順にそれらの傑作を見ていきましょう。

これは《キリスト磔刑と二人の寄進者》です。1585~90年頃の作でパリのルーヴル美術館所蔵です。エル・グレコ44~49歳頃の作品です。磔刑になったキリストのくねった体の曲線が目を引きます。この逆S字型で縦の引き伸ばされた体の表現はエル・グレコの真骨頂とも言えます。エネルギー感に満ちた美を感じます。

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これは《巡礼者としての聖ヤコブ》です。1585~1602年頃の作でトレドのサン・ニコラス教区聖堂所蔵です。エル・グレコ44~61歳頃の作品です。この作品に続く2作品(聖アウグスティヌス、聖フランチェスコ)とともに祭壇衝立を構成していました。この作品では黄金色の壁龕(壁のくぼみ)の中で、、巡礼の杖を持ち、帆立貝を付けた帽子を肩にした聖ヤコブが巡礼者として、すっくと立ち、こちらに視線を送っています。静謐で楚々とした画面に気持ちが癒される思いです。力みのない作品ですが、見れば見るほど見事な出来です。

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これは《聖アウグスティヌス》です。1585~1602年頃の作でトレドのサン・ニコラス教区聖堂所蔵です。エル・グレコ44~61歳頃の作品です。この作品も祭壇衝立を構成しています。宝石を散りばめた豪華な装身具を身に着けた聖アウグスティヌスが背景の青空と雲の前に立ちます。縦長のプロポーションがエル・グレコらしさです。

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これは《聖フランチェスコ》です。1585~1602年頃の作でトレドのサン・ニコラス教区聖堂所蔵です。エル・グレコ44~61歳頃の作品です。この作品も祭壇衝立を構成しています。若き日の聖フランチェスコの清貧さが縦長の画面に描かれ、胸の前の手のポーズがエル・グレコのトレードマークです。

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これは《使徒ペテロと使徒パウロ》です。1587~92年頃の作でロシア・サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館所蔵です。エル・グレコ46~51歳頃の作品です。強い光を浴びて、浮かび上がった二人のキリストの使徒の強固な意志を秘めた姿が印象的です。この時期にはエル・グレコは油が乗りきって、いずれの聖人像も見事な出来栄え。

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これは《芸術家の肖像》です。1595年頃の作でメトロポリタン美術館所蔵です。エル・グレコ54歳頃の作品です。さすがに力のこもった自画像で、存在感のある作品です。画家の自信に満ちた視線の先には何が見えているのでしょう。

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これは《福音書記者聖ヨハネのいる無原罪のお宿り》です。1595年頃の作でトレドのサンタ・レオカディア・イ・サン・ロマン教区聖堂所蔵です。エル・グレコ54歳頃の作品です。これは実に凝った構図になっています。主題は《無原罪のお宿り》でマリアの若々しく美しい姿が中心ですが、それを聖ヨハネが拝み見ています。聖ヨハネはギリシャのパトモス島で幻視を体験し、それを《ヨハネの黙示録》に記していますが、この絵はその聖ヨハネの幻視を表現したものです。この絵を見る我々は聖ヨハネと共にマリアを仰ぎ見るという感じで、画面の中に自然に入り込む仕掛けになっています。右下にさりげなく描かれた花々の美しさも特筆ものです。晩年の傑作に向かって、エル・グレコの筆力は恐ろしいくらい、高まっていきます。

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これは《聖母子と聖女マルティナと聖女アグネス》です。1597~99年頃の作でアメリカのワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵です。エル・グレコ56~58歳頃の作品です。この作品は元々はトレドのサン・ホセ礼拝堂に飾ってあったものです。先ほど訪問した礼拝堂です。今回の特別展でトレドに里帰りした作品ですね。作品の主題はとびっきり美しい聖母子です。天使たちに囲まれたマリアの美しさはどうでしょう。画面下で聖母子を仰ぎ見るのは、二人の殉教聖女です。二人とも純潔を貫き通した聖女で、その二人が純潔なマリアを見上げています。右下で子羊を抱いているのが聖女アグネスと言われており、視線を下に落とした清楚な美しさに魅了されます。左下でライオンの頭に手を置き、棕櫚の葉を持つのが聖女マルティナと言われており、天上を見上げる横顔の美しさは例えようもありません。マリアと二人の聖女の美しさは宗教画の範疇を超えたものです。

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これは《キリストの復活》です。1600年頃の作でセントルイスのワシントン大学ケンパー美術館所蔵です。エル・グレコ59歳頃の作品です。トレド後期の傑作群の始まりを告げるような作品です。この後、もっともっと、画面に力がみなぎるようになり、ぞくぞくと傑作が誕生します。

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これは《キリストの磔刑》です。1600年頃の作でプラド美術館所蔵です。エル・グレコ59歳頃の作品です。これは祈りに満ちた敬虔な作品。これ以上の荘重な悲しみは表現できないでしょう。もう、エル・グレコの筆からは傑作以外が生み出されることはありません。

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エル・グレコの傑作の森に彷徨いこみました。もう、頭の中をエル・グレコの世界が支配して、何を見ているのか、分からなくなっています。次回もエル・グレコの傑作の森を彷徨います。


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