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ミステリアスな一角獣ワールド、東京都交響楽団@サントリーホール 2015.5.29

サントリーホールが聴いたこともないような響きで満たされました。聴覚がとぎすまされて、聴覚の新たな可能性を見い出す思いでした。それはまた、オーケストラがさらなる新鮮な音響を発生できることを再確認することでもありました。フィンランドの女性作曲家サーリアホが作り出した見事な音響空間は実に驚くべきものでした。そして、音楽としても熟成したものだったと言えるでしょう。そもそも、音楽のテーマが実に卓抜したものです。パリのクリュニー美術館に所蔵されている中世フランスのタペストリーの傑作《貴婦人と一角獣》のイメージに触発されて、それを単に描写するのではなく、音楽としてメタファーしたのだそうです。これは今日、演奏に先だって、彼女がプレトークで語った言葉です。そのタペストリー《貴婦人と一角獣》ですが、ここでご覧いただけます。この6枚のタペストリー、実に魅惑的ですね。それに優雅で謎めいてもいます。同じ一角獣(ユニコーン)をテーマとした中世のタペストリーでは、ニューヨークのメトロポリタン美術館の別館、クロイスターズに所蔵されているものも有名ですが、あれは一角獣が狩人たちに追いつめられて、殺されるという悲惨な物語です。やはり、音楽化すべきはパリの《貴婦人と一角獣》です。6枚のタペストリーのテーマは「視覚」、「聴覚」、「触覚」、「味覚」、「嗅覚」、そして、最後の一つは謎のような「わが唯一の望みに」という言葉です。作曲家が下した謎解きは、「わが唯一の望みに(A mon seul désir)」という字句に注目し、アナグラムすることで「D’OM LE VRAI SENS(人の真なる感覚/意味)」という隠された文が見出されるという説です。この《D'OM LE VRAI SENS》が作品の副題にもなっています。すべてを統合する感覚という感じでしょうか。作品はクラリネット協奏曲という形式をとり、6枚のタペストリーをメタファーする6つのパートから成ります。そして、クラリネットが演じるのが一角獣の鳴き声です。プレトークでの解説では、作曲家がタペストリーの前に立ち、一角獣の鳴き声は果たしてどんなものかと想像を巡らせたそうです。そして、作り出した音響はとてもクラリネットが出せる音とは思えない、獣の多彩ないななきの数々。クラリネット奏者のカリ・クリークの超絶技巧にも舌を巻きます。
全編、オーケストラの奏でる夢幻的な響きがマジカルな音響空間を構成し、一角獣の鳴き声を模したクラリネットの響きが聴衆に魔法をかけて、異空間に連れ込むかのような印象を強く感じました。実際、最後の「D’OM LE VRAI SENS(人の真なる感覚/意味)」のパートで音が絶えたとき、魔力に囚われたような感じを覚えたのはsaraiだけではなかったでしょう。異次元の体験でした。
この魔力でsaraiは7月の旅でクリュニー美術館にタペストリー《貴婦人と一角獣》を見に行くしかないと観念しました。タペストリーの前に立つと、この摩訶不思議な音響が頭の中に響き渡りそうです。

2つ目のプログラムはニールセンの交響曲第3番。実はニールセンの交響曲を聴くのはこれが初めてです。6月のウィーンでニールセンの交響曲第5番をウィーン交響楽団(ブロムシュテット指揮)で聴くので、ちょうど、ニールセンの交響曲を聴いているところだったので、とてもよい機会でした。ニールセンの交響曲は爆演か、精密な演奏か、極端になることも多いようですが、今日は指揮者が爆演志向なのに対して、都響がそれなりに上品な演奏(美しい演奏)をしているという微妙なバランスになっているように思えました。リハーサルをもっと重ねると、よく練り上げられた演奏に昇華したでしょうが、それでも、今日のレベルも十分に楽しめる演奏ではありました。作品自体が交響曲第3番は第5番に比べると、素朴な要素が多いので余計にそう感じたのかもしれません。次回はこのコンビで第5番に挑戦してもらいたいものです。このコンビで期待するのは、もちろん、爆演です。
そうそう、予習したCDは以下のものでした。ネーメ・ヤルヴィが卓抜なリズム感覚で見事な演奏を聴かせてくれました。ブロムシュテットは旧盤のデンマーク放送交響楽団を指揮したもののほうが爆演で熱い演奏を聴かせてくれて、面白く聴けました。

 ブロムシュテット指揮デンマーク放送交響楽団
 ブロムシュテット指揮サンフランシスコ交響楽団
 ネーメ・ヤルヴィ指揮イェーテボリ交響楽団

最後に、今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:トーマス・ダウスゴー
  クラリネット:カリ・クリーク
  ソプラノ:半田美和子
  バリトン:加耒 徹
  管弦楽:東京都交響楽団

  サーリアホ:クラリネット協奏曲《D'OM LE VRAI SENS》 (2010)(日本初演)

   《休憩》

  ニールセン:交響曲第3番 Op.27《広がりの交響曲》

ところで、クラリネットのカリ・クリークがアンコール演奏すると見せかけて、クラリネットの接合部を引き抜いてみせたパフォーマンスは最高の技でした(笑い)。完全に引っかかりました。


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